Eve「廻廻奇譚」&ALI「LOST IN PARADISE feat. AKLO」はなぜ胸に刺さる? 『呪術廻戦』とシンクロした先鋭的な2曲を分析

 2020年秋クールのTVアニメで、とりわけ話題になっている作品と言えば『呪術廻戦』。原作は『週刊少年ジャンプ』で連載中の芥見下々による漫画で、「呪い」とそれを祓う呪術師たちの戦いを描いたダークファンタジー作品だ。今年10月よりTVアニメの放送が始まるや、少年漫画の王道と異色が絶妙なバランスで合わさったその作品性と、『ユーリ!!! on ICE』『ゾンビランドサガ』などで知られるアニメ制作会社・MAPPAによるハイクオリティなアニメーションによって注目を集め、今や同じくジャンプコミックが原作の『鬼滅の刃』に続くヒットが期待されている。

 『鬼滅の刃』はLiSAが歌う主題歌「紅蓮華」や劇伴音楽を担当した梶浦由記による劇場版主題歌「炎」(作詞はLiSAと共作)、同じく劇伴音楽を担当した椎名豪による劇中歌「竈門炭治郎のうた」(歌唱は中川奈美)など、作品の世界観に寄り添った楽曲がアニメとの相乗効果でヒットに結び付いた。その意味では『呪術廻戦』の音楽もまた、ヒットのポテンシャルを秘めているように思うし、『鬼滅の刃』のケースとはまた違った距離感で作品の世界観を表現した、アニメ楽曲のアプローチとして面白いものになっている。Eveが歌うオープニングテーマ「廻廻奇譚」と、ALIが担当するエンディングテーマ「LOST IN PARADISE feat. AKLO」。『呪術廻戦』を彩るテーマソングが作品にどのように寄り添っているのか、改めて考察したい。

TVアニメ『呪術廻戦』ノンクレジットOPムービー/OPテーマ:Eve「廻廻奇譚」
Eve「廻廻奇譚」

 まずは、Eve「廻廻奇譚」について。Eveは歌い手シーンやボカロといったネットカルチャーを出自に持つシンガーソングライターで、2019年にアルバム『おとぎ』をトイズファクトリーよりリリース。2000年代以降の日本のギターロックをルーツに感じさせつつ、ジャンルにとらわれないオルタナティブなサウンドセンスと繊細な詞世界で支持を得ている。

 「廻廻奇譚」もソリッドなギターを中心とした疾走感溢れるバンドサウンドが軸になっているが、Aメロ部分の念仏を唱えるような歌い口は、「呪術」を題材とした『呪術廻戦』の楽曲らしい工夫だし、それが2番のAメロ部分ではハーフテンポのトラップ風ビートにアレンジが変化し、聴き手をよりダークな世界へと誘う仕掛けだ。とはいえ、本楽曲の肝になっているのは、オープニングテーマらしい爽快感である。地を這うようなAメロから、ハイトーンで一気に急浮上するBメロを経て、さらに加速度を増すサビの駆け抜けていくようなフィーリング。アニソンらしい外連味を味わえると同時に、それぞれ仄暗い過去や苦い経験を持ちながら己の信念を胸に前へ進む、呪術師たちの光と影を併せ持つ一面をそのまま表しているようだ。

 同じく歌詞も主人公の虎杖悠仁が辿る命運を想起させたり、今後の展開を予感させるフレーズに満ち溢れている。特に2番のサビ頭の歌詞〈五常を解いて 五常を解いて〉の箇所は、本作屈指の人気キャラクターである特級呪術師・五条悟のことを思い出さずにはいられない(原作を読んでいる人ならなおさらだろう)。さらに本楽曲のMVは『呪術廻戦』のアニメとのコラボレーションで制作されており、人気アニメーターの山下清悟が絵コンテ・演出を手がけたオープニングアニメおよびアニメ本編のカットがふんだんに使われている。Eveはそもそもタイアップの話をもらう前から原作のファンだったらしく、だからこそここまで『呪術廻戦』の世界とシンクロした楽曲を作り出すことができたのだろう。

廻廻奇譚 - Eve MV

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる