宇多田ヒカル、スタジオから届けた極上の陶酔感 『BADモード』からUtada時代の楽曲まで披露した貴重な配信ライブ

宇多田ヒカル、配信で届けた極上の陶酔感

 宇多田ヒカルが自身初となるスタジオ配信ライブ『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios』を開催した。このスタジオライブは1月19日に先行配信されたニューアルバム『BADモード』の収録曲をライブパフォーマンスで初披露するというもの。映像はロンドンの名門レコーディングスタジオであるAir Studiosで収録され、彼女の誕生日でもあるこの日に世界へ向けて配信された。

宇多田ヒカル『BADモード』

 事前収録とはいえ、彼女が歌う姿を披露したのは2018年に開催した『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018』以来となる。今回はそのツアーでバンドマスターを務めていたジョディ・ミリナーを中心に名うてのミュージシャンたちが集結した。ちなみに彼は、サム・スミスやアリシア・キーズ、ジェイムス・ベイらのレコーディングに参加した経歴を持つ、活動再開後の宇多田ヒカルを支える最重要ミュージシャンの一人だ。新作『BADモード』の表題曲の作曲にも参加している。

 さて、あれから4年近くが経ち、その間に世の中の状況は激変した。もちろんパンデミックによる影響が大きいが、日本に限れば平成から令和という時代の変わり目もあった。そうしたなかで、宇多田ヒカルというアーティスト(およびその作品)にはどのような変化があったのか。その一端を知れたのがコロナ禍突入直後の2020年5月、ロックダウン中のイギリスの自宅から配信された生番組『自宅隔離中のヒカルパイセンに聞け!』である。そこで彼女は、ゲストに迎えたTaka(ONE OK ROCK)との会話のなかで、大勢が集まって曲作りする制作風景を見て衝撃を受けた話を明かしていた(※1)。曲作りのすべてを一人で完結できる才能を持つ彼女にとって、それが新鮮な体験であったことは想像に難くない。そしてその体験が、その後の彼女の作品に影響するものだったのではないかと推察している。つまり、多くの人々が制作現場に携わり、より完成度の高い作品を構築し合う。そうした現代型の制作スタイルへとシフトしていく予感がしたのだ。では、そんな彼女の今現在の“モード”を、今回の配信ライブで楽しみたい。

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 スタジオに入ると笑顔を見せた宇多田ヒカル。一緒に登場したミュージシャンたちも和やかな雰囲気だ。1曲目は「BADモード」。時折バンドメンバーがアイコンタクトを送りながら、蕩けるような美しいサックスの演奏や、柔らかい音色のキーボード、強靭なグルーヴを奏でるドラムの生み出すアンサンブルを展開していく。続く「One Last Kiss」ではイントロから神聖なムードが漂う。彼女はマイクスタンドに両手で軽く触れながら、アウトロではキーボードをリズミカルにタッチ。次の「君に夢中」では目を瞑りながら高音をエモーショナルに歌い上げ、逆に低い音では別人のような迫力で歌ってみせる。声色の使い分けが見事で、それによって〈どの私が本当のオリジナル?〉の一節がビシッと決まっていた。

 次の「誰にも言わない」と「Find Love」ではサウンド面に耳が奪われた。今回の配信全体に言えることだが、どの音も非常にクリアに聴こえる。普段のライブだと座席の位置によってはバランスが崩れたりするものだが、やはり配信だとすべての音粒が鮮明に聴こえ、全員の鳴らす音が絶妙な塩梅で溶け合っている。まさに極上のサウンドで宇多田ヒカルの世界に没入することができるのだ。まるで海の中を泳ぐようなアトモスフェリックなサウンドスケープ、そして彼女の発する言葉の数々が心の芯に染み渡る。

宇多田ヒカル『Find Love』Live ver.

 しっとりとスタートさせた「Time」では、あの難解なリズムパターンを生ドラムで再現していたことに驚かされた。改めて近年の宇多田作品の一筋縄ではいかない複雑さを痛感させられたが、その上で優雅に歌うボーカルとの対比がまた芸術的なのだ。先進性と大衆性の狭間で揺れる、ほどよいバランス感覚とでも言うべきか。リズムと言葉の複雑な絡み合いが、終盤に行くに従って徐々に収束していく様は快感以外の何物でもなかった。



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