センチミリメンタル、2つの表題曲で伝える“孤独に寄り添うやさしさ” 温詞ならではのメッセージが光る1枚に
センチミリメンタルが4thシングル『光の中から伝えたいこと / 東京特許許可局』を7月6日にリリースした。櫻坂46や日向坂46、Argonavisへ楽曲を提供するなど、温詞は作家としても名を広めつつあるが、いわば本拠と言える自身のソロプロジェクトでも精力的な活動を展開。シングルの1曲目「光の中から伝えたいこと」はサビ始まりで、印象的な4~5度の跳躍を経てルートに帰結するか、あるいはスケールを上昇してさらに膨らませるか、という駆け引きで以って抑揚するメロディラインは温詞節といった感じだ。ドラマティックかつ記名性の高いそのメロディに、“あ、センチミリメンタルの新曲だ!”と開始10秒も経たずに思わせられた。しかし、この曲にあるのは“らしさ”だけではない。サビ→1番Aメロ→Bメロ→サビ→2番Aメロ→Bメロのあとにサビに行かず、キックとコーラスしか鳴らない空間で新たなメロディを歌うDメロが始まるのが鮮烈だ。また、アウトロのポエトリーリーディングも新鮮な要素である。
そんな「光の中から伝えたいこと」は、現在公開中の『映画 バクテン!!』の挿入歌として書き下ろされた曲だ。センチミリメンタルは2021年春に放送されたTVアニメ『バクテン!!』(フジテレビ系)のOPテーマとして「青春の演舞」を提供しているため、『バクテン!!』シリーズとのタッグは今回で2度目。「青春の演舞」は青春のきらめきと泥臭さを感じさせるアッパーチューンで、仲間と心を揃えることを描いた歌詞も含め、高校生男子新体操部の青春を描いたアニメの物語とリンクするものだった。イントロ突入時の音程をずり上げながらのロングトーンを筆頭に、温詞の歌も力強い。一方、転調も相まって、背景のバンドサウンドは変化が目まぐるしく、転んでも立ち上がる人の不屈の心、そして青春の真っ只中にある人特有の時の流れの速さが同時に表現されているように感じられた。なお、青春のきらめきをダイレクトに表現した曲をセンチミリメンタルはそれまで(メジャーデビュー以前も含めて)歌ってこなかったため、『バクテン!!』のキャラクターたちが日々仲間とともに高みを目指す一方、自分にとってはこれが“挑戦”の曲だったのだと当時の温詞はコメントしている(※1)。言い換えると、ディスコグラフィに広がりをもたらした曲であり、名刺代わりの1stフルアルバム『やさしい刃物』を完成させる以前の段階で開けたことのなかった引き出しに手をつけられたことは、センチミリメンタル自身にとってプラスの出来事だったのではないだろうか。
まっすぐで力強い「青春の演舞」に対し、「光の中から伝えたいこと」からはやわらかい風が吹いているイメージを感じた。「青春の演舞」ではドラムや手拍子のビートによって縦のラインが強調されていたが、「光の中から伝えたいこと」は上物を中心に横のラインを感じさせるフレージングが目立つし、そもそもアンサンブルに余白がある。ボーカルのテンションも穏やかだ。
なぜこのような違いが生まれるのかというと、一人称の立っている場所が2曲で違うからだろう。ここで、両方の歌詞に登場する“トンネル”という比喩的モチーフに着目したい。〈何回だってトンネルの向こうへ/目が眩むような 光の中へと向かってく〉と歌う「青春の演舞」はまだトンネルの中にいる人目線の歌――もっと言うと、何かに行き詰まっている人が現状を打破しようと懸命に足搔いているような歌といえるだろう。一方、「光の中から伝えたいこと」はその曲名、そして〈さぁ ほら/怖がらずにおいで/君が進むトンネルは/曲がりくねり 光塞ぎ続いてるだけ〉というフレーズから、トンネルを抜けて外(=光の中)に辿り着いた人が、トンネルの中にいる人に向けて語りかけている歌として読むことができる。苦しみを経て小さな希望を見つけた人が、未だ苦しみの中にいる人に“光は確かにその先に待っている”と伝える歌。特にDメロとアウトロは“僕”が“君”に直接訴えかけるような歌詞になっていて、ボーカルからもより感情的なニュアンスが伝わってくるだろう。
さらに思い出すべきは、『映画 バクテン!!』では、部活引退間近の3年生も含む“アオ高男子新体操部”が6名で臨む最後のインターハイの模様が描かれているということ。先輩から後輩へ、かつて闇の中にいた人から現在進行形でもがいている人へ――という目線が、この曲を温かくやさしいものにさせているのではないだろうか。厳しい現実を誤魔化さずに歌ったうえで、手を差し伸べるでもなく、背中を押すでもなく、ただ、〈僕はちゃんと見つめている/その先でずっと待ってる〉と伝えるこの曲ほど真摯な“大丈夫”を私は知らない。それは“僕”から“君”への――“アオ高男子新体操部”の3年生から下級生への――この曲の作り手から聴き手への――信頼の表れに他ならない。