帰ってきた夏の『TIF』で見た、アイドルとファンの新しいコミュニケーション 何度も蘇る7つの思い出
6. アイドルとオタクの祝祭
MAPA:8月7日 DOLL FACTORY、SKY STAGE
室内のステージ(=DOLL FACTORY)で観た、「運命テッテレー」で始まり「四天王」で終わる元気はつらつ、しっちゃかめっちゃかなアゲ曲セトリで畳みかけたMAPA。最後の挨拶で一瞬「アイドルを辞める日」のイントロのピアノが流れ、その後のSKY STAGEのさりげない予告になっていた。
SKY STAGEでは、屋上の何も遮るもののない真っ青な空いっぱいに広がった白い鱗雲を背景に、内省的でシリアスな曲たちを歌い上げる、空を味方につけたドラマチックなステージは15分の短編映画のようだった。
「アイドルを辞める日」で描かれる、アイドルとオタクの他のどこにもない特別な関係性。一見〈だっせー〉けど〈かっけー〉のはこちらだって、いつかではなく今わからせてやるという古正寺恵巳さんの慟哭にも似た歌声が胸に突き刺さり、ボロ泣きして残り少ない体内の水分を全部持っていかれた。
METAMUSE:8月7日 SMILE GARDEN
偶像ではなく実像のミューズ(女神)を見せていくMETAMUSEとして、ZOCから改名後初の『TIF』出演。
なんのギミックも飾り付けもないまっすぐな歌声の「乙女の心臓」、日が沈みかけて刻々と水色が淡くなっていく空に響き渡る「tiffany tiffany」からの「IDOL SONG」。生まれ変わってからではなく、この人生でアイドルとして生きることを選んだ女の子たちが表現する音楽が、これまでの『TIF』に出演した全てのアイドルたちに捧げられているようだった。
この3日間に出会ったたくさんのアイドル達は皆、命の限りそれぞれの信じる“アイドル”を肉体で表現していた。天界から降りてくる神様ではなく、同じ地球上に生きて、同じ夏の暑さを感じている人間が現世に結ぶ像が“アイドル”であるのだと。その姿に妄想したり救われたり涙したり、尊いと拝むオタクの姿も含めてまるごと全部美しいと祝福される神聖な時間が、METAMUSEのステージだった。
7. 世界でいちばん眩しい今を生きる
フィロソフィーのダンス:8月6日 SKY STAGE、SMILE GARDEN/8月7日 HOT STAGE
十束おとはさん卒業前最後の『TIF』出演。初めての涼しいSKY STAGEでも、ブルーグレーの衣装は曇天へのグラデーションのようで、「シスター」「ジャスト・メモリーズ」にはここにしかない大人の淡いニュアンスが。4人の生み出すハーモニーが暑さでぐったりした体に染み渡って、温泉に浸かるように音楽そのものに癒されていった。
フラダンスへの愛を全身で表現する「サンフラワー」。その曲の背景を知らずに観ても、大好きなフラダンスのゆっくりなめらかな両手の動きに惹きつけられ、「フィロのスちゃん、フラダンスもできるんだ! すごい!」と驚いた(帰宅後にMVを観て、感動の涙)。
HOT STAGEの2階席最前列に、ひまわりの造花をステージに届けとばかりに懸命に掲げるファンの姿が見えた。「あなたが今世界でいちばん輝いている」と伝える一輪の花が、メンバーからもきっと見えていると想像して、こんなに美しいファンとアイドルのコミュニケーションの形があるのだと知った。
雲間から差す日差しに焼かれながら朦朧とした頭で、目の前で歌い踊るアイドルと双眼鏡越しに目がバチッと合った。夢かと思ったその瞬間に、いつも自分が見つめているアイドルの瞳に映る光景に、自分自身も確かに存在していると気づいた。
SMILE GARDENに生える樹木の葉、SKY STAGEの熱を溜め込んだタイル、駐車場エリアに移動したENJOY STADIUMとDREAM STAGEの火傷しそうなほど焼けたアスファルト、そしてサイリウムの色とりどりの光。たとえ一つひとつは認識できなくても、アイドルの目に映る光景の中に自分もいる。その実感を得たくて、涼しい部屋で観る配信映像ではなく、焼けつくお台場に向かうことを選ぶのかもしれない。
コール&レスポンスもジャンプも禁止され、コミュニケーションの実感を奪われた昨今のライブで、カメラのレンズではなくアイドルの見つめる風景の、たったひと粒が自分である実感を持つこと。それこそが、今の時代における新しいコミュニケーションとなり得るのかもしれない。
※1:https://twitter.com/bellmignon_/status/1559414358966697984