the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第8回

the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第8回 インディーズ隆盛期のバンド活動&DJ Shadowなど新たな刺激も

“ヒップホップ離れ”だった当時、アンダーグラウンドミュージックへの傾倒

 『Eric.W』〜『K.AND HIS BIKE』の時期が、人生で一番メインストリームのヒップホップを聴いていなかった時期かもしれない。

 聴いていなかった、というのは大袈裟にしても、この頃のツアーや移動の車の中で聴いたヒップホップアルバムとして思い出すのも、A Tribe Called Quest『The Love Movement』やSOUL SCREAM『THE “DEEP”』などで、どちらも1990年代後半にリリースされたものだ。習慣として新譜はチェックするものの、前回にも書いたUSヒップホップの新たなトレンドにはまだ耳が馴染んでいなかったし、かといって様式美化してしまったサンプリング主体のトラックにも若干の食傷を感じていた。

 今振り返れば日本もアメリカも、メジャーとアンダーグラウンドに二極化していたのがこの時期のヒップホップだったような気がする。

 僕が耳を惹かれていたのは後者で、実際にアメリカの<Rawkus Records>や<Stones Throw Records>といったインディーズ・ヒップホップレーベルからは、メジャーとは趣を異にしたユニークなリリースがたくさんあった。Jigmastas周辺のアーティストを集めた『BEYOND REAL』というコンピレーションや、<Rawkus>から出ていた地下鉄ジャケットのアナログシリーズなどは、集めて部屋の壁に飾ったりしていたと思う。売れる前のエミネムなどが参加しており、アンダーグラウンド回帰志向のストイックなトラックが収録されていた。

 同じ時期にヒップホップにハマっていた□□□の三浦(康嗣)とラジオでこの時代の話をしたことがあるが、彼も似たようなことを言っていた。2人とも、どちらかと言えばアンダーグラウンド方面を好んで聴いていき、そこから導かれるがままにより耳触りの新しい音楽ーー当時のジャンル分けで言えばエクスペリメンタルやトリップ・ホップなどと細分化されていたものに触れていくことになる。

 話の時系列を無視してそのジャンルの象徴的名盤として挙げたいのが、1996年リリースのDJ Shadow『Endtroducing…..』で、「The Number Song」や「Midnight in a Perfect World」などを筆頭に、ドープな世界観で統一された素晴らしいトラックが並んでいて、個人的にはThe Avalanches『Since I Left You』と並ぶサンプリングアートの傑作だと思っている。

DJ Shadow - Midnight In A Perfect World

 彼を知ったのは<Ninja Tune>からリリースされたDJ KRUSH『Meiso』のリミックスワークからだが、そのシングルのタイムリーなリミキサー人選おかげで4 HeroをはじめとするUKドラムンベースシーンも同時に知ることになる。その辺りに興味を持って、いつものレコード屋でもヒップホップやハウス以外のアーティストを片っ端から試聴していくうちに、Aphex Twinやデトロイト・テクノを見つけたりした(Aphex Twin「Girl/Boy Song」「Flim」、Underground Resistance「Hi-Tech Jazz」あたりは、知らない人がいたらぜひ聴いてみて欲しい)。

 僕は今でも新しい音楽を聴くのが好きだ。

 思春期〜この時期に得た”新しい音楽に触れ、感動する”という無数の経験、それに至るまでの好奇心に任せた情報検索はもはや習慣化して、生活のモチベーションのひとつなっている。未知のものに触れることで得られる予期できない心の動き、情動の波……その蓄積は何にも代えがたく、起きて、働いて、食べて、寝る以外の人間の“大いなる無駄”を形作り、人生を豊かにするものだと思う。

 僕はその土台となる部分をこの時期に、小説や映画、特に音楽からたくさん得た。それらはすっかり血肉に溶け、今の自分に活きている。

連載バックナンバー

第7回:様々な出会いを重ねて1stアルバム『K.AND HIS BIKE』完成
第6回:ヒップホップの過渡期に確立された“オリジナルなバンドサウンド”
第5回:生涯のアンセム「B-BOYイズム」はなぜ衝撃的だったのか
第4回:新たな衝撃をもたらした“ジャパニーズ・ヒップホップとの出会い”
第3回:高校時代、原昌和の部屋から広がった“創作のイマジネーション”
第2回:海外生活でのカルチャーショックと“A Tribe Called Questの衝撃”
第1回:中高時代、メンバーの強烈な第一印象を振り返る

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