リリースと同時にクラシック(古典)となった『30』 アデルはどこまでも例外的にして別格の存在だ

アデル『30』を宇野維正が徹底レビュー

 『30』リリース後のリアクションとして書き残しておかなくてはいけないのは、Kanye Westの一連の動きだろう。今年、『30』と並ぶ歴史的傑作『Donda』をリリースした後、Kanye Westは自身のライフワークとなっている毎週日曜の聖歌隊によるSunday Service(日曜礼拝)のセッションを再開。長年のコラボレーターであり、最も親しい友人の一人でもあったデザイナーのVirgil Ablohが亡くなった当日(11月28日)のセッションで、“In loving memory of Virgil Abloh, creative director of ‘Donda'”(『Donda』のクリエイティブ・ディレクター、ヴァージル・アブローを偲んで)という文字がスクリーンに映し出された後に最初にパフォーマンスされたのはAdele「Easy On Me」のカバーだった。Adeleはそれを受けて“Your Easy On Me was breathtaking at Sunday Service, and the lyric changes were so moving! Thinking of you, love”(Sunday Serviceでのあなたの「Easy On Me」は息をのむほど素晴らしく、新たに手を加えられたリリックもとても感動的でした!  あなたのことを思っています、愛を込めて)としたためた直筆の手紙をKanyeに送った。

“Easy On Me” (Full Version) Sunday Service Collective Yemix

 実際、リリックの〈“baby”(あなた)〉の箇所を〈“father”(父なる神)〉に置き換えて、我々に過酷な試練を与える神に「お手柔らかに」と懇願したKanyeによる「Easy On Me」のカバーは、Adeleの(他のほとんどの曲もそうであるように)パーソナルなラブソングとして生み出された同曲が内在する、ゴスペルソングにも通じる荘厳さとスピリチュアル性を引き出していて、オリジナルの「Easy On Me」がいかに「同時代のヒットソング」を超越した普遍的なクラシック(古典)であるかを証明するものだった。Kanyeは12月9日に開催したDrakeとの和解ライブ、『Free Larry Hoover Benefit Concert』のオープニングでも、Sunday Service Choirの定番曲「Ready or Not」(Fugees)と「Back to Life」(Soul II Soul)に挟んで「Easy On Me」を披露。もし20年後もSunday Serviceを続けていたら、きっとそこでも「Easy On Me」は聖歌隊によって歌われていることだろう。

 2021年も残りあと少し。Adeleの『30』はきっと多くのメディアやクリティックの年間ベストでトップの作品として挙げられるだろう(11月リリースなのでグラミー賞では再来年に開催される授賞式での対象作品となる)。しかし、 はっきり言ってAdeleの作品の真価について語ったり評したりするには1年や2年のスパンでは短すぎる。Adeleはこれまでがそうであったように、これからも例外的な存在であり続ける。

アデル 30
『30』

■リリース情報
アデル
ニューアルバム『30』
国内盤・輸入盤:2021年11月19日(金)
全形態:解説・歌詞・対訳付き
https://Adele.lnk.to/30ALJPRE

【完全生産限定盤】
SICP-6425/2860円(税込)
紙ジャケット仕様+ボーナストラック 3曲

【通常盤】
SICP-6426/2640円(税込)

【日本製造海外流通盤】(国内仕様)
アナログ盤:SIJP-113~114/5940円(税込)
ブラックヴァイナル仕様

【輸入盤】(国内仕様)
アナログ盤:SIJP-115~116)/5940円(税込)
発売日:2021年12月1日(水)
クリアヴァイナル仕様

アデル日本公式サイト

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