Original Love 田島貴男、正真正銘“攻めのセットリスト”を披露した日比谷野音 現在進行形の音楽が導いた最高の夜

Original Love、野音で見せた“攻め”の姿勢

 「攻めのセットリスト」といった表現をよく見かける。たとえば隠れた名曲だけをやるとか、全曲新曲だけとか、今そのときにやりたい曲だけをやるとか。でも、実際はそういう針をレッドゾーンに振り切ったケースではなく、むしろヒット曲連発のライブが「攻め」と言われているケースが多いんじゃないかとも思う。

 9月4日、夏の終わりの日比谷野外大音楽堂でOriginal Loveが見せたライブは、そういう本来の意味での「攻め」だった。約ひと月ほど前、7月24日に中野サンプラザで行われたワンマンとは、3曲だけをのぞいてまったく違うセットリスト。しかも、1曲目はまだ配信もされていない新曲(「侵略」)。最初にキーボードの河合代介が現れ、キース・エマーソンばりにレスリースピーカーを効かせたハモンドオルガンでソロを弾きまくった後でメンバーが登場という演出で、始まったのは誰にとってもまるでおなじみではない曲なのだから、これが「攻め」でなくてなんなのか。

 ほぼノーMCで続けざまに2019年リリースのアルバム『bless You!』のなかでもエッジーな言葉やリズムが際立つ「空気-抵抗」「AIジョーのブルース」へと続く。戦争や疫病だけでなく、加速度的に進むAIやネットの弊害にさらされてもやもやとした社会を切り裂くように、田島貴男はステージに立っていた。

 しかし、客席の反応はポカンと置いてきぼりにされたものとは違った。むしろ、この胸騒ぎのする歌と演奏は、ここに集う者たちにとって「おなじみ」のものなんだろう。強い「攻め」に対して、しっかりとした「受け」が応えている。田島貴男という稀有なパフォーマーの感性のオーバーランをずっと受け止めてきたファンだからこそ、この関係性が成り立つのだとわかる。

 本来なら、この日はニューアルバム『MUSIC, DANCE & LOVE』の完成を記念するライブであるはずだった(11月16日に発売延期)。だが、冒頭から田島が示した現在進行形の音楽だけにしか興味がないとでもいうようなスピードとスリルがそんなニュースをすっかり忘れさせ、アルバムのタイトル曲となる予定の新曲「Music, Dance & Love」の演奏を祝祭へと変えた。

 また、この日の野音には、9月初旬の季節も味方した。曇り空ではあったものの開演する頃には蝉が合唱し、夏の終わりをしっかりと演出。開演から30分ほどで日没時間を迎え、徐々にあたりが暗くなると蝉は秋の虫たちへと主役を譲る。ちょうどその頃に始まるのが「今夜はおやすみ」(2015年)というのは出来過ぎなくらいハマった。

 そして、とっぷりと野音が闇に包まれたタイミングで、今夜のゲスト TENDREが登場。「IT’S A WONDERFUL WORLD」(1994年)にデュエットで絡み合う。田島のファルセットとの相性もいい。Original Loveの1990年代屈指の名曲を、1988年生まれのTENDRE 河原太朗が歌うことで、21世紀になっても古びないモダンなグルーヴだと証明し、さらにそこに田島貴男のファルセットが1970年代のスウィートソウルを持ち込む。1曲のなかで、2人の音楽の歴史が溶け合う至福の時間が作り出されていた。そのまま、Original Love & TENDRE名義の共作シングルとしてリリースされた「優しい手 〜 Gentle Hands」(2022年)、そして2人でもう1曲、「朝日のあたる道」(1994年)へ。

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