ナナホシ管弦楽団、兎田ぺこらや猫又おかゆらへの楽曲提供での発見 「VTuber界隈は寿司屋でパスタを出すことが成立する」

ナナホシ管弦楽団、ホロメンとの楽曲制作秘話

(猫又おかゆは)ミステリアスな人、底知れない印象がずっとある

毒杯スワロウ / 猫又おかゆ(official)

ーーそして今年7月には、猫又おかゆさんのオリジナル楽曲「毒杯スワロウ」を提供。これまでの2曲とはまた違った、妖しいテイストが魅力の楽曲になりました。こちらはどんなオファーで制作されたのでしょうか。

ナナホシ:おかゆさんから提案いただいたテーマが、ざっくり説明すると羨望や嫉妬といった少しダークな感情、隣りの芝は青く見えるけれど、それはそれで大変なんだろうなっていう、トゲがつっかえているような悶えを感じるものだったんです。で、おかゆさんが僕の「失楽ペトリ」という楽曲の「歌ってみた」動画を出されているのを知っていたのですが、いただいたテーマがたまたまその曲調に合いそうだった(おかゆさん自身からもリファレンスとして挙げていただいていた)ので、秘めてる情熱を表現するようなテイストにしました。

ーーそれが「毒」というワードに象徴されているわけですね。

ナナホシ:そうですね。ただ、僕は「毒」というワードをそこまで強く意識していなかったのですが、(この楽曲が収録された)アルバムのタイトルが『ぽいずにゃ~しんどろーむ』になっていたのでびっくりしました(笑)。

ーーネガティブな印象の強い「毒」をテーマに押し出すというのもユニークですよね。

ナナホシ:これもいわゆる界隈のカルチャー性の表れなのかなと思っていて。こういう曲調とテーマ性を自分の表現としてちゃんと纏えるアイドルはあまりいないと思うのですが、それをできてしまうのがVTuberの面白いところだと感じます。何をやってもその人のものとして表現できてしまう受け皿がVTuberにはあるので。

ーー歌詞はどこか禍々しさを感じさせるもので、その中にも艶味や甘美さが垣間見える世界観が独特です。

ナナホシ:歌詞はすごく大変でした(笑)。おかゆさんは普段の配信ではすごく落ち着いた雰囲気なのですが、夜空メルさんとはまた違った艶やかさがあるので、今回のテーマ的に普段の配信で見えるおかゆさんから、もう一歩進んだところを引き出したかったんです。

ーーなるほど。

ナナホシ:そう考えたときに、嫉妬や羨望をそのまま言葉にして歌ってしまうと、ともすれば陳腐に聴こえてしまうので、そうならないように、比喩に比喩を重ねて、何重にも気を配りました。その結果、どこかストーリー性も感じられる、ひとつの物語みたいな楽曲になりましたね。

ーー触れてはいけないけど触れたくなる感覚、禁断がゆえの魅力みたいなものが感じられました。

ナナホシ:「毒」ですからね。それを使うこともできるけれど、自分が触れても「毒」にやられるっていう。

ーー個人的に“口許に修羅を塗りたくる”というフレーズが衝撃だったのですが。

ナナホシ:古い日本語で「嫉妬」のことを「修羅を燃やす」というらしくて。あそこを普通に“口紅を塗りたくる”にしてしまうのも微妙かなと思ったので。この曲ではそういう要素をたくさん盛り込みました。

ーー猫又さんは低音が活きるタイプの声質だと思うのですが、楽曲制作にあたって意識しましたか?

ナナホシ:最初は全体のキーが今よりも+3だったんですよ。でもやり取りする中で、1音半ほど下げたいというお話をいただいて。結果的にそれが正解だったと思います。全体の音が低いからこそ、ラスサビの歌がより際立つようになったので。

ーーラスサビの歌は素晴らしいですよね。感情の高ぶりのようなものが感じられて。

ナナホシ:鳥肌が立ちました。あれは僕の方から特別強く歌ってくださいとオーダーしたわけではなくて。本当におかゆさんの感情が一番強く乗った部分なんだと思います。

ーーアレンジに関しても、ダークな雰囲気が根底にありつつ、全体的にラテンの要素が入っているのが面白いです。

ナナホシ:この曲は、斜に構えつつも情熱的な表現にしたかったので。「失楽ペトリ」もアコギをガシャガシャと鳴らしたリズミカルな曲調に毒のある歌詞が乗った曲なのですが、そのテイストはなるべく受け継ぎたいなと思いまして。あとは音程の上下が、この曲をこの曲たらしめた部分だと思います。

ーーこの楽曲を書き下ろしたことで、猫又さんに対する印象に変化はありましたか?

ナナホシ:変化はあまりないですね。これは悪い意味ではないのですが、猫又さんは最初から今に至るまで、ミステリアスな人、底知れない印象がずっとあるので。強いて言うなら、それがより深まった感じですね。この曲を作ったことで、よりわからなくなった。やってしまいましたね(笑)。

VTuber界隈は寿司屋でパスタを出すことが成立する

ーーホロライブのタレントには3曲を提供してきたわけですが、改めてVTuberへの楽曲提供ならではの面白さを感じる部分はありますか?

ナナホシ:ボカロPのときは、この楽曲に対してどのボカロが合うかを考えることが多いので、良くも悪くも曲ありきなんですよ。で、歌い手さんに楽曲を提供する場合は、そのシンガーの表現に対して楽曲が合うかどうかを考える。そしてVTuberさんの場合は、よりキャラクター性が強いので、その人の佇まいやビジュアルも含めて、そのブランドに合うか?ということを考えます。そこが解離し過ぎてしまうと、寿司屋でパスタを出すみたいなことになるので。

ーーなるほど。

ナナホシ:ただ、難しいのは、別にVTuber界隈って寿司屋でパスタを出すこと自体は成立すると思うんです(笑)。でも、出すからには、その寿司屋のお客さんが喜ぶようなパスタを提供しなくてはいけない。その落としどころを見つけるのは、ボカロPとして曲を書くより、歌い手さんの曲を書くよりも、個人的には難しいと感じました。

ーーファンのストライクゾーンを見極めるためには、よりたくさんのリサーチが必要かもしれないし、ときには予想外の発想が求められるかもしれないと。

ナナホシ:あと、お三方に共通して感じたのは、やはり「ギャップ」でした。皆さん非常にツイストが効いているので。普通のアーティストであればある程度の再現性を持っていないといけないと思うのですが、VTuberはどんな楽曲を歌っても、その人のものとして表現できてしまう受け皿がある。

ーーその意味では、寿司屋でパスタを出すじゃないですけど、仮に予想だにしなかった方向性の楽曲を提供したとしても、上手く表現してくれる可能性を感じます。

ナナホシ:そうですね。VTuberはリアルとバーチャルのいいとこ取りができる存在だと思うんですよ。今はバーチャルという言葉自体がリアルに肉迫してしまっている気がしていて。ただ、もちろんこれからもリアルとバーチャルがお互いに侵食し合っていくと思いますが、僕らが区別したがる生き物である限りは絶対にひとつにはならない。なのでVTuberにはバーチャルを突き詰めていってほしいですし、リアルとバーチャルが一緒になるというよりは、もうその間にすでに懸け橋としてひとつの世界があって、それが例えばバーチャルアイドルという存在なんだと思います。

ーー最後に、今後楽曲提供をしてみたいホロライブのメンバーさんはいらっしゃいますか?

ナナホシ:今でも十分にご依頼いただいていてありがたいのですが、もし機会があれば……ロボ子さんですかね。

ーーそれはなにゆえ?

ナナホシ:そう聞かれると困るんですけど(苦笑)。直感です。いろいろとリサーチしているときに、ロボ子さんの配信も観たのですが、そのときからロボ子さんの存在がずっと頭の中にいるんですよ。あとは自分の音楽性とのシナジーという意味では、宝鐘マリンさん、ラプラス・ダークネスさんでしょうか。ロック調やブラス系も書いてみたいですが、もちろんタレントさんが表現したい方向性を一番大事にできたらと思います。でも書けと言われればどんな曲でも頑張って書くので、お手柔らかにお願いします(笑)!

■ナナホシ管弦楽団 関連リンク
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■兎田ぺこら
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■夜空メル
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■猫又おかゆ
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