阿部真央、変化を楽しみながら奏でる音楽 『Who Am I』ツアーで届ける迷いなきポジティブなメッセージ

阿部真央『Who Am I』ツアーレポ

 EP『Who Am I』を配信リリースした阿部真央。現在は同作を携えた全国ツアー『阿部真央TOUR2022 “ Who Am I ”』の真っ最中。9月9日には、東京・昭和女子大学 人見記念講堂にて、ツアー2公演目にあたるライブが開催された。

 本稿では同公演の模様を振り返るが、一部演奏曲やMCに触れるため、まだ内容を知りたくないという人はツアー終了後に読むことをおすすめする。

 今年6月にはEX THEATER ROPPONGIで一夜限りの公演『阿部真央らいぶNo.9』を開催。元気な姿を見せてくれた阿部だが、『Who Am I』のリリースに伴い実現した今回のツアーは、阿部にとって3年8カ月ぶりの全国ツアーでもある。ステージに立つ彼女のみならず、全国のファンも待ち望んでいたことだろう。そんな中、ステージと客席の距離、そして会えなかった時間を一瞬で埋めるエネルギッシュな歌声は健在。また、ホールツアーということで、歌い始める前に「みんな座って聴く? いいんだよ。ここで立った方がいいんだなって分かるところが後で来るから(笑)」と観客に語りかけたり、全ての曲を歌い終えたあと、ファンの顔をギリギリまで見ていたいからなのか、横歩きをしながらステージを去ったりと、飾らない人柄も健在だ。最初のMCでは「いろいろな状況がある中で、こうやって時間を作って、あべまのライブを観に来てくださりありがとうございます」と語り、人の感情は伝播していくものと前置きした上で、「“楽しい”を届けにきました!」と意気込んだ。

 骨太なバンドサウンドを引っ張る力強く大胆な歌声が阿部真央のパブリックイメージだとすれば、それに留まらない、多彩なボーカルに心を奪われるシーンがたくさんあった。『Who Am I』収録の新曲群の中で、とりわけ驚きが大きかったのは「Don’t you get tired?」。鍵盤を弾きながら歌うこの曲は、ラップのような節回しや洋楽的なリズムの取り方が新しい。また、新曲以外でも、その声を大らかに響かせたり、あえて細く発声したファルセットを自在に扱ったり、この世で最も柔らかいものをそっと両手で包むようにやさしい歌声を披露したり……と、シンガーとしての表現力の高さに魅せられる時間が続く。彼女は、その声質や豊かな声量など、発声した瞬間“あ、この人の歌声だ”と分かる要素を持っているシンガーであるように思う。しかし、それらに寄りかかることなく、この声をどう扱うかという視点で新たな境地を切り拓いていく阿部真央の姿がこのツアーにはあるのだ。

 セットリストの中には『阿部真央らいぶNo.9』でも披露された曲があったが、その時よりも明らかに深みが増している。つまり、この3カ月間でも阿部真央は進化しているということ。本人も感じることはあるようで、MCでは「この数年で変化していると思います。……なんかそういう歌あったな。『pharmacy』か」と噛み締めながら、「今までの人生で一番純粋に、フラットに歌えていると思います」と現在の実感を語っていた。そういった実感があるからこそ、今回のツアーでは、「そんな今の自分で、高校生の頃に作った曲を歌ったら聴こえ方が変わるんじゃないかと」と初期曲を披露したり、「昔ギターで作った曲をピアノを弾きながら歌います」とある曲を別のアレンジで演奏したりと既存曲を再構築し、フレッシュに聴かせる場面が多かった。

阿部真央(写真=上山陽介)

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