『INGLOURIOUS EASTERN COWBOY』インタビュー
ALI、壮絶な1年から生み出した見事な復帰作 Leoが明かす、絶望の果てで音楽に刻んだ希望と生き様
2020年、アニメ『呪術廻戦』(TBS系)第1期のエンディングテーマになった「LOST IN PARADISE feat. AKLO」のヒットで、日本のみならず海外でも一躍その名を知られることになった音楽集団 ALI。その後もメジャーリーガー 大谷翔平がバッターボックスに入る際の登場曲として同曲が起用されるなど、順風満帆に歩んでいるように見えたが、突如バンドを大きな衝撃が襲った。詐欺罪でのメンバー逮捕と起訴。その事件の影響で、ALIは昨年5月、無期限の活動休止に入った。
その間も残ったメンバーで楽曲を作り続け、半年が経った11月に活動再開を発表。その際に公開されたLeo(Vo)からのメッセージには、多くの反響が集まった。「一生後ろ指を指されても仕方がありません。誰かに死ぬほど憎まれていても仕方ありません。それでも、音楽を、ALIをやらせていただきたいです」ーー壮絶な覚悟と決意を吐き出すようなその言葉は、ALIというバンドが、そして音楽が、Leoにとってどんなものであるのかを物語っていた(※1)。
復活第1弾EPとなる『INGLOURIOUS EASTERN COWBOY』は、これから始まっていくALIの新たな物語の狼煙である。Creepy NutsのR-指定、声優でラッパーの木村昴、世界的トランペッターの黒田卓也というゲストが集結したこのシングルには、彼らが音楽によって救われ、人と繋がってきた軌跡が刻まれている。嵐のような1年を過ごしたLeoが今音楽に込める思い、そしてこれから描く未来について、思いの丈を語ってもらった。(小川智宏)
「目をかっぴらいていれば、きっとどこかに救いはある」
ーー2021年はALIにとってはいいこともあり、最悪なこともあり、という1年でした。Leo:まあ、基本的には悪いことがメインでした。結婚して、『(週刊)文春』に撮られて(笑)、でも大谷選手のニュースが出て「やった」と思ったら、事件が起きて……もうどうしていいかわからないし、曲の配信やCD出荷も全部撤退することになって。そりゃもうキツかったですけど、なんとかみんなのおかげで帰ってこれたので。結果的には、その全て、無駄な日々がないように過ごすことができたんじゃないかなと思っています。
ーー5月に活動休止して、11月に復帰のアナウンスをするまでの半年間、どういうふうに過ごしていたんですか?
Leo:まず、ドラマーが事件を起こしてすぐにそいつと別れて。10年以上ずっと続いていたルーティンとして、スタジオ週に3回入っていたんですけど、それも1回休んで、メンバーと話し合いました。もうALIができないかもしれないという状況だったんですけど、とりあえずミックステープからやり直そうと言って、まずはカバーを20曲くらいバーっとメンバーに送って。リリースはできなくてもいいから、まずはこの曲たちをやろうと。でも、メンバーの中でもやる気をそこまで持っていけないやつもいたりして……結果、今の3人が残ったんですけど。とはいえ、その中にいろんな出会いもあって、それが今回アートワークを作ってくれた河村康輔さんだったり、今度ドラムを叩いてもらうboboさんだったり。だから休止中どんなことがあろうと、1回も音楽そのものに疑問を持ったり、やめようとは思わなかったです。
ーー活動休止の前後でやっぱりモードは変わりましたか?
Leo:だいぶ変わりましたね。(CDショップやサブスクから)曲が全部消えたというのは大きかった。やっぱりびっくりするわけですよ、この先も一生残るだろうと思ったものが1回消えるっていうのは。音楽をやるべき理由、なぜやるんだっていうのを自分で問うきっかけにはなりました。事件を起こした元メンバーの息子たちをすごく可愛がっていたので、その子たちを匿うために10日くらい伊豆に逃げたんですよ。その子たちは無垢なので、宿題を教えたり、毎日温泉に入って体を労わりながら、人生って何だろうって考えていました。
ーー11月に復帰のコメントを出したじゃないですか。あれを読んだときにすごく胸が痛くなって。めちゃくちゃ背負ってるんだなこの人はって、すごく思ったんですよ。あんなに長文で、しかもそこに書かれているのは「贖罪の日々」とか「ごめんなさい」という言葉だったりして。当然じゃないかという人もいるかもしれないけど、そこまで思い詰めて、でももう一度音楽をやろうとしているんだなっていうことが伝わってきて。
Leo:今までもいろいろ人を傷つけてきたし……けど妻もチームも、みんな助けてくれる。だから俺はもう、全てにおいて素直に言葉を言っていこうかなと思って、ああいう形になったんですよね。
ーー大きな事件だったし、そこでギブアップすることもできたと思うんだけど、そうしなかった、あるいはできなかったのは何が一番大きかったんですか?Leo:まず、高校を卒業した20歳ぐらいの段階から、後ろの帰り道は閉ざしていく人生だったんです。「もうこれで生きていくしかないだろう」って決めた人生だったのと、マネージャーとか、(マネジメント会社の)社長をやってくれた妻とか、メンバーも含め、周りで誰1人として諦める人はいなかったし、俺も諦めていなかったんで、ここで降りることは考えなかった。1月に『スッキリ』(日本テレビ系)に出演して、観てくれた人からDMが来たりしたんです。そのときに、俺はたまたまステージ上で人に見せる仕事をやらせてもらっているけど、みんなやっぱり見えないところで本当に過酷な人生を生きているんだなと思って。同じ悲しみはなかなかないけど、そういう傷を負うことによって人との絆が生まれて、繋がりができてくる。だから去年いろいろあったことも、これはこれで俺の人生において大事なことだし、ここで何を経験して、種にして、どう生きていくかが大事かなと思っています。
ーー今までも規模の大小はあれど、いろんな山あり谷ありだったでしょうし。
Leo:生まれたときからずっとそうです。先週だって、親戚のおじさんが銃で撃たれて死んじゃって。
ーー……え?
Leo:バンドでもメンバーといろいろあったりとか、クソなことばっかりですよ。それこそこの前、『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』で「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」を初解禁したんですけど、おじさんが銃で撃たれて死んじゃったのはその前日なんです。6年ぐらい一緒に住んでいたおじさんなんですけど、銃で撃たれて亡くなったって聞いて、リアクション取れないじゃないですか。俺もわかんないですよ。そんな中で深夜3時のラジオを待っていたんです。そしたら、やっぱり『オールナイトニッポン』ってめちゃくちゃ面白いし、「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」がかかってファンがすごい喜んでくれているのを見ると、それだけで生きていける理由になるんですよね。癒されて、元気をもらえて……やっぱり音楽を通して、誰かがちょっとでも世界を美しく見られるように頑張りたいなっていうのは常に思います。
ーー人にとってもそうだし、何より自分にとって音楽がそういうものであり続けているんでしょうね。
Leo:それはありますね。「音楽で救われました」とか、本当に冗談みたいによく言うじゃないですか。曲が全てなくなっているときに大谷選手が入場曲に使い続けてくれて、球場でかかっている映像をみんな送ってくれるんですよ。それによって俺たちは本当に救われましたし、彼の活躍のおかげで今ここに辿り着けているので。音楽によって生まれることができて、育ててもらって、救われるところまで来てる。あとはもう、恩返ししながらやっていこうという感じです。人生ギリギリだと思うけど、目を瞑っちゃダメですね。目をかっぴらいていれば、どこかに救いはきっとあるので。
「命を燃やしてピュアになれることこそが愛」
ーー今話していることって、本当に「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」で歌っていることにも通じますよね。
Leo:そう、そうなんですよ。生きることへの渇望を歌っている曲なんです。曲で歌うとその通りの人生になるから怖いんですよね。「LOST IN PARADISE」でも〈I won’t give up the fight in my life/cusee my life is living for love(俺は人生を諦めたりしない/愛のために生きているから)〉と歌っていたけど、やっぱりそうなったんですよ。時間軸は逆のはずなのに、不思議ですね。
ーー今回のシングルの曲たちは活動休止前に作っていたものだそうですが、改めてこの4曲を聴いたときに、どんなことを感じますか?
Leo:かっこいいなと(笑)。ミックスをやり直したんですけど、徹底的に、めちゃくちゃハードにやるので、そこは何十回何百回聴いても飽きないように作る。そういった意味ではすごく達成感を覚えたし、やっぱり音楽って、聴いたときに現実とは違う世界を想像できたり、見えないものが見えたり、違う世界に連れて行ってくれるものだと思っているので、そこに関しては一生懸命集中してやっていますね。絵でいうと、デッサンで写真みたいに描くというよりは、バスキアとかピカソみたいな、新しい生物を創造したときみたいな気持ちで作れたらいいなって。
ーーALIの曲で描かれる世界というのは、もちろん現実とは違う世界を見せるものではあるけれども、単純なファンタジーではないじゃないですか。必ずリアルと繋がっているし、今の東京の空気感とも共鳴するものですよね。
Leo:うん。特に今作に関していうと、渋谷が舞台だったんです。俺が育った渋谷ーー「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」ならスクランブル交差点、「Whole Lotta Love feat. 木村昴」なら宮下公園の近く、「FOUND BLUE feat. 黒田卓也」ならブルーノート東京がある骨董通り、「Dance You, Matilda」なら円山町とか、自分の中で明確に景色や場所があって。ここで過ごしたあの気持ちを描きたいっていう思いがありました。
ーーなるほど。そういう意味で今作を聴いていてすごく思ったのは、グッとフォーカスが絞られていて、よりパーソナルに近づいているような印象がありますね。Leo:そうだと思います。音楽はもう生き様そのものですから。「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」のMVもMargtのチームと撮ってきたんです。彼とは去年「WACKO MARIA」で出会って、すごく支えてくれたので今回組んだんですよね。シド・ヴィシャス「My Way」のMVあるじゃないですか。その現代版で、撃たれる側としての「My Way」を撮ったんですよ。俺1人で歌って、メンバーのLuthfiとCÉSARは撃つ側になって……という企画が走っているときに、おじさんが撃たれて死んだっていう連絡が来てびっくりしました。そういう生き様というか、この作品・事件も含むすべてが最終的に俺そのものの始まりのポイントになると思うので、そういうものを描ければいいなというアートワークやMVになっています。物騒だって言われるかもしれないですけど、こっちからすると実話なのでしょうがないです。もうドキュメンタリーなんで。
ーー生き様だからこそ壮絶ですよね。今回の作品でいうと、「Whole Lotta Love feat. 木村昴」は愛の歌ですけど、単純なラブソングではないじゃないですか。愛の歌がそのままアジテーションソング、レベルソングになっているという。Leoさんにとって「愛」ってどういうものなんでしょう?
Leo:うーん……例えば宇宙のような真っ暗な空間で、見えづらいけど時折感じる、蜘蛛の糸みたいに垂らされる奇跡の光みたいなことかな。世界を恨む理由なんて死ぬほどあるじゃないですか。世の中クソなことだらけ、95%ぐらいそうだと思うんですよ。ただ、そんな中でも一生懸命仕事したりしながら、生きることを決心して命を燃やしているときだけは、その95%を忘れてみんなピュアになれると思うんです。そういうふうに世界を支えてくれてるバランス、それが愛かなと思う。嫌なことしかないけど、それでもやる理由というか、それを言葉にしたら手紙みたいに長くなるけど、簡単に言えば愛です。
ーーだから、きっと音楽と愛がめちゃくちゃ近いところにあるんだろうね。「音楽って何ですか?」と聞かれたら「仕事」とは絶対に答えないですよね? 出すか出さないかわからないけど曲は作り続けたわけで。
Leo:そうですね。たぶん信仰ですね。ライブでも音楽を讃えることによって、この世界が少しだけ美しくなるーー結局は音楽を讃えることができれば、音楽があるこの世界自体が美しいことを肯定できると思っているんです。
ーーそれを自覚したのはいつからなんですか?
Leo:17歳ごろからかな。週5日ぐらい歌のレッスンを受けていたんですよ。その当時の先生が大学で授業している人で、いろんなことを教えてくれたんです。ニーチェだとか、聖書だとか、魂だとか、普通なら聞いたら恥ずかしくなりそうなことを、ちゃんと向き合って教えてくれて。それまでは宗教も何も信じていなかったんですけど、その先生と出会ってから、いろいろと考えるようになりました。人がどのように生まれてなぜ生きるのか、なぜ死ぬのかーーそういう疑問に対する答えは教えてくれないけど、それについて考えることを教えてくれた。今も別に何か答えがあるわけじゃないですけど、俺にとってはそこから始まりましたね。
ーー宗教も含めた哲学や思想と音楽が、Leoさんの中には最初から一緒にあったんですね。
Leo:そう。それは(ALIの)前にやっていたThe John's Guerrillaのころから変わっていない感じがする。
ーーそうですよね。だから何があろうとも音楽を続けられているのかもしれない。単に好きだとかいうレベルを超えたところにあるから。
Leo:まさに。今、冷静に振り返るとそうなのかもしれない。