稲垣吾郎×村上春樹、名言も生まれた上質な対談 2人を結ぶ「夜空ノムコウ」のエピソードも

 「稲垣吾郎もここまで来ましたよ」と稲垣本人が声を弾ませる夢の対談が実現した。稲垣が架空のレコード店の店長となって上質な音楽と趣味の話題を届けるラジオ番組『THE TRAD』(TOKYO FM)にて、小説家・村上春樹との対談の模様が10月18日〜21日の4日間にわたってオンエアされたのだ。

 対談の場所は、10月1日に村上の母校である早稲田大学にオープンした国際文学館、通称・村上春樹ライブラリー)。1979年のデビューから2021年までの村上春樹作品が展示されたギャラリーラウンジから、村上のアイデアにより大手チェーンではなく学生たちによって経営されるカフェ、そして村上が15歳から収集してきた1万5000枚を数えるLP盤レコードの一部を寄贈したオーディオルームなど、ファンにはたまらない空間である。

 19歳のころ村上作品を手に取ったという稲垣も、ファンの1人としてその空間に足を踏み入れた喜びが言葉の抑揚から伝わってくる。なかには、村上が自宅で使用していたというイタリアのテーブルもあり、生活感を漂わせる汚れもあったことから「これはワインのシミですか?」と思わず質問する稲垣。小説を書くときには主人公の年齢に合わせて「15歳にもなることができる」と話す村上を前に、まるで初めて作品を手にした19歳の青年になったかのように見え、実に微笑ましい時間となった。

 対談前には、ライブラリーのオープンを記念した朗読イベント『Authors Alive! ~作家に会おう~』が開催されたという。稲垣も村上本人の声で読み上げられる『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の文章に耳を傾け、オンエアでもその一部が公開された。その音声を聞くと、村上が「僕はものを書きながらずっと頭の中で音を鳴らしているんですよ」と話した言葉の意味がわかる気がした。村上が執筆するとき、この独特な間やリズム感で言葉が奏でられているのかと。まるで楽譜と音楽を照らし合わせるような気分だ。

 音の響き、ハーモニー、メロディ……「僕は音楽が凄く好きだから、書くことについて音楽からいろんなことを学んでるんですよ」という村上は「音楽をやっている人が書いた文章はリズムが良くて面白い。けど、そのかわりに描写力が弱い。絵描きが書く文章は描写力があるけど、前に進んでいかない。どちらかというと僕は音楽家の書いた文章のほうが好き」と語り、稲垣の関心を引く。

 稲垣は、昨年8月に東京・東京国際フォーラム ホールCで開催された『もうラブソングは歌えない』にて、初めて朗読劇に挑んだ。長年取り組んできた舞台やドラマとはまた違った没入感があったことから「もう一度やりたい」と話す。それもできれば大好きな村上春樹作品で。そして「村上さんと一緒にやりたいな」と積極的にアピールする。

 歌手として音楽を発信しながら文章を読み続けてきた稲垣と、世界的な小説家として文章を紡ぎながら音楽に触れ続けてきた村上。そんな2人が奏でる朗読企画とは、想像するだけでワクワクしてくるではないか。そんなビッグイベントとなると、一体どれほどの規模の会場で行なうのが適切なのだろうか。

 できるだけマイクを通さずに生の声で伝えたいという願いはありつつも、「オーディエンスが多ければ多いほど落ち着く」と村上。稲垣もその感覚に同意し「だって東京ドーム立ったら……」と相槌を打つも、「立ったことない(笑)」と笑われてしまうくだりも、聞いていて頬が緩んだ。朗読劇の合間には、ぜひまた“憧れの村上春樹”を前にしたときにしか見られない“初々しい稲垣吾郎”も堪能したいものだ。

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