橘慶太の「composer’s session」:TRILL DYNASTY
w-inds. 橘慶太×TRILL DYNASTY対談【後編】 楽曲制作からトラックメイカーへの評価まで……すべてに共通する“ハート”の大切さ
最終的な目標は地元への還元
橘:なるほど! トラックメイクの話ももう少し聞きたいのですが、自分の中でこだわっているポイントはあるんですか?
TRILL DYNASTY:例えばEQをいじったり、リバーブをかけたり、ディレイをかけたり、そういったところに一切こだわりはないです。オタク気質じゃないんですよね。突き詰められる人はすごくかっこいいと思いますけど、僕の場合は結局戻ってしまうんですけど、時間がないからループを作ること以外したくないんですよ。ミックスをしてくれたり、サウンドを整えてくれる人は兄弟の中にいるので、細かいことは彼らに任せています。ファミリービジネスで音楽を作っているので。
橘:それって自分の完成はどこになるんですか?
TRILL DYNASTY:エクスタシーに達したらです。
橘:聴いていてめちゃくちゃ気持ちいい、みたいな。
TRILL DYNASTY:そう感じられたら次の曲にいきます。30秒ぐらいでできる時もあれば、3~4時間かかる時もある。キーボードとどれだけお互いの深いところまでいけるかなんですよ。本来ならこういう音だったら邪魔になるからEQここ下げなくちゃダメだよねとか、そういったこだわりがなくちゃいけないんだろうけど。そういう話が一切できない音楽家なんですよ。だから素人です。
橘:いやいや。自分で素人です、と言いながら盾がバーっと並ぶのめちゃくちゃかっこいいです。それ目指したりしてないですか? でも知識を身に着けたいとおっしゃってましたもんね。
TRILL DYNASTY:すごく話が矛盾していて自分の中で答えが出せていないんですけど、キーボードを触る以外のことはしたくないんです。キーボードを弾けるようになりたいから練習している。知識を取り入れたい。ただミックスやマスタリングといった細かいところは自分にとっては不必要というか。ヒップホップって他の音楽に比べて音楽のルーティンが早いんです。いろいろなことにこだわって何日もかけるんだったらその分一つでも多くループを作らないとアーティストに届かない。だからとにかく自分は気持ちを入れながらループを作る。それ以外のことは兄弟たちで回す。その利益を分配する。それでみんなでメシを食えるようにする。みんなで仕事を役割分担して共有する、それがクールだと思っていますね。このやり方もヒップホップだからできるのかもしれないですけどね。
橘:本当のヒップホップの作り方ってことですよね。すごく現代らしい音楽の作り方でもあるように思うので気持ちいいですけどね。他の方の曲を聴いて嫉妬することとかはないですか?
TRILL DYNASTY:ないですね。あんまり人の音楽に影響は受けないかもしれないです。
橘:聞くことはありますか?
TRILL DYNASTY:もちろん。でも「ヤベー」とはならないです。
橘:僕の場合は「この曲俺も作りたかった」と思うことがあるんですけど、そういうのもないんですね。
TRILL DYNASTY:プロデューサーの中ではこういう人になりたいと思う人はいますよ。でもビートを聞いて食らうことはあんまりないかもしれないです。なぜなら音楽性に惚れたわけじゃなくて精神に惚れているから。だからどれだけかっこいい音楽を作っていてももやしみたいなヤツだったらダサくなる。どれだけスキルがあっても地元をすぐ捨てるようなやつはワック。どれだけ下手くそでもどれだけ泥臭い音楽を作っていても地元を捨てないヤツが一番かっこいいし、ヒップホップなんですよね。ヒップホップは上手いとか下手じゃない。どれだけ精神に忠実にリスペクトを送り続けてできるからだから。
橘:かっこいい。いいな、気持ちいいです。僕はそんなにヒップホップ詳しくなかったんですけどいろいろ学ぶことができました。ヒップホップ精神、めちゃくちゃかっこいいですね。
TRILL DYNASTY:それが僕の好きなヒップホップなんです。
橘:ご自身の最終的な目標ってどうなるんですか?
TRILL DYNASTY:まだ漠然としていますが地元への還元です。極端な話、音楽で団地に住んでいるお金のない子たちにお金を配れるような人間になりたいんです。こうやって言っていけばきっとできるようになるので。これまでも取材いただく機会があれば絶対獲れないのに「ビルボード1位とります」と言ってきて実際獲ることができた。地元の子たちも元気づくかなと思って「地元にいる」ということを言い続けているし。基本僕の場合は全部後付けなので。最初にそういう突拍子のないことを言えばきっとなれるだろうと思っていますね。
トラックメイカーが正当な評価を受けられるために必要なこと
ーー最後に編集部からトラックメイカーを取り巻く問題についてもお二人にお話を聞いてみたいです。トラックメイカーの人たちが正当な評価を受けられるようになるにはどのような仕組みがあるといいと思いますか?
TRILL DYNASTY:特にヒップホップでいえばトラックメイカーがリースビートを作って、それをラッパーが買って楽曲制作する時代じゃないですか。だから例えば音楽配信用に楽曲を登録する際にリースビートの契約書を提出させるのを義務づけるとか、そういった積み重ねをしないとしっかりクレジットされたり、裏方が少しでも日を浴びるところにはつながらないと思いますね。でもその仕組みがあればすべて解決するわけでもなくて。地元にいる子供たちの中にはお金がないから違法で音楽を聴いている子もいると思う。本来それはダメなんだけど、そうじゃないと音楽を楽しめない人もいる。それは作り手も同じことで。体制を整えることに突っ走ってしまうと音楽シーン自体が崩れてもっと衰退化していくのは目に見えているんですよね。じゃあどうすればいいのかと言うと、トラックメイカーとして表舞台に立てる人間が増えていって、みんなのレベルが上がればいい。そうすることによってクレジットがしっかりされて、裏方が認知される構造になっていくと思っているので。だから1、2年でどうこうって話じゃないと思います。ずっとこのままで来てしまっているから。
橘:なるほど。
TRILL DYNASTY:でも、ちゃんとした手続きを取らないと楽曲を配信できない、そういった環境は実際必要だと思いますね。全部をそうするのが難しければ、営利目的と非営利で仕組みを分けるとか。営利目的ではなくただ聴いて欲しいという感覚で音楽を作る場合もあるかと思うので。
ーー有償・無償の区切りをつけて、しっかり仕組み化していくことが必要なのではないかという提案ですね。
TRILL DYNASTY:いずれにせよ、ちゃんとサポートできる人がいないとダメですよね。リースビートを5千円とかで買って曲を配信して自分だけ収益を得るということが恥ずかしいことだということを教えてあげられる人が増えないとダメだと思う。申し訳ないけど楽曲って裏方がいなかったら作れないですよね。それをちゃんとわからせてあげられるような人やガイドラインがないとそもそも話にはならなくて。音楽が生まれる環境が多種多様になっている以上、やっぱりそういったものが整っていかないと今の流れは変わらないと思います。
橘:僕もトラックメイカーの人にもっと光が当たってほしいとずっと思っていて。曲はミックスエンジニア、トラックメイカーもそうですし、そういう多くの方々の努力があってできているもので。今の日本はクレジットも作詞・作曲しか出なかったり、トラックメイカーは編曲と表記されたり。海外のTIDALというサービスではプレイヤーの名前まで全部出てくるんですけど、日本のサブスクでは編曲はクレジットにも出てこないですし。個人的には表記も変えてほしいですね。ビートメイクとか、トップライナーとか、そういう感じで細分化してほしい。表に出ている人だけがその曲を作ったかのように見えてしまうのは納得いっていない部分ではあります。僕も自分で作るのでトラックメイカーがいかに苦労してトラックを作っているかはわかりますし、すごくいい音を作っても表記されていなくて自分のSNSだけで発信している状態を目の当たりにしていて。僕は調べるので見つけられるんですけど、彼らが作ったという情報に到達できていない人たちも多くいるんじゃないかなと。
TRILL DYNASTY:それこそリル・ダークの楽曲はミックスエンジニアもマスタリングエンジニアもプロモーターもマネージャーの名前までちゃんと明記されています。それって多分そのアーティストと裏方、それぞれのリスペクトの結果だと思うんですよね。リスペクトしあって愛し合っている結果というか。
橘:そうだと思います。自分が良ければいい、自分がカッコよく見えればいいという精神を捨てて、裏方の人も含めてみんなで音楽業界を盛り上げていくことを目指さないとどんどん日本の音楽シーンが小さくなってしまうんじゃないかと心配です。裏方をちゃんとピックアップするというシステムづくりも必要だなと改めて思いました。
TRILL DYNASTY:さっきから話しているいろいろなことにつながってくるんですけど、結局何が大事なのかというと、ハートだったりするんですよね。全てにおいて本質は一緒というか。問題を解決するためにシステムを考えたとしても、一番の解決策は気持ちの部分であって。アーティストと裏方が本当に気持ちと気持ちで仕事をできているか。時代がどれだけ変わっても、パッションとピュアなハートとリスペクトがあればなんでもできると言ったのはそこなんです。でも今の時代十人十色、みんなが同じマインドになれるはずはなくて。だからちゃんとシステムを作ってあげましょうというところに行き着くんですよね。
橘:なるほど。すごく勉強になりました。今回はお話できてよかったです。めちゃくちゃ食らいました!
TRILL DYNASTY:ありがとうございました。僕もいろいろ学ばせてください。スキルアップしていきたいです。
連載バックナンバー
・【第7回】Hiroki
・【第6回】Night Tempo
・【第5回】岡崎体育
・【第4回】NONA REEVES 西寺郷太
・【第3回】Yaffle(小島裕規)
・【第2回】KREVA
・【第1回】m-flo ☆Taku Takahashi
■リリース情報
「Little」
2021年10月22日(金)配信
https://lnk.to/Little
アルバム先行配信曲「Strip」
配信:https://lnk.to/_Strip
MV:https://youtu.be/nYZKoSEhy40
2021年11月24日(水)発売
ニューアルバム
『20XX “We are”』
初回限定盤【CD+Blu-ray】¥4,400(税込)
初回限定盤【CD+DVD】¥4,000(税込)
通常盤【CD only】¥2,750(税込)
Special Box盤【CD+Blu-ray+PHOTOBOOK+『20XX "THE BEST"INSTRUMENTAL』CD】¥8,800(税込)
※ポニーキャニオン特設販売サイト限定商品(受付終了)
Special Box盤【CD+DVD+PHOTOBOOK+『20XX "THE BEST"INSTRUMENTAL』CD】¥7,700(税込)
※ポニーキャニオン特設販売サイト限定商品(受付終了)
ポニーキャニオン特設販売サイト https://ps.ponycanyon.co.jp/w-inds/20xxweare/
【収録内容】
<CD>
01. Strip
02. EXIT
03. With You
04. Show Me Your Love
05. Little
06. Beautiful Now
07. The Christmas Song
08. Distance
09. Get Down(20XX version)
10. DoU(20XX version)
All songs produced by Keita Tachibana
<Blu-ray, DVD>
01.Strip Music Video
02.Document of 20XX ”We are”
予約はこちら:lnk.to/20xxweare
ポニーキャニオン特設サイト:https://ps.ponycanyon.co.jp/w-inds/20xxweare/
■ライブ情報
『w-inds. Online Show「20XX”We are”」』
2021年12月29日(水)19:30開場/20:00開演
※アーカイブ(見逃し)配信:あり
▼チケット代金
●ファンクラブ限定チケット(ライブ&アフタートーク&画像特典)¥3,500(税込)
※ファンクラブ限定チケットはFanStream/StreamPassのみでの取扱。「w-inds.day」会員のみ購入可能。
●一般チケット(ライブのみ) ¥3,500(税込)
※購入にあたりシステム利用料・決済手数料あり。
▼アーカイブ配信
2021年12月30日(木)〜2022年1月10日(月)予定
▼配信メディア・チケット購入先
・FanStream/StreamPass(※ファンクラブ限定チケット)
・ローチケ LIVE STREAMING
・PIA LIVE STREAM
・LINE LIVE VIEWING
▼チケット販売期間
2021年11月上旬予定。詳細決まり次第発表。
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