TENDRE、WurtS、緑黄色社会……注目高まる車のCMソング 歴代曲と共に親和性を考察

 ドライブと音楽ーーこの2つの関係は、切っても切れないものだ。Spotifyが公式で「Drive Loud!」というドライブ用のプレイリストを作成していることでも、ドライブと音楽、さらに言うと車と音楽の親和性が高いことがうかがえる。

[Drive Loud!]

 そこで、記憶に残る歴代の車のCM曲から、改めて音楽との親和性について紐解いてみたい。1960年代後半から1970年代半ばにかけて、日本では「一家に(車)一台」というフレーズが定着していたが、それが数字的(世帯数と乗用車保有台数)に一致したのが1988年頃である(※1、2)。それを踏まえ、1988年以降のCMソングに絞り考察することとする。

“車=大人のプライベート空間”というムードがCM楽曲起用にも影響

 前述したフレーズにもあるように、車を保有することは、一家のステイタスの象徴だった。1964年、初めて東京でオリンピックが開催されテレビの普及が一気に進み、それまでステイタスの代表格であったテレビに替わり台頭してきたのが、持ち家と自家用車である。特に車においては「一家に一台」が文字通りクリアされて以降もステイタスであり続け、「一家に一台」から「一人に一台」と言われるようにまでなっていった。結果、車は今の時代につながる“プライベートな空間”として認知されるようになったのだと思う。ゆえに、1980年代頃の車のCMには、ファミリーカーとしてのアプローチはあまりなく、雄大な自然の中や海外の街並みを走る車にスポットを当てたCMが多い。

 そんな中で、当時の“車=大人のプライベート空間”という新しいムードを的確に捉え映像化したのが、1988年に放送された日産・セフィーロのCMである。楽曲は井上陽水の「今夜、私に」。ミディアムチューンの大人っぽい1曲だ。井上陽水本人もCMに出演して話題となったが、「くうねるあそぶ。」というキャッチコピー、CM中の台詞「お元気ですか~?」なども大流行し(※3)、小学生までその台詞を口にしていた記憶がある。この現象は“経済力ある大人=自分の車を持てる”だけでなく“車を所有していることへの憧れ”として、若年層までの心を掴んだ結果だろう。

 この“走るプライベート空間”というそれまでの車の概念に、新しい視点を加えたのが、1994年に放送されたトヨタ・カローラⅡのCMである。楽曲は、1993年にソロデビューし、人気を博していた小沢健二の「カローラⅡにのって」。タイトでキャッチーなフレーズの繰り返し、アコースティックなアレンジが、小沢健二の歌声にマッチしたほんわかしたミディアムチューンだ。さらに注目すべきは歌詞であり、彼を迎えに行き待ちぼうけをくらった1時間を〈カローラⅡはその時 私の図書館〉と表現し“走るプライベート空間”だった車を“停車している時も同様だと歌っている。そしてこの曲の主人公は女性。それまで車を運転するのは、主に男性という印象が強かったため、“車のカッコ良さ”を見せるCMが多かったように思うが、この頃から、女性をターゲットにしたCMも増えていく。

 このようなCMで印象に残っているのが、2006年から放送されたダイハツ・ムーヴラテのCMだ。楽曲は、PUFFYが1998年にリリースしたシングル「たららん」と「パフィー de ルンバ」で、本人たちもCMに出演。日常のちょっとしたアクシデントをお茶目にやりすごす大貫亜美と吉村由美の姿も好印象だったが、アクシデントからのリセットという“プライベート空間=車”のリアルな使い方をコミカルに描いたCMは、シリーズ化され、ロングヒットとなった。CM用に書き下ろされたものではなく、既存のPUFFYの楽曲を使用し、映像と見事にシンクロしていたことも支持を得た理由の一つだろう。

PUFFY 『たららん』

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