歌い手の新星“シユイ”に注目 jon-YAKITORY、柊マグネタイトら参加のEP『思惟』を柴那典が全曲レビュー
動画配信サイトだけでなくJ-POPのメインストリームにも活躍の場が広がり、注目の存在が続々と登場している歌い手のシーン。そんな中、まだまだ知る人ぞ知る存在ながら、高い歌唱力と表現力、豊かなハスキーボイスでブレイクの期待を集めている歌い手の新星が、シユイだ。2022年7月8日には初のEP『思惟』をリリース。4名の気鋭のボカロPとタッグを組んだ5曲が収録されている。その内容とシユイの現在地について紐解きたい。
2021年1月に「歌ってみた」の投稿をスタートしたシユイ。その活動の最初のターニングポイントになった楽曲がjon-YAKITORY feat.シユイ名義の「ONI」だろう。EP『思惟』にも収録されたこの曲は、クリエイターのためのコミュニケーションスペース「MECRE(メクル)」から生まれた一曲である。
昨年5月末にβ版としてスタートしたMECREは、“昨日初めて作品を発表した人も、1,000万回再生動画を持つクリエイターも、フラットに出逢い新しい創作活動ができる場所”をテーマに、クリエイター同士が創作に必要なパートナーを自由に募集できるプラットホーム。そこに「ロイヤリティユーザー」として参加が決まっていたjon-YAKITORYが「#あなたを募集中」というハッシュタグと共に歌い手を募集、そこに「一般ユーザー」のシユイが応募したことから、コラボがスタートした。
もともと「フェイキング・オブ・コメディ」や「シカバネーゼ」などの「歌ってみた」を投稿していたこともあって、オルタナティブロックにルーツを持つjon-YAKITORYのラウドでダークな作風と、シユイの力強く、どこか陰のある声の相性はとてもいい。「ONI」は昨年6月に初音ミク歌唱のバージョンが公開され、7月発売のjon-YAKITORYのベストアルバム『Y』に同バージョンが収録された楽曲だが、12月にリリースされたシユイ歌唱バージョンはYouTubeでの再生回数は100万回超え(7月8日時点)と反響を巻き起こしている。
EP『思惟』から先行配信された「ハイスクール・オブ・ザ・クレイジー」は、そのjon-YAKITORYが書き下ろしたオリジナル曲。jon-YAKITORYらしい棘のあるギターサウンドと起伏のある曲調を持った一曲だ。ビッグバンド的な仕掛けもある華やかなアレンジで、ドロっとした思春期の情景を切り取り描いている。
同じく先行配信で一二三が書き下ろした「ドーベルマン」も、痛快な疾走感を持つ曲。和風の響きとバンドサウンドの融合が持ち味の一二三だが、この曲はピアノとシンセベースが軸になっているスピーディなダンスロック。ポイントは曲の中で多彩な表情を見せるボーカルだろう。挑発的なAメロからサビの裏声の響き、ラップのような発声を聴かせる中間部と、歌声のバラエティが曲展開のスピード感にも寄与している。