音楽プロデューサー 保本真吾が語る、アーティスト育成に求められる姿勢 『Enjoy Music!』で発掘する次世代ヒットの可能性

保本真吾、アーティスト育成に求められる姿勢

 ゆず、SEKAI NO OWARI、 Official髭男dismなどのプロデュースを担ってきた音楽プロデューサー 保本真吾による新人育成プロジェクト『Enjoy Music!』(ジョイミュー)のコンピレーションアルバム第2弾『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.2』がリリースされた。10月20日から3週連続で配信された本作には、水咲加奈「生残者」、山田あさひ「少女」など、高いポテンシャルを感じさせる全10組のアーティストのオリジナル曲が収録されている。

 「誰か僕と一緒に音楽を作りたい人はいますか?」という保本のツイートをきっかけに始まった『Enjoy Music!』は、新世代アーティストの発掘と育成を中心に、コンピレーションアルバム、ラジオ番組、ライブイベントなど幅広い発展を続けている。今回は保本へのインタビューによって、『Enjoy Music!』の手応えや展望、日本の音楽シーンの課題などについて存分に語ってもらった。(森朋之)

“支えてあげたい”と思ってもらえる人間になること

ーーまずは保本さんが『Enjoy Music!』を立ち上げた経緯を教えてもらえますか。

保本真吾(以下、保本):2020年5月にTwitterで「誰か僕と一緒に音楽を作りたい人はいますか?」と呟いたのがきっかけですね。1年前の春はコロナ禍のど真ん中で、仕事が全部止まっていたんです。ライブもレコーディングもなくなってしまって、国の施策もエンターテインメントは後回しだったし、自分の無力さを痛感して。「このまま終わってしまうんじゃないだろうか」と感じていたし、「この状況のなかで、僕と一緒に音楽を作りたい人なんているのかな?」と思ってツイートしたら、レスポンスをくれた人が何人かいたんですよ。送ってくれた音源や動画を聴いたら、クオリティがすごく高くて。僕も音楽業界でずっと仕事をしてきましたが、「こんな才能が埋まっていたのか」と。その後も口コミで広がって、1000通くらい来たんです。

保本真吾

ーーすごいですね。

保本:「保本さんに聴いてもらって、アドバイスしてほしい」という人も多かったですね。可能性を感じる曲が多くて、才能があっても世に出られない人がこんなにいるのかと驚いたし、自分がプロデュースして世に出せないかと考えました。スタッフに「『Enjoy Music!』という新人発掘プロジェクトをやろうと思うんだけど」と相談したら、「通称“ジョイミュー!”でどうですか?」と提案されたんです。

ーー自然発生的に立ち上がったプロジェクトなんですね。

保本:そうなんです。夢を持って、アーティストを目指している人たちが数多く応募してくれたことは僕の救いになったし、この子たちを次世代の音楽業界に送り出したいと思ったんです。ここ数年、レコード会社も新人を育てるシステムがなくなってきて。コロナ禍でライブハウスにも行けないし、YouTubeやSNSで新人を探そうにも、数が膨大すぎて上手くいかない。ジョイミューは、僕がピックアップすること自体が担保になっているし、発足直後から業界の方に「一緒にやりませんか」と声をかけてもらうことも多いです。

ーー保本さんが自ら選び、育成も手掛けるとなれば、レーベル側も注目しますよね。

保本:新人発掘にはいろんなパターンがあると思いますが、今の音楽業界は即戦力となるアーティストを必要としていて、育成ができていない気がします。ジョイミューの場合、僕自身が音楽を作る人間なので、(ピックアップするアーティストは)完璧じゃなくていいんですよ。才能があると思えば、一緒に話をしながらプロデュースして、さらに引き上げられる自信もあるし、そこは他との大きな違いなのかなと。僕自身、皆さんがよく知っているアーティストのプロデュースをしてきたことも大きいと思います。

ーー2020年12月にリリースされた『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.1』には17アーティストの楽曲が収録されていました。個性と将来性を兼ね備えたアーティストばかりで、「才能を持った人たちは、まだまだたくさんいるんだな」と実感させられて。

保本:ありがとうございます。僕らとしてもジャンルを問わず、いろいろなタイプのアーティストを送り出せたのかなと思っています。ただ、「Vol.1」のときは楽曲制作で精一杯で、その先のことまでなかなか考えが及ばなかったんです。17組のアーティストと向き合い、制作を進めるだけでも物理的に限界だったし、思うようなアウトプットができなかったのは反省点ですね。

ーー楽曲だけではなく、アーティスト自身を世に出すことが必要になってくると。そこを含めてのプロデュースも求められますね。

保本:そうですね。音楽が良ければ世に出られるわけではなくて、人間性も大事なので。活動が大きくなれば関わるスタッフの人数も増えますし、「この人を支えてあげたい」と思ってもらえる人間にならないといけない。そこが育成の一番大事なところなんですよね。「自分がいいと思うことだけをやる」では、まだまだアマチュアの域。プロは与えられた環境でどれだけ自分を出せるかが勝負だし、そのためにはスタッフの協力が絶対に必要なので。

ーーアーティストとして活動していくための心構えも伝えているんですね。

保本:はい。アーティストとして自分の感性を信じるのも大事だし、押し切る力も必要だけど、スタッフと一緒にやっていく以上、みんなの思いを汲み取って動けないといけない。少なくとも僕はそういう考え方だし、そこを理解してもらえないと、一緒にやるのは難しい。実際、「Vol.1」に参加してくれたアーテイストの半分以上は離れていきました。そのことを踏まえて「Vol.2」では“量より質”にしようと。当初は20数組の候補がいたんですが、収録されたのは10組です。

個性豊かな新人の才能をどう見極めるか

ーーなるほど。今回も個性豊かなアーティストの楽曲が揃っています。特に『Enjoy Music!』の第一弾契約アーティスト・水咲加奈さんの「生残者」は印象的でした。

保本:水咲はピアノの弾き語りで活動していて、「生残者」のデモ音源も弾き語りだったんです。途中で拍子が変わったり、かなりアバンギャルドな楽曲だったのですが、本人とも「この曲をどう聴かせるか?」を話しながら、バンドサウンドでアレンジしました。歌詞では揺れる心理状態を表現していて、ピアノのフレーズもエグいのですが、彼女がもともと持っている資質はすごくポップ。「生残者」もそこにフォーカスを絞って、水咲の瑞々しさをわかりやすく伝えることを意識していきました。

ーー当然、アーティストの資質をどう伝えるかがポイントになると。

保本:そうですね。自分がいいと思っているだけではダメで、人が聴いてどう感じるかが大事なので。そこは一つひとつ確認しながら制作しているし、それをやらないと独りよがりになって、お客さんは増えていきませんからね。

ーーアーティストの特性によってもフォーカスを当てるところは違うでしょうし、オーダーメイドで進めるしかないですよね。Shohei SasakiのソロプロジェクトであるSUKEROQUEの「Ferment」は、ソウル、ファンク、R&Bを取り入れたサウンドが軸になっています。

保本:SUKEROQUEの場合、楽曲の世界観は最初からよくできていて、ポテンシャルも高かったんですよ。そこに僕のファンタジックなアレンジを組み合わせることで、エアリーな歌声をマッチングさせながら新しいジャンルを切り拓けたらなと。

ーー“ここを伸ばせばもっと良くなる”というポイントを絞ることも大事ですね。

保本:それが一番楽しいし、刺激的なところでもありますね。「こうしてみたら?」とアドバイスすると、それを取り入れて作り直してくる子もいるんですよ。そうやって2回目でピックアップすることもあるし、やり取りのなかで成長して伸びれば、「じゃあMVを作ってみよう」とか「レーベルにプレゼンしてみよう」と繋がっていくんですよね。

ーー保本さんとのやり取りのなかで、特に“化けた”アーティストというと、どなたでしょう?

保本:山田あさひですね。初めて会ったときは、「私、名古屋でナンバー1になるんで」と言っていて、「負けないぞ」という気持ちがすごかったんです。ファッションも尖ってたし、髪も刈り上げていたんですけど、素朴さやナチュラルな良さを活かしたほうがいいという話をして。それで歌にも説得力が出てきたし、この1年で大きく変わりましたね。以前の格好だったら、彼女の内省的で繊細な歌の良さが伝わらなかったと思います。水咲も最初と比べたら、かなり変わりました。精神的な起伏も激しかったし、音楽的なことも含めて何度も話をして、少しずつ変化してきて。ここにきてようやく、「これだったら世に出せる」というところまで来たんです。

ーー言葉ひとつで考え方が変わることもあると。

保本:そうですね。きばやしにも、やる気があるのかどうかがわからなくて、フワフワしているように見えたときに、かなり強く言ったことがあって。そこから彼女のスイッチが入って、どんどん良くなって。確かにちょっとした出来事でガラッと変わることもあるし、こっちも覚悟が必要ですね。ごまかせば見透かされるし、いつも勝負するつもりで接してします。

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