『ジャンプ』アニメが広げた“ロック”の豊かさ 米津玄師、Aimerら主題歌アーティストと作品の関係性
日本のポップミュージック史は、いつの時代も色とりどりのタイアップ楽曲によって彩られてきた。タイアップ楽曲には、CMソングやドラマ主題歌など様々な形があり、各年に生まれたヒット曲を振り返ると、その多くは、ある商品や映像作品とアーティストによるコラボレーションをきっかけに生まれていることに気付く。そして、数あるタイアップの形の中でも、長きにわたって大きな注目を集め続けている系譜がある。それが、“『週刊少年ジャンプ』作品×ロック”というタイアップだ。先日、別記事(※1)でも紹介したように、『呪術廻戦』(TBS系)のアニメ&映画主題歌として、Eve「廻廻奇譚」やKing Gnu「一途」「逆夢」が各チャートを席巻しており、このケースに限らず、こうした大きな注目と支持を集める幸福なタイアップが非常に多いと言える。今回は、数々の『ジャンプ』アニメの主題歌を挙げながら、“『ジャンプ』作品×ロック”の関係性について迫っていきたい。
“『ジャンプ』作品×ロック”のタイアップの歴史は非常に長いが、一つの大きなターニングポイントとなった楽曲は、『NARUTO-ナルト-』(テレビ東京系)のオープニング主題歌となったASIAN KUNG-FU GENERATION「遥か彼方」ではないだろうか。アーティストにとって、自身の楽曲が人気アニメの作品の一部になることは、自分たちの存在を日本全国(そして、海の向こう)へ訴求していく絶好のチャンスでもあるはず。同曲をはじめ、2000年代以降、『ジャンプ』作品のアニメ主題歌をきっかけとして一気にブレイクスルーを果たすアーティストが次々と生まれていった。以下、いくつか代表的なタイアップ楽曲の一部を列挙していく。
『DEATH NOTE』(日本テレビ系)
マキシマム ザ ホルモン「絶望ビリー」「What's up,people?!」
『BLEACH』(テレビ東京系)
サンボマスター「君を守って 君を愛して」
『D.Gray-man』(テレビ東京系)
UVERworld「激動」
『HUNTER×HUNTER』(第2作目:日本テレビ系)
Fear, and Loathing in Las Vegas「Just Awake」
『銀魂』(テレビ東京系)
BLUE ENCOUNT「DAY×DAY」
『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』(テレビ東京系)
KANA-BOON「バトンロード」
『僕のヒーローアカデミア』(テレビ東京系)
MAN WITH A MISSION「Merry-Go-Round」
このように振り返ると、『ジャンプ』作品のアニメ主題歌はロックシーンを中心に活動するアーティストにとって一つの転機となっていると捉えることもできる。しかし、ただアニメ主題歌として楽曲が放映されれば、自ずとアーティストの人気が出るという単純な話ではない。作品と共に長年にわたって愛され続ける楽曲を生み出すためには、その前提として、アーティストサイドの原作漫画、およびアニメへの深い理解と愛があってこそ。では、各アーティストは『ジャンプ』作品とどのように向き合い、どのような想いを込めて楽曲を生み出しているのだろうか。
『ジャンプ』作品に共通するテーマとして、“努力”・“友情”・“勝利”といった言葉が挙げられるが、そうした作品の本質に接近していく必然として、タイアップによって生み出される楽曲も自ずとそうしたテーマを内包しているケースが多い。例えば、劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』の主題歌としてWANIMAが書き下ろした「GONG」は、全編パンチラインのような楽曲だが、特に〈強くなって守りたい仲間がいるから 狙い定め ためらうことなく ただド真ん中を〉という一節は、『ONE PIECE』という物語の、そして、いつの時代も少年漫画の“王道”を闊歩し続ける『ジャンプ』作品の本質を美しく射抜いた名フレーズだと思う。KENTA(Vo/Ba)は、それまでも様々な楽曲で自身の想いをストレートに伝えてきた。しかし「GONG」のようにここまで真っ直ぐなメッセージを迷いなく形にすることができたのは、きっと『ONE PIECE』と自分たちとの間にシンパシーがあったからだと思う。
2017年には米津玄師が『僕のヒーローアカデミア』に「ピースサイン」を提供している。それまでの彼のディスコグラフィを振り返っても、ここまでてらいのないストレートなロックナンバーは珍しい。おそらく熱い物語と真正面から対等にぶつかり合うため、米津はこの直球のロックサウンドを求めたのではないか。〈君と未来を盗み描く 捻りのないストーリーを〉という一節がとても印象的で、王道とも言える『ジャンプ』作品の冒険活劇を〈捻りのないストーリー〉とあえて一つの否定的なワードを通して表現する視点がどこまでも米津玄師らしい。