Eve『群青讃歌 / 遊生夢死』レビュー:初音ミクやクリエイターとのタッグも “文化”を広げた先に生まれた縁深い2曲

Eve

 Eveが最新EP『群青讃歌 / 遊生夢死』をリリースした。

 オフィシャルYouTubeチャンネル登録者数は約350万人、いまや日本を代表するアーティストの一人となったEve。EP『群青讃歌 / 遊生夢死』は、表題曲に加えて「夜は仄か」、「ドラマツルギー (Live Film ver.)」と「いのちの食べ方 (DanceMix ver.)」を音源化した5曲入り。なかでも特に注目すべきは「群青讃歌」と「遊生夢死」の成り立ちだろう。

 これまで数々のタイアップ曲を手掛けてきたEveだが、この2曲は、彼自身の来歴やスタンスと非常に結びつきの深いプロジェクトとの関わりから生まれた作品だ。であるがゆえに、曲自体だけでなく、それを巡る状況も含めて見ていくことで、Eveというアーティストの独特なスタンスと、その向かう先を考えることもできる。

 この記事では、そのあたりを読み解いていきたい。

 「群青讃歌」は、タイトルが象徴するように、青春のきらめきをモチーフにした一曲だ。

群青讃歌 - Eve MV

 歌詞は〈繋がっていたいって 信じられる言葉/だってもう昨日の僕らにおさらば/青い春を過ごした 遠い稲妻〉というフレーズから始まる。サビでは高らかなハイトーンで〈諦めてしまうほど この先沢山の後悔が君を待ってるけど〉と歌い上げる。そこにあるのは、大人になった主人公が、かつての“君”に呼びかける視点だ。

 ただ、この曲のとてもユニークなところは、曲の後半でその視点が変わるところ。

 後半の〈まだ終わらない旅路なんだ〉というフレーズから、青春を過去のきらめきではなく、現在進行形のものとして捉える心情描写が重なってくる。耳を澄ますと、Eveの声に初音ミクの声が重なってくる。〈忘れられないまま だから〉〈かけがえのないもの 溢れてしまうよ〉という今の心の模様を歌う言葉は特に初音ミクの声が強く響き、ラストのサビはEveと初音ミクがデュエットのスタイルで歌う。そこに大きな意味がある。

 この「群青讃歌」は、スマホゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(以下『プロジェクトセカイ』)1周年記念アニバーサリーソングとして書き下ろされた1曲だ。

 ユーザー数500万人を突破し、トップセールスランキング1位を獲得するなど大ヒットゲームとなった『プロジェクトセカイ』。その特徴は、現代の東京に暮らす少年少女とそれぞれの思いが生み出す架空の世界=「セカイ」に住むバーチャルシンガー達の織りなす物語を描くアドベンチャーパートにある。リズムゲームのパートではこれまでに発表された数々のボーカロイド楽曲をプレイすることが可能で、かつゲーム中では初音ミクらバーチャルシンガーと登場キャラクター(CVと歌は声優が担当している)が共に歌うという演出がなされる。

 「群青讃歌」はゲーム内でも配布され、『プロジェクトセカイ』の公式YouTubeチャンネルではキャラクターたち初音ミクと共に歌うバージョンの3DMVが公開された。

アニバーサリーソング『群青讃歌』3DMVゲームサイズ公開!

 さらに、ニコニコ動画のEve公式チャンネルには「群青讃歌」の初音ミクが歌うバージョンが公開されている。

群青讃歌 / 初音ミク

 そもそもEveのキャリアはニコニコ動画で「歌ってみた」を投稿したところから始まっている。一方で、自ら作詞作曲を手掛けるようになりシンガーソングライターとしての活動が広がってきてからは、「アウトサイダー」や「トーキョーゲットー」など代表曲の初音ミクが歌うバージョンをニコニコ動画に投稿している。「群青讃歌」のニコニコ動画への投稿は、アルバム『おとぎ』に収録された「ラストダンス」以来2年9カ月ぶりだ。

 そういう足跡を踏まえて考えても、ボーカロイドと人が共に歌う『プロジェクトセカイ』の世界観はEveのアーティスト性に深く結びついている。Eveバージョン、初音ミクバージョン、『プロジェクトセカイ』バージョンが違うチャンネルで同時に発表されるというパラレルな発表方法もユニークだ。

関連記事