でんぱ組.inc、8人で届けた全力ステージ 10年の間の楽曲を現体制で表現した特別公演『箱庭の掟』

 トイズファクトリー第1弾シングル「Future Diver」のリリースから10年を機に、ここ10年の楽曲から選曲して、現体制のメンバーで表現する――。2021年11月13日に中野サンプラザで開催された『でんぱ組.inc ワンマンライブ 特別公演「箱庭の掟」』には、そんな意図を感じた。

 今回のタイトルにある「箱庭の掟」とは、2021年9月に開催予定だったものの、新型コロナウイルスの感染拡大のために中止された東名阪ツアー『でんぱ組.inc ワンマンライブ「箱庭の掟』』から取られたもの。東京でのみ公演が行われることになった。

 開演すると、メンバーによるモノローグが会場に流れた。「マスクがなかった日々」「箱庭だけは幸せでいたい」。コロナ禍の日々を生き抜くファンの前に、でんぱ組.incのメンバーが左右から4人ずつ登場した。10人のメンバーのうち、古川未鈴は育児休暇中、根本凪は休養中のため、8人がこの日のステージに立った。

 幕開けは「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」。2021年2月16日のワンマンライブで、愛川こずえ、天沢璃人、小鳩りあ、空野青空、高咲陽菜が新メンバーとして登場した際に歌われた楽曲だ。

 この日の選曲の特徴は、2曲目に披露された「最Ψ最好調!」の段階から伝わってきた。代表曲や最近の楽曲のほかに、「そこから?」という楽曲が多く披露されたからだ。たとえば、「Phantom of the truth」(2014年)、「とんちんかんちん一休さん」(2015年)、「アンサンブルは手のひらに」「待ちぼうけ銀河ステーション」「キボウノウタ」(3曲とも2016年)。そこには、この10年の楽曲から、その知名度を問わずに選曲しようという意志が感じられた。そして、それは新メンバーにとっては大きな試練だったであろう。

 ところが、「加入から約9カ月しか経っていないのに、ここまで仕上げてきたのか」と、ひそかに感動するレベルのパフォーマンスだった。この日は、新メンバー加入前から在籍しているメンバーは、相沢梨紗、藤咲彩音、鹿目凛の3人しかステージにいないという逆境でもあった。先輩メンバーにとっても、フォーメーションの変化など、負担は大きかったはずだ。しかし、そんなことを一切感じさせないパフォーマンスを全編で披露してみせた。必死になるどころか、でんぱ組.incらしいユーモアとともに。

 前述の「最Ψ最好調!」は、でんぱ組.incきってのラテンナンバー。歌い終わると、MCで空野青空は「みんなと楽しいひとときをトゥギャザーしたい」とルー大柴的な語彙とともに抱負を述べ、鹿目凛は「今日はかわいくしてきました~♡」と過剰なまでに身体をくねらせていたが、素なのだろう。ぶりっ子が加速し、日本のアイドルシーンでは見たことがない次元へと突入している。胸が震えた。また、根本凪については「志半ばで」休養したと紹介されたが、その大仰な表現に会場から笑いが起きていた。大丈夫、みな根本凪を待っているのだ。

 「玉虫色ホモサピエンス」は『衝動的S/K/S/D』のカップリング曲で、シャッフルビートが光る。「NEO JAPONISM」は、相沢梨紗と天沢璃人以外の6人で披露された。

 メンバーのカニの動き対決(なんだったんだろう……)を経て、藤咲彩音、愛川こずえ、小鳩りあの「チャペの泉 from でんぱ組.inc」による「愛♡舞☆ミライ!」へ。「とんちんかんちん一休さん」は再び全員で披露されたが、メンバー最年少である高咲陽菜が大きな役割を果たしており、しっかりとした歌唱も含め、現在のでんぱ組.incの大きなアイコンとなっていることを感じさせた。

 「おやすみポラリスさよならパラレルワールド」は、振り付けを担当するYumikoの才能が炸裂した楽曲だ。この楽曲において藤咲彩音は宙を舞うのだが(メンバーに支えられて)、生と死のメタファーが織りこまれており、古代文明の生贄のようでもある。しかも、現体制になって最後のシーンに変更が加えられていることも発見した。メンバーが増えたから、以前と同じことを大人数でやる、という姿勢ではないのだ。H ZETT M作曲の「おやすみポラリスさよならパラレルワールド」は、ジャズピアノが駆け抜ける楽曲だが、続く「アンサンブルは手のひらに」もウッドベースの鳴り響くジャズナンバーだ。

 清竜人の作詞作曲編曲による「秋の葉の原っぱで」は、ソファーに座った相沢梨紗ひとりによって歌われた。会場が白のペンライトで埋まり、アカペラの独唱で終わった。なお、相沢梨紗はかつて私のインタビューに対して、「秋の葉の原っぱで」を「自分の卒業式で絶対歌いたい曲」に入れたいと語ったことがあるため、何かが起きるのでは……と聴きながら緊張していたのだが、単なる杞憂だった。スウィングナンバーの「待ちぼうけ銀河ステーション」は、天沢璃人、小鳩りあによって歌われた。

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