ENVii GABRIELLAが語り尽くす、『Metaphysica』完成までの経緯と深層に込められた思い

とにかくどれだけバカになれるかが勝負

ーー歌詞に関してはどうですか?

Takassy:いつも言葉尻を合わせてみたり、それこそ韻を踏むだとか、どこかに掛かっているようにちゃんと組み立てるんですが、今回は出てきた言葉をとりあえず並べてみようとか、思ったことを文章にしてみようと思って殴り書きしたものを寄せ集めて1曲にしたような感じなんです。いつもとは違って、思ったことがそのまま歌詞になっている。だから提出した時に、それこそ事務所とかキングレコードの方から「すみません、ちょっとこの歌詞は……」と言われるかなと思ったんですよ。他のアーティストとか某キャラクターにケンカ売ってんじゃないか、みたいなことになってるので(笑)。でも、悪意はないよっていうことだけは伝えておこうかな。

ーー(笑)。歌詞に〈意味ない曲作りたい〉とありますが、その発想自体にも驚きました。

Takassy:いろいろ頑張ってっていう曲がご時世的にも溢れていて、それを音楽番組でずっと見ていた時に疲れてしまって。「もう、みんな頑張ってるから……」って。命は大事にしようとか、インターネットでよくないことを言って誰かが死んでしまうみたいな歌とか、そういうのに疲れちゃって「もうわかってるから、何も考えなくていいような曲ないのかな」と思い、「あ、作ろう」と。我々も意外と重い歌詞が多かったりするから、ここまで「何も考えるのをやめよう」って言うと、今までの自分たちの曲すら全否定しているみたいな感じが逆に面白いかなというのもあって。

Kamus:これだけ意味がなくて、楽しい曲はないと思います。

Kamus

ーーこれほどのメッセージソングもないと思いますし。

Takassy:結果、ね(笑)。結局そういうことを考えちゃってると、変なループに陥っちゃうんですよ。書き切って曲ができあがった時に、結局すごいメッセージソングじゃんこれ、みたいになっちゃって。だから、それすらもDメロの歌詞にしたんです。意味のないことをするっていうのはすごく難しい。だって、意味が出てきてしまうので。意味のないことを考えるとね。

HIDEKiSM:うん、うん。

Takassy:だからそのジレンマ。結局みんないろいろ考えるけれども、バカになろうと思ってなればいいじゃんみたいなところもあるのかもしれないですね。無理やりにでもバカになってしまえっていう。

ーーでもこういう曲を、Carlos K.さんと作るのも楽しかったのでは?

Takassy:いやもう、爆笑しながら作ってましたね。DメロでHIDEKiSMさんが「ドーン、チー」って言うところがあるんですが、「ここは“どんちーの教祖様”が出てくるシーンにしたいから、どんどん盛り上がっていって、最終的にQUEENみたいな感じで超クラシカルなコーラスを入れて、一番いい感じになったところでスポットライトを浴びたHIDEKiSMさんがワイヤーで吊るされる、ぐらいがいいんですけど」とか言いながら(笑)。「めっちゃウケますね」って笑いつつその場で組み立てていって、声を録って、コーラス録って。「ウケる!HIDEKiSMさんが飛んでるのが想像できます!」みたいな感じで、遊びながらCarlos K.さんと作った感じでした。

ーーそんな中で、HIDEKiSMさんはレコーディングを。

Takassy:どんな気持ちで(笑)?

HIDEKiSM:どんな気持ちって(笑)。でもやっぱり、今楽曲を作っている時間とかもそうだと思うんですが、ライブもレコーディングも、その思いみたいなものが絶対に乗るじゃないですか。だからこっちがやっぱりハッピーじゃないとその思いは乗らないなと思ったので、とにかくどれだけバカになれるかが勝負だという思いでレコーディングに臨みました。だからもう、どれだけ楽しい空間でレコーディングができるかみたいなことが、逆に勝負だった気がします。

Takassy:その場にはカミュっちもいたからね。

Kamus:うん(笑)。

Takassy:3人でふざけながら、歌うたびに爆笑みたいな(笑)。

HIDEKiSM:だから無事に、その感じが曲に乗ったかなっていう気はしています。

Takassy:くだらないタイトルでくだらない歌詞なんですけど、トラックはめちゃくちゃ骨太でカッコ良くて。作り込んでくれているものになっています。

ーー「Sorry Not Sorry」では、Carlos K.さんの名前まで歌詞に出てきます。

Kamus:確かにそうだ(笑)。

Takassy:この曲はもともと、Carlos K.さんがストックとして持っていた曲で、(歌詞にあるように)本当にぶん取ったっていう(笑)。

HIDEKiSM:“旦那”の曲をね(笑)。

Takassy:仮歌を歌って送ったら「僕の名前、歌ってます? 嬉しいです」っておっしゃってくださいました。

ーーENVii GABRIELLAの曲のタイトルも出てきたりして、宝探しみたいな歌詞でもあるかなと思いました。

HIDEKiSM:そうなんですよ。

Takassy:(ストックの時点であった)英語のフレーズに無理やり日本語を乗せるとダサくなるし、もともとの仮歌がザ・ゲイの曲みたいな、ちょっとビッチな感じだったので、その空気は無くしたくないなと思い、あえて日本語と英語をグチャッと織り交ぜて語感だけが気持ちいいような歌詞にしました。

HIDEKiSM:この「Sorry Not Sorry」というワード自体すごく偉そうと言いますか、何様感のあるようなタイトルなので、オカマにはぴったり(笑)。

Takassy:サウンド的には今までの曲に通じるものはあるかなって感じなんですが、そもそも私の血が全く入っていない楽曲なので、いつもと違う雰囲気になっていると思いますね。

ーーこの曲の振り付けは、もうフルでできあがっているんですか?

Kamus:絶賛考案中です。これはエンガブのオカマっぽさというか、ザ・オカマ、オネエ振りじゃないですけどそういうキャッチーな感じでガツガツ踊って、言い散らすのに合うような振り付けを考えているんですよね。でもこれだけ言い切ってる曲って、今までそんなになかった……かな?

Takassy:「My Business」以来じゃない? ここまでケンカ売ってるのは。

HIDEKiSM:うん、うん。

Kamus:ステージでのパフォーマンスがより楽しく、カッコよくなるようにいろいろ考えています。

ーーパフォーマンスのカッコ良さといえば、今回ようやく「Ride」が「Ride/Reboot」として音源化されました。

Kamus:この曲のパフォーマンス、私大好きで。曲調とかもガラッと、前よりも大人っぽくかっこいいイメージになったので、今振り付けも変えてリハーサルに入っています。前の感じとはまた違う、いい意味でリブートされた状態で出せるといいなと思っているところです。

ーーサウンドも、リブートされて未来感が増したような印象でした。

Takassy:この曲はもともと2014年くらい、EDM全盛期に作ったのでアレンジもそういう感じだったんですね。それを、何も注文つけずにとりあえず現代風にリブートしてくださいという感じでCarlos K.さんにお願いしました。自分は、初めに聴いた時にリニューアルしたバージョンの映画『トロン』っぽいイメージがあって。それこそ本当に近未来的だし、スペイシーな感じ。フューチャリスティックになったなっていうイメージで大満足でしたね。Carlos K.さんも、すごいドヤ顔で提出して来ましたよ。「サビの頭、ちょっとブレイク入れましたから」って(笑)。

Kamus:可愛すぎる(笑)。

ーー歌詞に関しては変更点があるんですか?

Takassy:これまでのパフォーマンスでは2番を一度も披露したことがないので、ファンの方にとってみれば変えようが変えてなかろうが関係ないっていう(笑)。ただ、もともとあった2番の歌詞とは全然変わっているんです。2番のド頭のラップの部分はもともと1番と同じAメロが始まるところだったんですが、アレンジを聴いてブレイクを入れたいなと思ったんですね。この曲を入れた理由はファンの方からの熱望でしかなかったので、このラップの部分だけは完全にファンの方に向けた歌詞にしてあります。

Takassy

ーーだから〈We thanks for your support!!〉とあるわけですね。ちなみに音源化されていない楽曲でいうと、今回「メラメラ」が収録されなかったのはどうしてなんですか?

HIDEKiSM:あら、すごいとこ聞いてきた(笑)。確かに収録曲が発表された直後は「『メラメラ』は!?」ってファンの皆さんも言っていて、「メラメラ」が当時の「Ride」みたいな扱いになってる状態だったというか(笑)。どうして入らないの!?って。

Kamus:そうだね。

Takassy:でもこれは単純に、「Moratorium」とジャンルが似ていたからです。今回は全部違うジャンルの曲を入れたかったので、1曲でも被っているような曲調があるのが私は許せなくて。

ーーそういうことだったんですね。

Takassy:もともとは「メラメラ」を入れていて、「Ride/Reboot」は入ってなかったんです。でも並べた時に、「Moratorium」とは全然違う曲だけどちょっとエスニックな感じや夏っぽいイメージがあったので、そこだけがすごく気になって。となった時に、「Ride」があるじゃん、と。それで上手くバランスが取れたんです。またいつかのタイミングで入るかもしれないですが、やっぱり今回はたまたま、お客さんが「Ride」に愛着を持ってくれていたというのが後押しをしてくれたひとつの要因。今後もそのアルバムのコンセプトにはまらなければ入れないでしょうし、それがずっと続いて一生入らないかもしれないけど、我々はその都度新しい曲を作っていますからね。今は「あの曲がすごく良い」となっていても、新しい曲、新しいエンガブを見せるための兼ね合いもある。曲があるから入れようかっていう作品を作るのだけは嫌だなって思っています。

ーー「女優(仮)」は一度ライブでも披露されていましたが、この曲も新たな一面だと思いました。タイトル通りに受け取ると、女優の苦悩やそれを描いた劇中歌のようにも聴こえますが、このタイトルに引っ張られずに歌詞を聴くと、全然違う現実的な意味が浮き彫りになる気がします。

Takassy:そのどちらもありますね。これは一番、コロナの影響を受けた曲なんです。コロナ禍での、皆さんの心の叫びと言いますか。私たちはアラサーなので、友達も管理職とかいい役職の方が多いんですが、そういう人たちってあんまり感謝をされない。やるのが当たり前というか。そこでさらにコロナ禍になってしまったことによって、みんな大変だから、一人ひとりの大変さが見えなくなってしまっていると思ったんです。この曲の中でも言ってますが、ひと言何かあれば救われるのにそれを言ってもくれない、気付いてもくれない莫迦ばっかりしか周りにいないっていうのが、たぶん今抱えている皆さんの思いだったりするのかなって。

ーーそうですね。

Takassy:この曲はコロナの最初のピークの時に作ったんですが、音楽業界もやりたいことができなくなり、沸沸としちゃって。テレビに出ていらっしゃる方の訃報を聞いたりしながら、彼女や彼らも、スタッフとか周りの人に気づいてもらえて何かひと言かけてもらえていたら、違う結果が待っていたんじゃないかなって思ったりもしました。あのタイミングってみんな、自分の人生について嫌でも見つめ直さなきゃいけない時間になっちゃったと思うんですよ。その時に誰かが助け舟を出していたら、悲しいことにならなかったかもしれない。私はそれを見て、メンバーもそうですし関わってくれているスタッフの方もそうですが、そういうひと言を大事にしたいし、そういうひと言が出ない現場にはしたくないと思ったので、こういう曲を作ったんです。だからこれは、今出したかった曲なんです。

ーー「(仮)」になっているのは?

Takassy:ニュースとかで、実名を伏せる時に(仮)と付くあのイメージです。みんなが女優のように、日々なんてことない顔をして仕事をして演じている。すべての人に当てはまるという意味を込めています。架空の女優さん、「少女A」みたいなものです。

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