ヒトリエが証明するロックバンドの不屈の情熱 現体制3度目のリキッドルームで鳴らした3人の現在地
ヒトリエによる全国ツアー『HITORI-ESCAPE TOUR 2022』東京公演が5月30日、31日の2日間にわたり恵比寿リキッドルームにて行われた。このライブは本来であれば今年2月8日、9日にツアーの初っ端として開催されるはずだったもの。それがシノダ(Vo/Gt)の体調不良により延期となっていたのだ。このツアーでは2月14日、15日に開催予定だった大阪公演のほか、3月17日、18日に開催予定だった仙台公演も直前に発生した地震の影響で延期になっており、結果的に足掛け4カ月という長いツアーとなった。予期せぬこととはいえ、メンバーも悔しさや難しさを感じながらここまで進んできたはずだ。
そんな思いもすべて注ぎ込まれたリキッドルームでのライブは、シノダのギターの弾き語りからの「ポラリス」で始まった。まるでヒトリエの過去と現在を結ぶように鳴らされた同曲から「アー・ユー・レディ、トーキョー?」というシノダの叫びを経て「ハイゲイン」、さらに「curved edge」へ。3人体制の強度と情熱をそのまま音にしたようなソリッドなサウンドが一気に熱気を生み出していく。シノダは感情を爆発させるようにギターを弾き歌う。イガラシのベースは空気そのものを塗り替えるようにアグレッシブに響く。そしてゆーまおのドラムは、暴れ馬のようなギターとベースの手綱をしっかりと握り推進させるように、的確なビートを刻み続ける。今のヒトリエが3ピースバンドとしての完成度をぐっと高めていることをはっきりと伝えるオープニングだ。
「すっげえ人入ってるじゃん!」。シノダが興奮したように口にする。そして「フレッシュな新曲をお届けしたい」と、ここで披露されたのがアニメタイアップとなった「風、花」。ゆーまお作曲のポップなこの曲が、ライブならではのタフなギターサウンドによってますますパワフルに鳴り響く。アウトロではフロアから自然発生的にハンズクラップ。この曲がすでにファンにとっても大事な曲になっていることを証明してみせる。続く曲は「RIVER FOG, CHOCOLATE BUTTERFLY」。シングル『ポラリス』のカップリング曲であり、wowakaがインドを旅して感じたことが反映されている楽曲だ。シノダはハンドマイクで歌い、ゆーまおのタイトなビートが曲のもつ切迫感をさらに増幅させる。
さらに「tat」で静と動のコントラストを鮮やかに描き出すと、ここからは過去曲を連発。「Namid[A]me」「イヴステッパー」を畳み掛けると「るらるら」へ。イガラシが飛び跳ねながらベースを弾き、シノダはフロアに崩れ落ちる。息を呑むようなストップ&ゴーでバンドのコンビネーションを見せつけると、ここで投下されるのが「カラノワレモノ」だ。「垂直跳び運動の時間がやってまいりました」というシノダの宣言通り、オーディエンスは全力でジャンプしてみせる。歌い終えて「みなさん、さぞかししんどかったでしょう」というシノダだが、それに続くのは「でも、ここからどんどんギア上げていくんで、よろしく!」というドSな言葉。その宣言通り、「Marshall A」から「踊るマネキン、唄う阿呆」、さらに「3分29秒」という超攻撃的なコンボでライブのテンションはさらに上昇していった。
ここまでの怒涛の展開の余韻を噛み締めるように一呼吸おき、シノダが再びギターを鳴らし始めた。「wowakaより愛を込めて!」。いつの間にか決め台詞となった言葉を叫ぶと、「アンノウン・マザーグース」へ。ヒトリエの3人にとってはもちろん、オーディエンスにとってもこの曲のもつ意味は計り知れない。ぴったりのタイミングでフロアから巻き起こるハンズクラップ。早口言葉のような歌を乗りこなすシノダのボーカルスキルも、明らかに進化していることが見て取れる。もしかしたらこの曲はヒトリエとファンを結びつけるアンセムであると同時に、3人にとっては自分たちの現在地を見定めるための“鏡”のようなものになっているのかもしれない。そして、「非常に照れくさいことを言いますけど、あなただけに愛を込めて」とちょっとらしくないような言葉を堂々と口にして、シノダが歌い始めたのは「ステレオジュブナイル」。ヒトリエからファンへのメッセージであり、ヒトリエというバンドの存在意義を高らかに歌い上げるテーマソングだ。3人が一心不乱に自分の楽器と組み合い、ガシガシと道を切り開いていくようなアレンジと、その上を滑るように走る美しいメロディが、ここまでたどり着いた実感をぐんぐん膨らませていく。