神はサイコロを振らない×Rin音、音楽で“世界平和”のメッセージを発信する使命感 コラボ曲「六畳の電波塔」に込めた願い
「よくない」と思うことは「よくない」と訴えなければ、何も変わらない(Rin音)
ーーでは今回の楽曲「六畳の電波塔」のテーマは、どのようなところから着想を得たのですか?
柳田:歌詞の具体的な内容は、 Rin音くんとコラボが決まってから考えていったのですが、その頃はテレビをつければずっとウクライナでの戦争のニュースが流れているような状況だったんです。「これって本当に2022年の出来事なのかな」と思うくらい、悲惨なことが次々と起きていて「僕もロックバンドとしてメッセージを届けなければ」という使命感や義務感みたいなものがあったんですよね。Rin音くんとコラボをするなら、一緒に「世界平和」について今一度考えたいなと。
ーー歌詞は近未来を舞台にしたストーリー仕立てになっていますよね。
柳田:まず時代設定として、第三次世界大戦が起きてしまった後の遠い未来のSFストーリーにしようと思いました。世界中が荒廃し、人間が生き残っているかすら分からない。でも、そんな中で何故か僕の六畳の部屋だけが辛うじて残されている。そこを「電波塔」として、僕は生き残っている人たちのSOSのメッセージを待ち続けているんです。「歌詞を作る」というよりは、「一つの長編映画を作る」という気持ちから楽曲を作り始めたわけです。Rin音くんにはまず歌詞とデモ音源を送って、とにかく自由にリリックを書いてもらうことにしました。僕の視点は、第三次世界大戦後を生きる「未来の人」ですが、こちらからは何かリクエストをしたわけでもなかったのに、Rin音くんが「現代の人」としての視点でリリックを付けてくれたのには驚きました。一つの曲の中で、時空を超えた二つの視点が混じり合うような、そういう楽曲になったのがめちゃくちゃ嬉しかったですね。
Rin音:僕自身も戦争について思うところがありましたし、柳田さんからテーマをいただいた時に非常に共感したというか。しかも設定をSFにすることで、シリアスなテーマをより届けやすくするところもいいなと思っていました。視点を二つにしたのは、僕自身いつも曲を作る時に全く違う視点を交差させたり対比させたりするのが好きで。しかもコラボとなると、例えばロックとヒップホップというふうに、よりその構図が明確になると思いました。
ーー楽曲のテーマとして、今起きているウクライナでの戦争のことはもちろん、コロナ禍で起きている人々の対立・分断についても含まれていると思ったのですが、そうした世の中についてみなさんはどんなふうに思っていますか?
吉田:おっしゃるように、今は様々な問題が同時に起きているし、一つひとつの情報を正確に追うだけでもかなり大変だと思っています。日々の生活を送っていくだけでも精一杯の中、理解するのも難しい問題がたくさんあって、まずは何が起きているのかを正確に知る能力を身につけられたらいいなと。
黒川:今回、楽曲のテーマは「世界平和」ですが、それって個人的にはかなりスケールの大きな話で、最初はイメージするのも難しいという気持ちが正直なところありました。でも、例えば自分の身近にいる人たち……友人やバンドのメンバーに対して愛情を持って接することができたら、それを受け取った人たちがさらに周りの人たちへと「愛情の輪」をどんどん広げていくと思うし、その先にはいつか「世界平和」が訪れるんじゃないかと。なので、まずは自分に出来ることから始めることが大切なのかなと思いますね。
桐木:例えばSNSなどを見ると、他人が大切にしていることや好きなことを否定したり、誰かの失敗を攻撃したりしていることが多くて疲れてしまう。それよりもまずは、お互いがお互いを認め合うことが大事なんじゃないかと思うんですよね。世界平和の実現にはまだまだ時間がかかるし、僕らが生きているうちに成し遂げられるかどうかすら分からないけど、だからこそこうやって曲としてその思いを形に出来たのは良かったなと思っています。
柳田:戦争という国と国の対立だけなく、同じ国や地域の中でも、もっといえば自分の知り合いや家族同士ですら争いが絶えないような世の中を、一体どうやったら変えることができるのか。そのことについては、この「六畳の電波塔」を作り終えた後もずっと考えています。世界平和についての歌を歌ったところで、それで世界を変えられるのか? と聞かれれば、そんな簡単な話じゃないことは分かっています。それでも発信し続けることを諦めてはいけない。だからこそ僕は、今後も楽曲やライブのMCで、メッセージを発信し続けたいと思っています。
Rin音:僕も神サイの皆さんがおっしゃるとおりだと思います。例えばSNSで何かを発信する時、不特定多数の人たちが受け取るぶん、いろんな方向に気を使うじゃないですか。「こういう表現は、ある人にとっては傷つくことかもしれない、でもこっちの表現に変えてしまうと、今度は違う人たちの気分を害する可能性がある」みたいな。でも正直なところ、当事者でもない人がわざわざ外側から何か言う必要なんてあるのだろうか? と思うんです。もちろん、そういうやりとりを不特定多数の人たちの前でやるべきかどうか? という問題もあります。ただ、やっぱりみんなアンテナを張り過ぎかなとも思うし、余計なことで傷ついたり悲しんだり、疲弊してしまったりしているような気がするんですよね。
ーー自分自身の課題と他人の課題を切り分ける能力が、今は特に必要ですよね。SNSで情報を浴びていると、ついついそこが曖昧になってしまうような気がします。大抵のことは、自分には関係ないことなのに。
Rin音:本当にそうなんです。後は、ひとつの物事に対していろんな見方ができるようになるといいなとも思う。ある考え方に対して、否定するのではなく「こんな考え方もあるよ?」と提案されたときには、それを一旦は受け入れる心の余裕が世の中をピースフルにするのではないかと。特にアーティストは新たな視点や考え方を提示するのが役割ですし、アーティストだからこそできることがきっとありますよね。
ーー「六畳の電波塔」は、設定こそSFになっていますが、モチーフとなっているのはリアルな現実問題です。現在進行形で起きている問題を扱うのは、それなりの勇気と覚悟が必要だったのではないかと思うのですが、その辺りはいかがでしょうか。
Rin音:今まで自分の作品では取り扱ってこなかったテーマなので、やり甲斐があると思う一方で、おっしゃるように不安も少しありました。その不安というのは、「話題に便乗していると思われたくない」というもの。僕らは本気でこの問題について考えているし、平和でありたいと思っている。「よくない」と思うことは「よくない」と訴えなければ、何も変わらないと思うんですよね。ただ、それを例えばSNSで発信してもちゃんと伝わらないし、響かない気がしていて。やはりアーティストであるからこそ、僕の場合はラッパーだからこそ楽曲で示すべきだとずっと思っていたので、このタイミングでこういうお話をいただけたのは、本当にありがたいことだなと思っています。
柳田:Rin音くんの言うとおりだと僕も思っています。それと、ある事柄について怒っている人に対し、こちらも「怒り」で返してしまったらそこで争いが生じてしまうんですよ。この「六畳の電波塔」は、聴き手に対してずっと問いかけているような歌詞になっているんですが、そうすることで受け取った人も考えてもらえるというか。答えをこちらから一方的に投げつけるのではなく、一緒に答えを見つけていこうと呼びかけるような気持ちが、僕達だけでなくRin音くんにもあったんじゃないかなと思います。