クボタカイ、歌詞に投影された“恋愛＝音楽”という思想 他者との共同作業がもたらした創作活動における発見
唯一自分の中にある音楽に対する思いを出した曲
ーーそれぞれの楽曲についてももう少し掘り下げたいんですが、まず「ナイトイーター」はどういうふうにできた曲ですか？
クボタ：あれはいっしーさん（Taro Ishida）のトラックなんですけど、最初にギュインギュインなビートが送られてきて。いっしーさんのトラックってすごく強いんですよ。だから絶対負けたくないと思って、僕のラップもアゲアゲでキレのあるやつを乗せようと思って作りました。歌詞のテーマは……人が生きていく中で理性ってすごく大事じゃないですか。むしろそれがすべてというか。でも、美しいと思う瞬間って、それを野性がぶっ壊すときだと思っていて。たとえば東京・名古屋間の遠距離恋愛で、「会いたい」ってどちらかが言ったとして。普通は「今すぐは行けないよ」だけど、「いや、もう行くね」っていう瞬間の感じですよね。もっとラフにいうならライブで没入してるときもそうで、あれはもはや僕であって僕じゃないぐらい野性が出ているんです。そういう瞬間ってすごく美しいなと思って、なんとかそれを曲にできないかなと思って作りました。
ーークボタさん自身、音楽をやる中でもそういう瞬間に特別なものを感じるんですね。
クボタ：まさに制作とかライブとかはわかりやすいですけど、昔より野性的になりましたね。頭ではこうした方がいいとわかっているのにガッといっちゃうとか。でもそれは自分で選んでやっているので、すごく美しいなと思っています。
ーーつまり今のクボタさんにとっては音楽がある意味そのためのツールになっている。
クボタ：そうですね。僕、あまり人に悩みとか相談したくないというか、できないんですよ。だから音楽に全部ぶつけてる。それはフリースタイルをやっていた頃とは全然違うと思います。
ーーで、その次に出てきたのが「ひらめき」です。
クボタ：「ひらめき」は初めて自分の内情を書いた曲で。心というよりは頭で作った曲なんですよね。自分の音楽に対しての思想を考えて作った1曲です。
クボタ：そうですね。音楽ってアイデア職、ひらめき職じゃないですか。でもたとえば「あれ、この曲こういう伝わり方してるんだ」とか「自信あったんだけど、思ったより聴かれないな」っていうことがあると「このひらめきに意味あるのか？」と疑っちゃったりもするんですよ。でも今やるべきことって、いい曲を作る以外にないから。まずそこを頑張ろうぜじゃないけど、疑いつつも進むしかない。それが人生だなと思っているので。〈求む未知のララバイ〉っていうのは「珠玉の名曲、出ろ！」という意味で、そういう音楽に対しての距離感や思想のリアルですね。本当に本音で書きました。
ーー〈ときめきの中に 答えは無いんだとしても〉の〈ときめき〉というのは？
クボタ：恋愛のことでもありつつ、ひらめきとは別で、音楽にときめく瞬間とか、モノにときめく瞬間ってあるじゃないですか。よくよく考えたらそういう魅力とかに〈答え〉や意味なんてないのかもしれないけど、それでも騙されていたい。それが自分にとって一番、自分を救う方法だと思ってるので。
ーー感動的なのは音楽と〈LIFE〉、人生がイコールになっているところですけど、そう思うようになったのはいつごろからですか？
クボタ：1stアルバム『来光』をリリースしたぐらいです。けど、その思想はどんどん強くなっています。日々更新されて、自分の人生と音楽がもっと密接なものになってますね。
ーー〈優しいフリして 笑う悪魔に 意地悪なふりをした僕がキスをする〉というのも恋愛のことにも思えるけど、でも音楽をやるっていうのはそういうことなんだ、みたいな意味もあるわけですよね。
クボタ：そうですね、だからこの曲はずっとダブルミーニングなのかもしれない。恋愛にも仕事や音楽の悩みにもとらえられる。
ーーというか、クボタさんにとって、音楽をやることと恋をすることが一緒なんだと思います。
クボタ：ああ、そうなんでしょうね。この曲は、唯一自分の中にある音楽に対する思いを出した曲なんです。人に相談できないって言ったけど、あまり弱いところを吐露するとか、すごく気恥ずかしくて嫌だったんです。だからこの曲は「やっと書けた」っていう思いもありつつ、「言っちゃった」っていう気持ちもあります。そのスレスレなところで書いた曲ですね。この曲は今後においてもすごく大事な曲であり続けるんだろうなと思います。
恋愛イコール音楽、それがもう自分の思想
ーーまだリリースされていないですが、3月のワンマンで「ピアス」という曲も披露していました。あの曲もすばらしくて。
クボタ：「ピアス」は完全に自分の好みで書いた感じですね。部屋で作って、「こういうのができました」と事務所に渡すんですけど、これは作りながら「事務所ウケ悪そうだな」とか思っていました（笑）。でも意外と、いろいろな人にいいじゃんって言ってもらえて。そういう“狙ってない”1曲というか、完全に自分のために作ったので、すごく自分の純度が高い曲です。
ーー僕はあの曲も音楽のことを歌っているなと感じたんです。心に空いた穴をピアスで塞ぐ、という歌詞ですけど、クボタカイの場合、その穴を埋めているのはきっと音楽なんだろうなと。
クボタ：ああ、なるほど。これから僕が書く恋愛ソングって、全曲そう捉えられてもおかしくないようなものになると思います。恋愛イコール音楽、それがもう自分の思想なので。
ーーサウンドの方向性も歌詞のモチーフも違う楽曲が立て続けに出てきているわけですけど、音楽的な可能性を広げつつ、どんどん本質に近づいている感じがします。
クボタ：まさにそうです。いろいろな曲を作りたいなと思うし、しかもそれをちゃんといいものとして出したい。だから、ここまでは結構感覚でやってきた部分もちゃんとステップアップしたいし、自分の中の100%をちゃんと出したいんです。いろんなスキルがもし欠けていたら、自分の頭の中で鳴っている曲は最強なのに、それが違う形で伝わってしまうと思うので。少しずつ、100%のクボタカイに近づいていく作業っていう感じですね。
■リリース情報
New Digital Single「ひらめき」
配信：https://kubotakai.lnk.to/hirameki
Digital Single「ナイトイーター」
配信：https://kubotakai.lnk.to/nighteater
■関連リンク
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