ヒトリエ、シノダがソングライターとして切り拓くニュースタンダード 『3分29秒』から浮かび上がる“2つの側面”とは?
ヒトリエが6月2日にニューシングル『3分29秒』をリリースした。タイトル通り、3分29秒の間でリズムを複雑に乗り換えながら展開していくエネルギッシュな表題曲「3分29秒」と、ディープでファンキーなグルーブに乗せて自問自答を繰り返すような「Milk Tablet」の2曲。両方を通じて、エッジの立ったサウンドデザインと、それを取っ払ったとしても強烈に印象に残るメロディと歌詞の強さ、そして強固に練り上げられたアンサンブルに、バンドの今のパワーがみなぎっている。攻撃的で大胆に、ヒトリエの「王道」を再定義するような一手である。そのシングルの2曲を書いているのが、ボーカル&ギターのシノダだ。
2019年のwowakaの急逝後、フロントマンとして、そしてメインソングライターとして、名実ともにバンドの中心に立つことになった彼だが、じつはヒトリエにとってシノダというギタリストの存在は最初から極めて重要だった。もともとは3人でスタートしたヒトリエの前身・ひとりアトリエに最後に加わり、彼の加入とともにひとりアトリエはヒトリエへと生まれ変わった。もちろんヒトリエは何よりもまず「wowakaのバンド」ではあったが、ちょっと大げさにいうならば、シノダが入ることでヒトリエはヒトリエに「なった」とも言えるのである。
実際、wowakaのなかには「ツインギターが絡み合う」という構想というかイメージがあったようで、それを実現するために召喚されたのが彼だった。「wowaka期」のヒトリエの特徴といえばまずはwowakaの作る楽曲の複雑さと緻密さ、そして細かく刻まれたリズムとまるでどちらも主役かのようにデッドヒートを繰り返す2本のギターだった。シノダのテクニカルであると同時にものすごくエモーショナルなギタープレイは、ヒトリエというバンドにとって、そのサウンドを定義するための最後のピースだったのだ。
そんなシノダは、優れたギタリストでもありながら、はっきりした個性を持ったソングライターでもある。ヒトリエの外でも楽曲制作を行い、個人活動として発表してきた彼だが、そのソングライティングをヒトリエに持ち込んだのは意外と遅く、2019年の4thアルバム『HOWLS』収録の「Idol Junkfeed」が最初だった(作曲クレジットはwowakaとの共作)。アルバム制作の過程で楽曲作りが停滞したタイミングがあり、そこを打破するきっかけとして彼が持ってきたのがこの曲だったという。
スピーディなBPM、細かく上下動する音符、繰り返されるメロディライン。バラエティ豊かな楽曲が集まり、振れ幅の大きな作品となった『HOWLS』はひとつの到達点であり、いわば次への布石となり得るアルバムだったと今にして思うが、その中で「Idol Junkfeed」は「ヒトリエのど真ん中」を堂々と行くような楽曲だった。もちろんこの曲が生まれた経緯を考えれば、シノダはその役割をまっとうすべくあえて「ヒトリエらしい」、言い換えれば「wowakaらしい」曲を持ち込んだのだろう。あくまでwowakaの世界、wowakaのビジョンを具現化するバンドがヒトリエであり、自身が曲を書くという場面にあっても、シノダのスタンスにはその大前提が貫かれていたのだと思う。
その証拠に、3人体制となって制作に取り組んだアルバム『REAMP』は、それとは全く違う自由さと幅広さをもっていた。最初に配信リリースされた「curved edge」を聴いた時の鮮烈な衝撃は今もはっきりと覚えている。ヘヴィな音像をぶん回しながら軽やかに躍るファルセット。硬軟自在に移ろいながら、新しいヒトリエ・サウンドを誇示するかのように炸裂するこのヘヴィチューンは、バンドが新しいページをめくったことをはっきりと伝えてくるものだった。