ドクター・ドレーはいかに“歴史”の創造者となったのか? ハーフタイムショーを前にその功績を確かめる
名プロデューサーが手がけたアーティストたち
ドレーの“良いものを聴き分ける耳”は、何もサウンドにだけ発揮されるものではない。彼は幾人もの重要アーティストをその耳で聴き分け、フックアップしている。
ハーフタイムショーのメンバーの1人、スヌープ・ドッグはまさにドレーに拾われた天才の1人だ。無名だったスヌープに才能を見出したドレーは、自身のアルバム『The Chronic』で彼を大々的にフィーチャー。翌年には、彼のデビューアルバム『Doggystyle』のプロデュースも手がけている。90年代前半の西海岸ヒップホップシーンから始まった2人の親交は長年に渡り、『2001』収録の楽曲「The Next Episode feat. Snoop Dogg」は、ヘッズであればその存在を知らない者はいないほどのクラシックとなっている。
また、エミネムもドレーにフックアップされた1人だ。当時のエミネムのパフォーマンスが収録されているカセットテープ(アイオヴィンの自宅ガレージに埋もれていたという)を聴いたドレーはすぐさま彼に連絡をとり、音楽作りを始める。若きエミネムを発見したドレーの慧眼は、後のシーンが証明することになるが、彼が白人であることから当時のシーン内では懐疑的な意見も飛び交っていた。その中で、ドレーは彼の卓越したラップスキルを信じ、推し続けたのである。後にエミネムは、ドレーのレーベル<Aftermath Entertainment>にてメジャーデビュー作『The Slim Shady LP』を制作。当然ドレーがプロデュースを手掛けた。
ドレーがスターに押し上げたスヌープとエミネム。ちなみに、2人が参加しているアルバム『2001』には、メアリー・J. ブライジも「The Message」で参加している。さらにその後、ドレーがプロデュースした楽曲「Family Affair」(2001年)は、いまだ彼女の代表曲の1つである。
幼い時にドレーを目撃した、ケンドリックもまた彼に発掘された1人だ。評伝『バタフライ・エフェクト:ケンドリックラマー伝』(河出書房)にも詳しく綴られている通り、2010年に彼が発表したミックステープ『Overly Dedicated』の収録曲「Ignorance Is Bliss」のビデオをネット上で見たドレーは、早速連絡をとり、長年塩漬けにされていた自身のアルバム『Detox』のレコーディングに彼を招いている。結局このアルバムは正式にリリースされていないが、それに代わる形で2015年に『Compton』がリリースされ、ケンドリックも2曲参加している。
2022年のハーフタイムショーに集う面々。このアーティストたちを繋ぐ1本の線としてドクター・ドレーはいる。F・ゲイリー・グレイが手掛けたハーフタイムショーの予告映像のラストでは、華々しい5人が横並びになって、スタジアムに向かって歩いていく。そのバックに流れているのは、あの「California Love」だ。
我々は“歴史”を目撃している。