ミッキー吉野×亀田誠治、『Keep On Kickin' It』に込めた音楽愛 人との繋がりが垣間見えた、アルバム制作の裏側

ミッキー吉野×亀田誠治 特別対談

 昨年12月22日に配信リリースされたミッキー吉野のアルバム『Keep On Kickin' It』が2月2日、CDパッケージでもリリースされた。プロデューサーに亀田誠治、ゲストアーティストにJUJU、EXILE SHOKICHI、STUTS、Campanella、MIYAVI、Char、タケカワユキヒデ、Mummy-D、岡村靖幸など錚々たる面々がゴダイゴ/ミッキー吉野の珠玉のナンバーを奏でた本作は、ミッキーの古希を記念した『ミッキー吉野“ラッキー70祭”【KoKi】プロジェクト』の総集編とも言える一作となった。今回、CDリリースを記念してミッキーと亀田のリモート対談が実現。コロナ禍、ほぼ全編リモートレコーディングで制作された本作のメイキングから互いが抱く音楽愛までを大いに語ってもらった(内田正樹)。

ミッキーさんとならきっと良い作品が出来るという直感があった(亀田)

ーーお二人が出会ったのはいつ頃のことでしたか?

ミッキー吉野(以下、ミッキー):4年くらい前でしたかね。ちゃんとご一緒したのは亀田さんが実行委員長を務めている『日比谷音楽祭』(2019年)が初めてでした。湯川れい子さんたちと共にアドバイザリーボードの一員となって、ゴダイゴで出演もさせてもらいました。

亀田誠治(以下、亀田):僕は十代の頃、全米トップ40を追いかけるアメリカンポップス大好き少年として思春期を過ごしていたんですが、それに全然負けないエネルギーのある音楽を1970年代後半に、しかも日本のミュージシャンが鳴らしていることを知って、それがゴダイゴでした。その時からずっとゴダイゴの音楽で育ってきたという実感がありました。『日比谷音楽祭』で同じステージに立たせていただいた時、僕は生意気にも「『Monkey Magic』は絶対やりたい」とか「最終日は『ビューティフル・ネーム』で締めたい」とか、結構わがままなリクエストをたくさんしちゃったんです。でも、ミッキーさんもタケカワユキヒデさんも全て応えて下さった。その寛大さに感動しましたね。その時、JUJUさんも一緒に歌ってくれたんですが、そのご縁が今回のアルバムの共演にも繋がっています。僕はもう50歳を過ぎましたが、自分が子供の頃から憧れていたレジェンドとの演奏は自分にとって非常に画期的で、何よりワクワクする出来事でした。

ーーアルバムのプロデュースはミッキーさんから亀田さんに依頼されたそうですが。

ミッキー:『日比谷音楽祭』で接した亀田さんのバンドのまとめ方や話のクリアさ、様々なミュージシャンのリアクションを見て、これは相談する他にないと思った。『日比谷音楽祭』でご一緒させてもらった方々が今の日本のトップラインだということも理解できたし、どうせやるならそのラインでいま何が起きているのかも知りたかったし。何より「亀田さんなら信頼できる」と直感した。それで2020年の夏に僕から電話をかけたんだよね。

亀田:最初はあまりにミッキーさんの話の腰が低過ぎて「な、何事!?」と思いました(笑)。すると「実は来年(2021年)の古希にあたってソロアルバムを作りたい」と。「もしかしたらキャリアの集大成になるかもしれないし、年齢的にも最後の録り下ろしアルバムかもしれない。何かアドバイスをくれるとうれしいんだけど」と控えめにおっしゃって。僕は瞬時に「それならがっつりご一緒させて下さい」と答えました。

ーー亀田さんはこれまでプロデューサー/アレンジャーとして数多のアーティストとお仕事をされていますが、今回のような、正式なオファーではなく相談レベルからプロデュースが決まるというケースは珍しかったのではないですか?

亀田:たしかにオファーというよりも一対一の個人の会話でしたね。ただ僕は僕で『日比谷音楽祭』を初開催するまでの苦労を都度ミッキーさんに聞いてもらっていたので、音楽面と人間面の両方でミッキーさんとならきっと良い作品が出来るという直感があった。あと、結果的に個との結び付きから作品が生まれるという図式も、コロナ禍のいまだからこそアリなんじゃないかとピンときた部分も大きかったですね。どんな制作を経てどんな作品になるか全く分からなかったけど、これは心の声に従って走り出そうと思った。「全亀田を投入してご一緒させてもらえるならば、きっと良いものが出来るはずです」とお答えして、そこから制作が始まりました。

ーーちなみにミッキーさんとしては、今回、例えば延々と粘土をこねてろくろを回すような一人きりのソロワークスタイルなどは全く頭にありませんでしたか?

ミッキー:それは最初から興味が無かった。そういうスタイルも過去に散々トライしたけど、全てを自分で手掛けて追求し始めると、それはポップミュージックというよりアートの領域になってしまう。どうしてもモノラルな音楽になるんですよね。例えばスティーヴィー・ワンダーの音楽も、彼が一人で作った曲って、どこかモノラルで、あまりカラフルじゃないんだよね。今回はもしかしたら自分のキャリアの総括になるかもしれないという思いもあったので、人との関わり合いの中で花が開くような、カラフルな作品に仕上げたかったんです。

ミッキー吉野
ミッキー吉野

ーーなるほど。制作はどのようなプロセスで進んでいったのでしょうか?

ミッキー:まずは想定していた楽曲と自分の考えを亀田さんに提示しました。レパートリーからの選曲や新曲へのこだわりというよりも「音楽の魂というものが存在するならば、それをどんな形でリスナーに届けようか?」とか、レコーディングが始まるまでの間、半年くらいディスカッションを重ねましたね。

亀田:そう。とにかく「スピリット」「ソウル」というワードは繰り返しおっしゃっていた。あと「コロナ禍という時代の閉塞感を打破したい」というお話しもあって。その時点から「DEAD END ~ LOVE FLOWERS PROPHECY feat. STUTS & Campanella」のデモもありましたね。「DEAD END〜」をいまこの時代に投げ掛ける意味合い、「時代の袋小路の打破は全て自分の決断にかかっている」というメッセージをミッキーさんは丁寧に説明してくださって。

ミッキー:そうですね。「DEAD END〜」は、今回のアルバムに込めたいパワーの象徴だった。

ミッキー吉野 [Mickie Yoshino] DEAD END ~ LOVE FLOWERS PROPHECY feat. STUTS, Campanella Official Audio

ーーミッキーさんが考える“音楽の魂”についてもう少し伺ってもいいですか?

ミッキー:“音楽が繋ぐ思い”と“音楽で繋がっていく思い”と言えばいいのかな。僕の中ではストリートでのセッションもバンドで演奏する前に数えるカウントもクラシック音楽のスコアも全てが繋がっていて、それこそが僕にとって音楽のスピリットなんです。今回、そうした思いを「歓びの歌 feat. Mummy-D」で昇華させることが出来たと思っていて。

ーーチャック・ベリーのナンバーには「Roll OverBeethoven」という曲があります。一方で、たしかThe Rolling Stonesのキース・リチャーズも語っていた気がするんですが、ベートーベンって実は結構ロックですよね。

ミッキー:やっぱりそう思いますか? うれしいですね……あのギターリフってすごいインパクトじゃないですか。僕がこれまで目指してきた音楽のスケール感や迫力の基準は、バッハでもショパンでもなくベートーベンだったんだなと、今回改めて気付かされました。こういう発見の瞬間がまた素晴らしくてね。自分を確認することでまだまだ成長していけるというか。そして直感した通り、亀田さんはそうした僕の思いを見事に整理しながら具体化してくれました。

亀田:ミッキーさんの言葉を自分なりに咀嚼しながら、僕としては、今から50年前にスタートしたミッキーさんのキャリアの金字塔として、この先、50年後も100年後も愛されるような音楽を作ろうと考えました。人との繋がり、音楽との繋がり、つまりはミッキー吉野という一人の音楽家の個人史をきちんと反映させるためには、どんな仲間たちと一緒に作ればいいのか。それを半年かけて練り続けました。

ーー結果、文字通りカラフルな錚々たるゲストアーティストが揃いました。近年、コラボレーションってどこか“feat.”という記号でカジュアルに括れるようになったような感覚もあるのですが、今回アルバムを聴いて、あらためてアーティストと楽曲の相性や、参加していただいた皆さんが楽曲に注ぎ込むパワーについて色々と考えさせられました。

亀田:それはうれしいですね。僕自身、今回のゲストアーティストについては互いのリスペクト、音楽愛など、明確な基準を設けてお声掛けしたつもりです。だから基本的に1曲に対して1アーティストでした。第二候補、第三候補みたいな代案は設けず、ほぼ「この楽曲をこの人に」という提案をモットーに、丁寧に組み立てていきました。すると皆さんとミッキーさんの相互の背景の繋がりも自然と見えてきてね。Mummy-Dさんが子供の頃、横浜のミッキーさんの自宅でピンポンダッシュしたぐらいゴダイゴ好きだったとか、「銀色のグラス」に参加してくれたハマ・オカモトくんのザ・ゴールデン・カップス愛や、Charさん、あっくん(金子ノブアキ)の家族のような繋がりとか。そういったストーリーを誠実に嘘が無いように大切にしていきました。だからパワーを感じてもらえたんじゃないかな。

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