小袋成彬、優しく洗練されたサウンドが響いた極上のライブ空間 約3年半ぶりのジャパンツアー、初日レポート
「Work」では、ヒップホップビートの上で軽快にラップを繰り出す小袋と、それに呼応するコーラス、自在なラップに対して、オーディエンスが全身でレスポンスしていく。そして、ついに「Gaia」のイントロが鳴り響いた瞬間に会場が一体となる。客演の5lackのヴァースに小袋なりのアレンジを加えながら、キャリアの代名詞の一つとも言えるこの壮大なナンバーを歌い上げると、空間全体が幸福感で満たされていく。抑制されながらも爆発寸前のエモーションをステージとフロアが共有した感動的な瞬間だった。
ライブは終盤。サポートメンバーが一旦ステージから姿を消し、一瞬ショーの終わりを予感させたタイミングで小袋は「カバーやります」と言って、こんな話を始めた。「俺はクラス全員に響く音楽よりも、一人だけに届く音楽を作ってるんですよ。あなたに向けて作ってます」と。決して何かにおもねることなく、純粋に研ぎ澄ました自分の音楽を親密な空間でファンと共有したいという、本ツアーのマニフェスト的なMCだ。
そう言って歌ったのはロイ・デイヴィス Jr.「Gabriel」のカバー。裏声を使わずに高音を歌い上げる様は非常に鮮やかだった。
再びメンバーが呼び込まれた後、ラストチューン「Butter」ではこれまで徹底的に抑制されてきた照明が、ついにステージ全体を照らす。我々の視界が開けていくような演出によるカタルシスと共に大団円を迎える。
前半のDJから後半のオリジナル曲まで流れるような約2時間。小袋成彬が日本に届けたのは、まさにロンドンの空気だったように思う。彼が運んできたその洗練されつつも優しさを含んだ空気に、身体ごと包み込まれたような一夜だった。