歌唱と表現力で確かな爪痕残した4組の原石たち 『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.2』神戸公演レポート
音楽プロデューサー 保本真吾が主催する新人発掘プロジェクト『Enjoy Music!』。保本自身がセレクト&プロデュースしたアーティストを集め、10月より3週連続でコンピレーションアルバム『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.2』を配信リリースしている。11月にはそのリリースを記念し、東京・新宿ReNYと兵庫・神戸VARIT.でライブイベントを開催。コンピレーション参加者に加え、各所でオープニングアクトを加えたラインナップで、東西の音楽シーンを盛り上げる。ここでは11月27日に開催された神戸公演をレポート。Sigma-T、山田あさひ、中野大地、きばやしの渾身のパフォーマンスの模様をお届けする。
Sigma-T
オープニングアクトを務めるのは、『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.1』に参加している大阪の新世代ラッパー Sigma-T。環境音とリズミカルなビートを掛け合わせた「O.P.E.N.」を幕開けの合図に、「Stimulation」「LOADING」を立て続けに披露。DJ Fujiによる心地良いビートのマジックと、Sigma-Tの囁くような甘い歌声が場内にじんわりと響いていく。「まだどこでもやっていない新曲を」と一言告げ、今回が初披露となる「STAR」へと続き、低音を響かせた言葉の羅列で、オーディエンスたちの高揚感を誘った。
自己紹介と挨拶を兼ねたMCを挟み、人を楽しませる存在になりたい思いを込めたという「晩餐会」へ。ステージを右往左往しながら、会場にいる一人ひとりに語り掛けるように歌う。何気ない日常のワンシーンにあるドキドキやワクワクを、優しい表情で歌う姿が印象的だ。一息つき、公演の主催者である保本との思い出を語ると、コンピレーションアルバムにも収録されている「Melting」、ラップパートとメロディパートの重なりに引き込まれる「イルミネーション今夜だけ」と、柔らかな声質を活かしたキャッチーな2曲を続けて披露。華やかな楽曲たちで場内をしっかりと温め、メインアクトに繋いだ。
山田あさひ
アコースティックギター1本を抱え、静かにステージに歩いてくるのは、愛知県在住のシンガーソングライター 山田あさひ。息を吸う音を合図に「貝」からライブが始まった。透き通るその歌声に、観客は吸い寄せられるように彼女に観入ったと思えば、小さな身体からは想像できないほどの力強い歌声が場内に鳴り響く。「飛騨から来ましたシンガーソングライター 山田あさひ。よろしく」とキレのいい挨拶を放ち、ムーディなギターストロークと大人な声色で魅せる「Rainy, rainy」に続ける。
小さく可憐で、儚げな佇まい。一輪の百合を思わせるその姿の裏側には、無数の棘が隠れている。彼女の描く情景や心理描写には椎名林檎のような底知れぬ色気が漂う傍らで、鋭利な言葉で独特の世界観を作り上げる様からは、NUMBER GIRLの向井秀徳をも彷彿とさせる。MC明けに披露した「ハダカ」では、自身のコンプレックスに留まらず、時おり攻撃的姿勢もありのまま歌に曝け出す。冷たく吐き出される〈馬鹿だからね〉と、ゆっくりと紡がれる「ハダカ」の三文字にそこはかとない色気と狂気を感じた。ところが一変、「わたし」ではあどけない歌声と軽やかな口笛を鳴らし、いたずらな女の子を演じてみせる。さらに「ロイコクロリディウム」では、力強いギターストロークと七変化する声色から、大人と子供の間をゆらりゆらりと彷徨う彼女が映し出される。曲が変わるたびに一枚ずつ皮膚がはがれ、新しい“山田あさひ”が顔を出すのだ。
2度のMCでは、保本やイベントに関わるスタッフ、本公演に集まった観客への感謝を繰り返し述べた。そして保本と共に楽曲を制作したことで、「リリースしたら終わりではなく、人に聴いてもらうことで曲は完成する」と気づいたという。その思いを込め、ラストに「少女」を披露。ストレートなメロディラインと透明なハイトーンボイスが、じんわりと心に染み渡ってゆく。保本の妙によって引き出された山田あさひのピュアな一面が、今後どのように開花していくのか。生粋の表現者である彼女の活躍に、期待が募る一方だ。