AKB48、突如途絶えた“夏曲”シングルの歴史 「根も葉もRumor」MVなどに見る、グループの新たな表現

 7月5日、AKB48の市川愛美がこんなツイートを投稿した。

「今のAKBには夏曲が足りない!!!水着で砂浜で踊らなくていいから!夏曲のシングルがほしい!ダンス曲もかっこいいけど!どうか!夏曲をください!!!(大声)」(※1)

 グループのファンであれば周知のことだが、実はAKB48は近年、いわゆる“夏曲”をシングル表題曲としてはリリースしていない。ファンではない方からすれば「え、そうだったの?」という事実ではないだろうか。「ポニーテールとシュシュ」(2010年)、「Everyday、カチューシャ」(2011年)、「真夏のSounds good!」(2012年)など一般的によく知られているAKB48の楽曲には夏曲も多く、それらは現在まで人気が高いことから、「AKB48といえば夏曲」という印象を持たれているかもしれない。

 現状、最後のシングル表題曲となった夏曲は2017年8月リリースの「#好きなんだ」である。2014年5月リリース「ラブラドール・レトリバー」以来3年ぶりの夏曲で、グループの公式からも「ひさびさの王道“夏ソング”」と謳われた。つまり約5年もの間、AKB48はシングル表題曲として夏曲を出していないのだ。市川のツイートは、そんな夏曲を欲する心の叫びと言えるだろう。

『選抜総選挙』と夏曲の関連性

 シングル表題曲として夏曲が制作されなくなった理由の一つとして、『AKB48選抜総選挙』が開催されなくなったことが大きく影響しているのではないか。

 『選抜総選挙』の開票は、第1回が2009年7月に開催され、第2回以降は毎年6月におこなわれるのが恒例だった。その投票は5月末からスタート。対象シングルに封入されている投票権を中心におこなわれた(こちらも第1回は6月23日投票開始)。「ポニーテールとシュシュ」、「Everyday、カチューシャ」、「真夏のSounds good!」はミリオンヒットを記録した人気の夏曲だが、いずれも『選抜総選挙』の投票権が封入された対象シングルだった。3作ともに5月末リリースということで、その曲内容は、時期的にもこれからやって来る夏の情景を描いたものになりやすかったと推察できる。

【MV full】 真夏のSounds good ! (Dance ver.) / AKB48[公式]

 また『選抜総選挙』が近づくと、テレビ、SNSなどではニュースとして同イベントを取り扱うことが多くなる。その際、対象シングルがプロモーション的に流れることに。楽曲の露出機会も増加することで、一般的な印象として「AKB48といえば夏曲」となっているかもしれない。

夏曲が持つカジュアルなイメージからの脱却

 ただ、『選抜総選挙』は2018年の第10回以降、現在まで開催されていない。シングルリリース自体も2019年は3月と9月、2020年は3月、2021年は9月という風に、これまで夏曲を発表してきた“5月リリース”が一度もないのだ(2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止のチャリティーソング「離れていても」を7月に配信リリース)。『選抜総選挙』がおこなわれなくなり、それに合わせて投票権封入の対象シングルも発表されなくなったことが、“夏曲減少”の一因となったと考えられる。

 くわえて、市川もツイートしているように、AKB48が路線的にモデルチェンジを果たしたことも要因として挙げられる。

 2022年には「元カレです」が5月にリリースされた。同曲は、これまでとは異なる音楽マーケットに照準を合わせたようなハードなダンスパフォーマンスが売りの楽曲である。たしかに夏曲特有のキラキラとした内容は、ファンはもちろん嬉しいものだが、現状のグループの照準先という部分では、夏曲は作品の世界観や規模感が限定的になる可能性が高い(もちろん内容次第でもある)。グループとして強度のある体制を作り、よりクリエイティブな方向へと突き進み、かつてのようにグループの成長を見せるよりも完成度の高さで勝負していることからも、夏曲以上に優先させるべきものが今のAKB48にはあるのではないか。

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