ずっと真夜中でいいのに。アルバムチャート首位獲得 知的好奇心も懐かしさも刺激する、ACAね独自のソングライティング

参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2022-02-28/

 2月最終週発表のオリコン週間アルバムランキング。総じて1万枚~5千枚セールスの作品が多く、爆発的なヒットは見当たりませんが、その中で健闘しているのは1位のずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)。ミニアルバム『伸び仕草懲りて暇乞い』は約2.3枚のセールスを記録しています。

 ずとまよは、作詞・作曲・ボーカル担当のACAねを中心とした“特定の形を持たない音楽バンド”。メディア露出はほぼ皆無で、ライブであっても顔がはっきり映し出されることはありません。活動のスタートは2018年、YouTubeのMV投稿から。ただ、メンバーは流動的でも“バンド”を謳っていることがずとまよの特徴であり、J-POP/邦ロックとの親和性、実はプログレッシブな情報量、深読みすればいくらでもハマっていける意味深長な歌詞世界などには、ゲスの極み乙女。や東京事変の影響が窺えます。

ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』MV

 YouTubeへのMV公開が始まりだから、リスナーの姿勢は“観る”ことが基本。アニメーション動画付きの音楽をいつでも好きなだけ“観る”ことができるので、そのあと動画なしのCDを“聴く”ために買うのは、相当ハードルが高いことだと思われます。だから2.3万枚で1位というのは、実は“健闘している”どころの話ではないんですよね。初回生産限定盤に付いているのは①全収録曲のインストゥルメンタル、②ブルーノート東京での『MTV Unplugged: ZUTOMAYO』の映像なので、ずとまよ大好き、ACAねの歌を全部所有したい思うコアファンが②を必要とし、自分も歌ってみて動画投稿したいと考える人々が①を求めるのでしょう。ひとつの才能/スター性で勝負する往年のJ-POP論と、ひとつの名曲を不特定多数がシェアしていくネットの方法論が、ここでは自然に混ざり合っています。

 さて、新作『伸び仕草懲りて暇乞い』。1曲目「違う曲にしようよ」から、「うーん!」と唸ることしきり。聴き心地はすこぶるポップ。ジャジーな鍵盤とギターのカッティングが心地いいグルーヴを作るのですが、しかし次々と「うおっ?」と思うトラップが襲ってきます。まずイントロから想像できる歌い始めのコードが、実際はまったく違う。なかなか思いつかない譜割りもたくさんあるし、サビに行く手前、2番に進む直前など、必ずトリッキーな転調や遊びが入ります。ただ、「めっちゃヒネって頭を使いました!」という印象がほとんどない。むしろ全体的にサラッと聴けてしまう。おそらく、サラリの中の「うおっ?」が多い人ほどずとまよにハマるんでしょう。リズムやアレンジの妙味に気づく自分のセンスを褒められているような、知的興奮が確実にありますからね。

ずっと真夜中でいいのに。「違う曲にしようよ」

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「チャート一刀両断!」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる