石崎ひゅーい、“歌”で牽引したバンド編成ツアー アルバム『ダイヤモンド』にも高まった期待

 12月22日に5年ぶりのオリジナルフルアルバム『ダイヤモンド』をリリースする石崎ひゅーい。この日の1曲目は、アルバムのラストを飾る「スワンソング」だった。終演数時間後に配信が始まった「スワンソング」は伴奏はピアノのみのシンプルなバラードで、ライブでも鍵盤との二重奏アレンジで披露。バンド編成と謳っていたツアーだけに、意表をつくアプローチであり嬉しいサプライズだった。照明はステージにある明かり2つだけ。視覚情報がほぼない状況のため、より音楽に没入できた。呼吸の流れを無視することなくあくまで自然につけられるダイナミクスや、声の中にある微細な震えと掠れ。その一つひとつがつぶさに伝わってくる。日常から、ライブという空間へ入り込んでいく。

 『石崎ひゅーい Tour 2021「from the BLACKSTAR」』は、石崎にとって2年ぶりのバンド編成ツアーだった。昨年のクリスマスワンマンがコロナ禍初の有観客ライブで、今年2月に弾き語りでの東名阪ツアーを開催。9~10月に全国アコースティックツアーをまわり、その他にもイベントに出演するなどライブ活動は徐々に再開できているが、とはいえ、感染症対策ガイドラインが存在するなど、コロナ以前とは勝手が違う状況だ。秋山浩徳(Gt)、隅倉弘至(Ba)、原治武(Dr)、バンドマスターのトオミヨウ(Key)による肉体的なバンドサウンド、そして2曲目「ブラックスター」のグルーヴを前にしても観客はやや緊張している様子。すると石崎が「立てる人は立ってもいいんだよ」と投げかけ、その言葉に導かれるように観客が席を立ち、徐々に身体を揺らし始めた。手で庇を作り、嬉しそうにそちらを見る石崎。そんななかで演奏された「第三惑星交響曲」。力強く歌われる〈だから悲しくなんかないよ/だから寂しくなんかないよ/バイバイなんかじゃないよ/鍵はあけておくから/いつだっていつだって〉というフレーズが“ライブハウスでいつでも待っているよ”と言ってくれているようで、明るい曲なのにグッときた。「跳べ、東京!」と言いながら石崎自ら跳んでいたり、石崎が「ギター!」と叫び秋山がジャンプしながらソロを弾くと、石崎も一緒にジャンプし、そんな2人を見て笑う原が手数を増やすという場面があったりと、ステージ上のテンションも高い。

 菅田将暉版より泥臭いアレンジの「さよならエレジー」を経てMC。MCの時、客席の方がかなり明るく照らされていたのは、観客一人ひとりの表情を確認するためだろうか。ここでは、観客の拍手に対して「長いね、もう終わったみたいな拍手じゃん!」と笑いつつ、「2年分めちゃくちゃ溜まっているわけですよ。全部放出していこうと思います!」と宣言。そして、ドラマティックなバンドサウンドの中で石崎も声を張る「ガールフレンド」、穏やかな声色で歌う「ピノとアメリ」とタイプの異なるバラードを届け、「俺ばっかり声出してすみません。次の曲、心の中で歌ってもらっていいですか? みんなの代わりに俺が叫んでもいいですか!」とアッパーな「ファンタジックレディオ」へ乗り出した。この5人によるバンドサウンド、全開で鳴らされた時にかなり音が分厚くなるのだが、石崎の歌はその中で燃え、光っている。また、バンドがサッと止んで歌だけになった時に(もちろん繊細な感情表現は伴うものの)“炎が弱まった”という印象にならないのがすごい。剥き出しの歌声に触れられる弾き語り・アコースティックもいいが、石崎の歌が持つ牽引力のようなものが発揮されるのがバンド編成の良さだと感じた。

 「お前は恋をしたことがあるか」をこのツアーならではのバンドアレンジ(トオミが前奏を奏で、そこに歌が加わることで曲がスタート、冒頭ブロック終了後にバンドインすると、以降は同期のストリングスを携えたバンドアレンジ)で届けるなど特別な場面を挟みつつ、『ダイヤモンド』の片鱗を覗かせたのはライブ中盤。アルバムに先駆けて配信シングル化されている「Namida」、「Flowers」に続けて、このツアーで初披露の「パラサイト」を演奏した。「パラサイト」は色っぽさとそれゆえの危うさを感じさせる曲。今回のセットリストの中でも異彩を放っていたが、「Flowers」の時点からギターなどで奇抜な音を鳴らすことで、前曲からのスムーズな移行を実現する。

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