石崎ひゅーい、東名阪ツアー『、&』であいみょんとコラボ 10周年のその先を見せた頼もしい姿
歌声一つで“この人は今喪失の真ん中にいるんだ”と悟らされるような、「ピリオド」のボーカルは何だろうか。客席にいる私たちの中にまでヒリヒリとした感情が流れ込んでくる感じがあり、アウトロのスキャットにも胸を締めつけられる。トオミとの2人アレンジの「ひまわり畑の夜」は7月の恵比寿LIQUIDROOM公演でも披露されたが、あの時とはまた違う入り込み方をしていて、例えば2番Bメロの声色は今までに聴いたことのない種類のものだ。「聞こえるかな?」とギリギリまで前に出てきてマイクを通さずに歌った「アヤメ」を聴いていても、とても繊細な歌い出しによる「花瓶の花」を聴いていても、石崎の内にあるもの全てが歌になって引き出されているような印象を受ける。もちろん土台にはプロとして日々表現を磨いているという前提があるが、それでも“表現”をしているのではない、感じたことを音楽に“乗せている”のでもない、ただただ“出てしまっている”のだと感じさせられるほど、嘘のない歌だ。
「今日のひゅーいさん、見たことないひゅーいさんばっか!」
ここに引用したのはMC中のあいみょんの発言で、あいみょんの言葉に対する石崎の返しが少し不思議な感じだったから彼女はそう言ったのだが、この日のライブを観て私が感じたこともそれに近い。情動が歌になっていくというメカニズム、根本の部分はこれまでと変わらないが、この日はその動きがかつてなく活発で、目まぐるしく、その度に深いところまで潜っているようでもあり……つまり、どこまでも石崎ひゅーいであるがゆえに、今までに観たことのない石崎ひゅーいであるように感じたのだ。
いったい何がそうさせたのか。先のあいみょんの発言に対して石崎は「今ドラマ(10月22日から放送開始の『ジャパニーズスタイル』(テレビ朝日系))の撮影に入ってるしね」と笑っていたが、自分とは違う人格を演じ、共演の俳優から刺激を受ける日々の真っ只中にいることはおそらく無関係ではないだろう。また、このツアーであいみょんや尾崎世界観、崎山蒼志と一緒に歌うことで湧き上がってきた感情もあっただろうし、観客から受け取ったものもあったはずだ。「一人で何でもできる時代だけど、僕は人との繋がり、人との出会いが生み出すパワーを信じていきたいなと思っていて。素晴らしい表現者、ミュージシャン、スタッフ……素敵な出会いがたくさんあって、みんなに助けてもらいながらやっとステージに立っているんだと改めて思います」と石崎。その言葉の通り、他者との相互作用を養分に変え、歌がまだまだ枝葉を伸ばしていく様を直に、リアルタイムで見せることで、10年のその先を示す姿が頼もしかった。