星野源、自由な創作で追求する独自のグルーヴ 「不思議」から「喜劇」へ続くサウンドへの意欲

星野源、サウンドへの意欲

「やりたい音をフットワーク軽く作れるようになってきた」

ーーサウンド的にはどういうビジョンをもって作業を進めていったのでしょう?

星野:ローズ(エレクトリックピアノ)の音にモジュレーションがすごくかかっていて、そこにキックとスネアが割とソリッドに入ってくるイメージで作り始めたので、仕上がったものそのままです。

ーークレジットによると星野さん以下、mabanuaさんと長岡亮介さんの3人で作り上げています。もともと少人数で仕上げる構想だったのでしょうか?

星野:特に人数感は考えていなかったんですけど、この音像を求めていったらこの編成になったという感じです。

ーーコード展開や転調も含めてこれだけの複雑な構造を持った曲であるにもかかわらず、エレガントなフォルムとメロウネスをしっかり維持している両立ぶりが相変わらず素晴らしくて。「不思議」から「喜劇」に続く流れによって、他では得られない星野さん独自のネオソウルの形を手中にしつつあるのではないかと思いました。

星野:もう10年くらいになりますが、アルバム曲やシングルのカップリングで作り続けてきたR&Bやソウルミュージック、ヒップホップに影響を受けたアプローチの楽曲を、もっと濃くはっきりとした形でシングル曲でやってみたいと思っていたんです。あとはDAWを使った自分で打ち込む制作にだいぶ慣れてきたので、現時点での集大成でありながらも、今まで作ってきたものとはまた違ったものができるんじゃないかと思って。複雑さもありつつ、聴き方によっては自然にスムーズに耳に入ってくるような曲、それでいて「なんかヤバいぞ」と思ってもらえるような曲にしたくて。「不思議」もそうでしたけど、その感触を今回もちゃんとやりきりたくて、そこの塩梅を調整するのに時間がかかりましたね。

ーー今回もクレジットを見るとさまざまな種類の鍵盤がずらりと並んでいます。個人的には最後のサビに絡んでくる90年代R&B~Gファンク調のスムーズなシンセ使いにグッときたのですが、全体的に鍵盤の潤んだ音色がとても美しくて、曲のメロウネスを浮かび上がらせるのに絶大な効果を発揮していると思いました。今回、鍵盤の聴かせ方ではどんな点に留意しましたか?

星野:頭で考えるのではなく、自分の感覚がいいと判断するところまで、とにかく弄りながら持って行く感じなので、あまり言葉で説明ができないんです。Prophet-5(アナログシンセサイザー)のアタックが遅くてブワーッと迫ってくるような音とか、サンプラーの音色とか、ひたすら音作りをしながら、白目を剥きながら作り込んでいって(笑)、気づいたらこの形に辿り着いていました。シンセサイザーもそうですけど、ちょっとした設定でグルーヴや雰囲気が変わってくるのが面白いですよね。ずっとチューニングを合わせているような、そんな感じでした。

ーー終盤、さりげなく挟み込まれるビブラフォンも心憎いですね。

星野:あれはmabaちゃん(mabanua)が入れてくれたんですよ。最高ですよね。

ーー「不思議」に引き続き、歌の魅力が楽曲をより充実させているように思いました。特に序盤の語りに近い歌とそれ以降の緩急のつけ方が絶妙で、サビのコーラスやファルセットボーカルがさらにエモーショナルに響いてくるんです。

星野:ビートにすごく揺らぎがあって、なおかつAメロとBメロで揺らぎの量も微妙に変えていたので、きっちり歌いすぎるとつまらなくなると思って。だから、ヴァースの部分は語るように歌いたかったんです。それを受けてサビになったときに、一気に声が増えてクワイア感のあるコーラスへと変わっていくような、その辺りの緩急を大事にしました。

ーーなるほど。「不思議」を聴いたときの「なんだかすごいことになってきたぞ」という漠然とした予感が、今回の「喜劇」で完全に確信に変わった手応えがあります。まだアルバムの話をするのは時期尚早かもしれませんが、「喜劇」を作り上げたことによって今後の音楽的ビジョンが明確になってきたようなところはありますか?

星野:なんというか、より自由な状態になれているのかなと。やっぱり、「やりたい音が何なのか」ということが大事ですよね。そのためなら編成はなんでもいい。アルバムもそろそろ考え始めてはいるんですけど、かなりフットワーク軽く作れる状況にはなってきているから、きっと面白いものができると思います。

ーーお話を聞いていると、DAWを駆使する精度が上がるにつれて、着実に新しい地平が切り拓かれている印象を受けます。これが今後どんな成果に結びついていくことになるのか、今回の「喜劇」によって俄然楽しみになってきました。

星野:「喜劇」は細部の微調整の賜物でもありますし、とにかく延々と作り込んでいくのが楽しいので、この調子で作り続けていけたらいいなと思っています。

※1:https://spy-family.net/music/music_ed.php
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星野源「喜劇」
星野源「喜劇」

■リリース情報
星野源「喜劇」
アニメ『SPY×FAMILY』エンディング主題歌
2022年4月8日(金)配信スタート
ダウンロード/ストリーミングはこちら

星野源 オフィシャルサイト

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