ミッキー吉野×亀田誠治、『Keep On Kickin' It』に込めた音楽愛 人との繋がりが垣間見えた、アルバム制作の裏側

ミッキー吉野×亀田誠治 特別対談

JUJUさんの歌はタケカワとは違った楽しさを与えてくれた(ミッキー)

ーー他に亀田さんがプロデュース面で意識されたポイントは?

亀田:僕は自分がプロデュースを手掛ける場合、大抵は自分で演奏もしくはアレンジすることを前提にプランを進めるんですが、今回はその枠も取っ払いました。自分が弾かなくてもいいし、アレンジはミッキーさんがやっても他の人がやってもいいなと。実際、「銀河鉄道999」はMIYAVI君にトラックメーカーも担ってもらった。自分の枠や関わりを主張するのではなく、広義としてミッキーさんの音楽そのものに貢献してベストな飛距離をマークしたいと思いました。

ミッキー:僕も亀田さんも互いにプレイヤーでありアレンジャーでありプロデューサー気質も持っている。今回は同じ要素を持った二人が、自分のプレイやソロとしてのエゴよりも、皆さんの力を借りて、委ねられるところは大いに委ねて、音楽全体が持つパワーを最優先に考えた。そこがこのアルバムをよりカラフルに染めてくれた気がします。

ーー「委ねる」という感覚を実践するのって、実は年齢を重ねていないと難しいような気もするのですが。

ミッキー:いや、そこは僕の場合、昔から割とシンプルな考え方でね。僕はデビューが早くて、15、6歳の頃から雑誌なんかでよく勝手に“天才キーボードプレイヤー”とか書かれていたんだけど、実際、天才の定義をちゃんと語れる人ってほとんどいないじゃないですか。でも、僕にとって昔から天才とは“二人”ということなんですよ。だって“天”という字は“二”と“人”の重なり合いで出来ているじゃないですか。

ーーああ、たしかに!

ミッキー:天才というのは孤独と捉えがちだけど、決してそうじゃなくてね。二人分、つまり二つの才能が出会った時に、初めて真価を発揮する才能こそが“天才”だと僕は思うし、会話をして、互いの意志や才能を確認して、何かを生み出せる存在こそが“天才”なんじゃないかなって。その思いがあったからゴダイゴを結成する時、タケカワに声をかけたし、今回なら亀田さんに助けを求めた。もちろん10代、20代、30代、40代はエゴも大事だし疑問も抱かなきゃダメだと思いますよ。疑問を抱かないと自分なりの答えが出せなくなるからね。全てを決めるのはいつでも自分自身ですから。

亀田:僕も特に近年、テクノロジーが進化するほど、音楽は決して一人じゃ出来ないと強く感じていますね。そもそも僕はベーシストなので、自分一人では表現しきれない地点からのスタートだったし。若い頃は自分の設計図通りに事が進まないと嫌な時代もありました。もちろん、この太い線だけは絶対この角度で入って行かなきゃダメだといったこだわりは今でもありますけど、最近は自分の設計図通りにならない場面も楽しめるようになりましたね。そこは50歳を超えたという年齢も大きいと思うし、コロナ禍以前、毎年L.A.まで出向いて海外のプロデューサーとコライトした経験とか、映画や舞台の音楽も手掛けるようになったとか、様々な経験も影響していると思う。僕は東京事変のメンバーでもありますけど、いきものがかりともやるし、布袋寅泰さんとも石川さゆりさんとも音楽を奏でていて、その全てがたしかに自分の一面でもある。だからこそ、ミッキーさんのおっしゃる通り、最後に決めるのはやっぱり自分なわけで。

ミッキー:それを自覚することが出来たら強いよね。人って人の一面しか見ないし、売れればそれが100パーセントに映るけど、ゴダイゴが僕の音楽性の全てではないし、自分が楽しいから、興味が湧いたから手を出す場合だってあった。むしろ選ばずに何でもどんどんやっちゃうほうがいいと思う。それが多面的な表情の一部となって、決まった物差しで測られなくなるから自然と楽になるし、いずれはその人の個性そのものになるはずだから。内田さんもライターとして何でもどんどん書いたほうがいいですよ(笑)。

ーーありがとうございます。ちょっと勇気が湧いてきました(笑)。今回のアルバムのレコーディングはコロナ禍を受けてほとんどがリモートで行われたことも大きな特徴でしたね。

ミッキー:僕がゴダイゴを結成した当時から大事にしてきた一つが“客観的な視点”でした。今回のリモートレコーディングはより自分の音楽に対して客観的になれて、良い機会でしたね。しかも客観的に見たからといってパワーが落ちるわけじゃない。むしろ時間も自由度も幅があってどんどん足すことが出来た。

亀田:そうですね。ここを直したいと思ったらすぐ直せるし、新しく閃いたアイデアをパワーにしてどんどん注入出来た。僕は昔からどこか同録至上主義というか、face-to-faceで音楽を作ることを重要視していたし、無論、今でもスタジオマジックを信じている部分も大きいんですが、コロナ禍に入ってそれが必然的に断ち切られた場面に多々直面した。でも決して直接集まらなくても、その人の個性が伴えば、面白いくらいちゃんとその人の音になる。そこも大きな気付きでしたね。しかもリモートレコーディングによって、自分が音楽を始めた頃の初期衝動やデモテープを作ってオーディションに送っていた頃の純粋な気持ちも思い出せた。自分の細胞が若返るような感覚さえあって、楽しくて仕方がなかったですね。

亀田誠治

ーーリアルサウンドではアルバム3曲目の「DEAD END〜」については配信リリース時にミッキーさんとSTUTSさんの対談を行いました(※1)。ここからはその他の収録曲について伺っていきます。1曲目は冒頭でお名前が挙がったJUJUさん参加の「The birth of the odyssey ~ Monkey Magic feat. JUJU」です。

ミッキー: JUJUさんの歌はタケカワとはまた違った楽しさを与えてくれましたね。自然とこちらが笑顔にさせられるような明るさがあって。

亀田:JUJUさんがあんなに楽しそうな表情で歌う姿ってレアというか。少なくとも僕は『日比谷音楽祭』で初めて見た気がします(笑)。彼女自身のゴダイゴ愛も楽曲への愛もしっかりあったし、オリジナルはタケカワさんが歌っているわけで、JUJUという女性が歌うというジェンダーを越えるという意味でも意義あるトライだと思いました。あと、ミッキーさんとのお話の中でオリジナルの通り、本来「The birth of the odyssey」と「Monkey Magic」は2つで1曲という作者のアツい思いも聞かせていただいていたので、しっかりと連結した形でリスナーに届けたかった。それでアルバムの最初に持ってきました。

The birth of the odyssey ~ Monkey Magic feat. JUJU

ーー続いての「君は薔薇より美しい feat. EXILE SHOKICHI」も、あまりのSHOKICHIさんのハマり具合に思わず笑ってしまいました。

ミッキー:これは亀田さんが「絶対自信がある」と言ってやったんだよね。ラテンっぽさも含めてがっちりハマった。素晴らしいですね。

亀田:SHOKICHI君と曲の方向性をオンラインでミーティングした時、彼がぽろりと発した「この曲にはカリブの青空が見えるような突き抜ける感じがある」という言葉にピンときました。ゴダイゴの楽曲同様、この曲も布施明さんの代表曲として絶対的な認知があるけど、SHOKICHI君の歌なら全く違う色になるという確信がありました。

「君は薔薇より美しい feat. EXILE SHOKICHI」MV

ーー4曲目の「Take a train ride ~ from Swing girls (Piano Piece)」と9曲目の「Beautiful Name (Piano Piece)」は、それぞれミッキーさんのピアノによるインストゥルメンタルです。

ミッキー:これも亀田さんの薦めだったね。

亀田:最初、「亀田さん、俺にバラード弾かせようとしていない?」ってかなり警戒されましたが(笑)、僕はどうしても今回“ピアニスト・ミッキー吉野”もフィーチャーしたかった。ちょうどピアニストの反田恭平さんがコロナ禍にブルグミュラーを弾いた作品集を出されたんですが、その小品集が僕に「ピアノってなんて可愛いらしくて身近で寄り添ってくれる楽器なんだろう!」と思わせてくれたこともヒントになりました。あと「ビューティフル・ネーム」は敢えてインストにすることで、ゴダイゴのオリジナルバージョンを知る多くのリスナーがより歌詞を意識してくれたり、新たなリスナーが配信サービスを通じてオリジナルに触れるきっかけになるんじゃないかという目論見もありました。白状しちゃうと「ビューティフル・ネーム」も「Take a train ride」も単に「僕が大好きな曲」というのが最大の理由なんですが(笑)。

ミッキー:ありがとう。せっかく薦めてもらったし、どうせやるならクラシックでもジャズでもなく、エンターテインメントな曲になればと思って。亀田さんの言葉に乗っかって、普段ならやらないようなアカデミックな味付けを入れたりしてね。このアルバムって全曲異なるサウンドで、ソロアルバムだけど曲の数だけのバンドサウンドが存在するというか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる