田所あずさ、映像とインストで楽しむ『Waver』の世界 進化の姿を収めた2つの作品を徹底レビュー

田所あずさ、映像作品&インスト盤徹底レビュー

 田所あずさが4月3日に配信した初の無観客&無料配信ライブ『AZUSA TADOKORO LIVE 2021〜Waver〜』を収録した映像作品が、本日11月10日にリリースされた。田所のワンマンライブは、2019年に片柳アリーナで開催された『AZUSA TADOKORO SPECIAL LIVE 2019〜イコール〜』以来約1年半ぶり。4thアルバム『Waver』に収録された10曲に加え、シングル『ヤサシイセカイ』の表題曲とカップリング「Visual Vampire」を加えた全12曲を披露し、等身大の田所あずさが表現されたものになった。

 ライブは、『Waver』の1曲目に収録された「レイドバック・ガール」で幕を開け、前半6曲はMCを挟まずノンストップで駆け抜けた。歌謡曲を思わせるメロディと、ジャズっぽさのあるミディアムサウンド。まっすぐカメラを見て放たれた〈わたしの目を見て言えるの〉というセリフにドキッとさせられる。続く「ちっちゃな怪獣」では、アルバムのレコーディングにも参加した柴﨑洋輔(Key)による超絶なピアノ演奏が鳴り響き、田所が押し込めていた感情を吐露するように情熱的な歌声を聴かせた。

 MVの号泣シーンも話題を集めた「ヤサシイセカイ」は、彼女自身が主人公のリョウマを演じたアニメ『神達に拾われた男』(TOKYO MXほか)のOPテーマで、作編曲・h-wonder、作詞・こだまさおりという強力タッグによる楽曲だ。タイトルの通り、優しく美しい世界が広がるバラードで、曲冒頭は柴崎のピアノと田所の歌だけというライブ仕様にて胸に手を当てながら、言葉ひとつ一つを丁寧に歌う姿が印象的であった。

 田所自身が作曲を手がけた「いつか暮れた街の空に」は、前半のハイライトと言ってもいいだろう。鼻歌でメロディを作り、サウンドプロデューサーでこの日のライブもサポートした神田ジョン(Gt)との共作曲で、〈特別な ありがとう〉と歌詞にあるように相手への感謝の気持ちが込められた楽曲だ。夕暮れ時を思わせるオレンジ色のライトに照らされながら、オルガンやピアノをバックにシンプルに思いを歌い上げる姿からは、配信を見ているファンに向けた感謝の気持ちが伝わってくる。

「AZUSA TADOKORO LIVE 2021 ~Waver~ LIVE Blu-ray」DigestMovie

 前半を終え、「ご覧の皆さん、見えてますか?」と手を振りMCコーナーへ。これまでもライブを共にしてきた、サポートバンド“あずさ2号”のメンバー、神田ジョン(Gt)、長澤トモヒロ(Gt)、岩切信一郎(Ba)、MIZUKI(Dr)、篠崎恭一(Manipulator)に加え、今回初参加の柴﨑とまったりとしたトークを繰り広げた。デビュー当初から田所を支えている、気心の知れた仲間の顔を見て安堵しているようだ。しかし、ライブ前日はかなり緊張していたそうで、「完全配信ライブというのが未知すぎて、未知の恐怖に恐れおののいていた」と話す。地元の友達が、田所が寝付くまで「うまぴょい伝説」を歌い続けてくれたというほっこりしたエピソードも飛び出した。

 ライブ後半はアップテンポの楽曲で視聴者を楽しませる田所。変則的なリズムに早口の歌が乗った「ソールに花びら」は、配信ならではの演出も加わり幻想的な雰囲気に。ラップ調のメロディと軽快なリズムが特徴の「Visual Vampire」では、「画面の向こうで見ている皆さんもクラップしてください」とファンに呼びかける。ソリッドなロックチューン「徒然恋愛サバイバー」ではギターとベースも前に出て、メンバーと背中合わせになりながら歌い、ラスサビではジャンプ。そして、忘れらんねえよの柴田隆浩が楽曲提供した「ころあるこ。」は、〈ああうぜー!分かってねーなー!〉という言葉に合わせ、吐き捨てるような歌い方でやんちゃな雰囲気を演出。ステージを暴れ回るように歌い切った。

 彼女の本音が語られた最後の「Waver」までの5分間は、田所のライブの歴史に残る名MCだった。自分のやりたいこととファンが求めるものの間で葛藤したこと、最終的に自分のやりたいことを選んだことへの不安や決意を、涙をこらえるような表情で真剣に語る。「私はこれからも揺らぎ続けて、自分の思う勝手な進化を続けていきたいと思う。良かったらみんなも私と一緒に進化し続けてほしい。勝手なやつだと思うかもしれないけど、私にできるみんなへの一番誠実な姿勢がこのアルバム『Waver』です。これからもよろしくお願いします」。

 そして最後に歌われたアルバム表題曲「Waver」は、自分の生き方を決意した、どこか切なさと強さを感じさせるエモーショナルなバラードだ。アルバムの世界観を表現した青いライトに照らされ、真っ直ぐ前を見据えながら、まるで気持ちを吐露するように歌い切った。

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