水瀬いのり、愛美、夜道 雪……多彩なクリエイターと共鳴した女性声優の最新作 各作品に凝縮されたクリエイティビティ
水瀬いのりが7月20日にリリースした4thアルバム『glow』は、コロナ禍で再確認した、目の前に広がる様々な輝きをテーマに制作された。自身が声優として出演するアニメ『現実主義勇者の王国再建記』(TOKYO MXほか)のOPテーマ「HELLO HORIZON」と「REAL-EYES」をはじめ、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、TAKU INOUE、藤永龍太郎(Elements Garden)など多彩なクリエイターが楽曲を提供し、これまでの3枚のアルバムとは異なる驚きと新鮮さを与えてくれるものになった。
田淵が手がけた「僕らだけの鼓動」は、水瀬とファンの関係や目の前に広がる光を、瑞々しいサウンドに乗せて歌っている。水瀬は以前から田淵の楽曲を歌ってみたいと思っていたそうで(※1)、息つく暇もなく畳みかけるメロディが実に田淵らしく、ebaの編曲によってよりドラマチックな楽曲に。また、「We Are The Music」を作詞・作曲・編曲したTAKU INOUEも、水瀬自身がリクエストしたひとり。浮遊感のあるダンスチューンで、変則的なビートがTAKU INOUE節。全てを包み込むような歌声と、エレクトリックなサウンドが見事にマッチし、水瀬の新たな音楽の世界が広がっている。また、藤永による「八月のスーベニア」は、ウェット感のあるギターサウンドに乗せた、低音域を聴かせるメロディが新しく、晩夏のもの悲しさが胸に広がる。タイトルに合わせて、8曲目に収録するというこだわりも利いている。
水瀬史上、最もチャレンジした1枚と言える本作。新曲としては他に、フォーク調の「風色Letter」、ゆったりとしたジャズ調で可愛らしさあふれる「Melty night」、デジタルの流れるようなサウンドと胸を掴むメロディラインが秀逸な「パレオトピア」、アルバムのテーマを体現したミディアムバラードの「心つかまえて」。まるでライブのセットリストを彷彿とさせるような曲順で、ファンタジックなサウンドの表題曲「glow」は、揺れるブルーのペンライトが埋め尽くすライブ会場で、観客の手拍子が響き渡っている情景が浮かび上がることだろう。
愛美のソロ活動再開後初のアルバム『AIMI SOUND』には、上松範康(Elements Garden)、オーイシマサヨシ、すぅ(SILENT SIREN)、DECO*27、nano.RIPEなど、ゆかりのあるクリエイターが楽曲を提供。愛美の胸に今、広がっている前向きな希望にあふれたアルバムに仕上がっている。
愛美はソロ音楽活動の再開にあたって、多くの不安を抱えていたそう。そんな背中を押してくれたのは愛美がこれまでに出会ってきたアニメキャラクターや、それにまつわる音楽だったと、筆者がインタビューした際に語っていた。1曲目の「スターリア」は、愛美が『アイドルマスター ミリオンライブ ! 』で演じているジュリアの楽曲「スピカ」を提供し、ギターの師匠でもあるnano RIPE.が制作。これまでの愛美の道のりを肯定しそっと背中を押してくれているような楽曲で、ジュリアのトレードマークである星をイメージさせる曲名からも愛を感じる。
続く「≒」は、SILENT SIRENのすぅが作詞、クボナオキが作曲した。すぅとは、愛美が戸山香澄として参加する『BanG Dream!』発のガールズバンド・Poppin'Partyとのコラボシングル『NO GIRL NO CRY』のリリース、対バンライブなどを通じ、同じボーカル&ギターということもあり公私共に仲が良い。ロックシーンとガールズバンドの壁に思い悩んだ経験を持つすぅと、アニソンとバンドシーンの壁を経験した愛美。どこか似ている2人のシンパシーが、ポップなバンドサウンドに乗せて歌われた。〈並べたギターケース〉という歌詞も、練習スタジオの様子などが浮かんでリアリティを感じさせる。
他にも、『BanG Dream!』の音楽プロデューサーを務める上松範康が作曲した「不完全ドリーマー」、オーイシマサヨシらしいユーモアあふれる極上のファンキーポップチューン「かかった魔法はアマノジャク」、そして今の彼女が胸に抱く思いを自身の作詞で伝えた「愛世界」などを収録。熱さを持ちながら、どこか悲しみや切なさを感じさせる愛美自身の歌声は、アニメやキャラクターソングの枠を越えて、人の心を掴む魅力を持っている。