CHAGE&ASKA「SAY YES」が『101回目のプロポーズ』に与えた“重み” みんなが聴いた平成ヒット曲第4回
音楽が主にテレビが持つメディアパワーと密接に結びつき、お茶の間を経由して世間の“共通言語”となった時代、平成。CD登場のタイミングと相まって、音楽シーンは史上最高とも言える活況を迎えた。当時生み出された楽曲たちは、今なお多くの人々の心や記憶に刻まれ、特別な思いを持つ人も少なくない。また、時代を経てSNSや動画という新たなメディアパワーと結びつき現在進行形のヒット曲として甦る機会も増えている。
リアルサウンドではライター田辺ユウキ氏による連載『みんなが聴いた平成ヒット曲』を連載中だ。平成元年(1989年)〜30年(2018年)のヒットチャートに登場した楽曲の中からランダムに1曲をピックアップし、楽曲ヒットの背景を当時の出来事もまじえながら論じていく。
第4回となる今回は1991年(平成3年)8月のヒットチャートからセレクト(※1)。5位サザンオールスターズ『ネオ・ブラボー!!』、4位小泉今日子『あなたに会えてよかった』、3位大江千里『格好悪いふられ方』、2位槇原敬之『どんなときも。』をおさえ1位に輝いたCHAGE&ASKA(のちのCHAGE and ASKA)『SAY YES』に注目。90年代初期まで流行したトレンディドラマブームの中でも異彩を放った作品『101回目のプロポーズ』の主題歌であり、劇中の印象的なシーンや台詞とともにこの曲を思い出す人も少なくないだろう。同曲が自身最大のヒット曲として支持された理由を考えたい。(編集部)
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現在では物議?『101回目のプロポーズ』の告白方法
想いを寄せる相手に告白をするため、車道に飛び出してダンプカーに轢かれそうになり、鼻先数センチのところで事故を逃れてこう叫ぶ。
「僕は死にません。僕は死にません。あなたが好きだから……僕は死にません。僕が幸せにしますから!」
今、こういう場面が放送されたら「危険な告白を誘発する恐れがある演出」として問題視される可能性があるだろう。しかし当時、この場面は1991年夏放送のドラマ『101回目のプロポーズ』を象徴するものとして社会現象を巻き起こした。
1990年代初期はトレンディドラマが全盛
当時は、見た目の華やかな若い男女による恋愛を描いたトレンディドラマが全盛だった。そんななか、同ドラマが斬新だったところは、お世辞にもルックスが良いとは言えない恋愛ベタな42歳の男性を主人公とした点である。主人公の名前は、星野達郎。彼は12歳年下の女性・矢吹薫と出会う。そのきっかけとなるのも当時のトレンディドラマの王道とはちょっと外れて、お見合いである。
薫自身、かつて結婚式当日に婚約者が事故死した悲しい過去を背負っていた。こういった背景は、作品としてドラマチックなものへ展開しやすい。薫というキャラクター自身はいくらでも「トレンディドラマ」へと転がすことができた。だが、達郎という存在がそうはさせなかった。武田鉄矢の演技力の賜物でもあるが、達郎はとにかく「重い人間」だった。たとえばバーで待ち合わせをしたときも、遅れてきた薫に対して、達郎は「人を待つのがこんなに楽しいなんて」と言い、薫が「じゃあすっぽかした方が良かったかしら」とジョークを飛ばすと「だったら僕、1日中楽しかったと思います!」と生真面目回答。そういった部分からくる達郎の気持ちの重さが、トレンディなムードを全拒否したのだ。
だが、カジュアルではなく、結婚前提のガチめな「恋愛」をテーマにしたところが、大人の視聴者の心をつかんだ。相手のことが好きなのに、どうやって行動に移せば良いのか分からない。不器用すぎて、うまい言葉が見つからず、結局はダンプカーの前に飛び出すしかなくなる。そういった達郎の姿を見て、何歳になっても、恋愛を実らせること、相手に想いを伝えることは難しいものだと実感させられた。筆者は今になって、『101回目のプロポーズ』がいかに大人の恋愛心情をリアルに描いていたかが分かってきた。
結婚前提のガチな恋愛物語にぴったりだった「SAY YES」
そんな『101回目のプロポーズ』にさらなる重みを加えたのが、CHAGE&ASKAによる主題歌「SAY YES」だ。
ASKAの粘っこいボーカルは、薫に邪険にされてもアプローチし続ける達郎のキャラクターと重なるような雰囲気だった。そして〈このままふたりで朝を迎えて いつまでも暮らさないか〉という歌詞は、前述した「結婚前提のガチな恋愛」をあらわした物語の主題歌として、これ以上にない“プロポーズ”のようにも聴こえた。
リリース当時、まだまだ少年だった筆者はこの曲にピンとこなかった。しかし『101回目のプロポーズ』同様、この曲も大人になった今だからこそ、歌詞を読み返してみると深みにどんどんハマってしまう。特に、〈愛には愛で感じ合おうよ 恋の手触り消えないように 何度も言うよ 君は確かに 僕を愛してる〉というパート。相手と接するなかで「この人は自分のことを愛しているだろう」と直感し、〈君は確かに 僕を愛してる〉と言い切るところは、まさに大人による恋愛の感じとり方である。