-真天地開闢集団-ジグザグ、摩天楼オペラ、キズ……歌唱力を武器にした動画が続々 令和のV系シーンで注目したいバンド
コロナ禍で自由なライブ活動がままならない昨今、YouTubeやTikTok、Instagram等のSNSからコンテンツを配信するアーティストが増えている。それは何よりも世界観を重視するイメージの強い“ヴィジュアル系”のシーンでも同じこと。トークやゲーム配信など音楽とは無関係の内容だったり、画面上で素顔をさらすバンドマンも多いと言えば驚かれるかもしれないが、現在のヴィジュアル系は一般に認知されているパブリックイメージを大きく打ち破るバンドも増えている。むしろ画面越しでは、ガッチリと創り上げたディープな世界観とのギャップで楽しませるアーティストも多々。ルールに縛られているように見えて、実はルール無用なのが令和のヴィジュアル系シーンだ。
そもそも“ヴィジュアル系”とは、聴覚のみならず視覚も駆使して独自の世界観を追求するバンドを指す名称であり、音楽性を表すものではない。結果、同じヴィジュアル系でも鳴らされる音楽は実に多種多様で、それを歌う声も当然さまざまだ。ヴィジュアル系黄金期とも言われる90年代のイメージとは、まるで異なるスタイルのボーカリストも多数。ということで、本稿では傑出した歌唱力を武器にした動画で、注目を集めている3つのバンド/ボーカリストを紹介したい。
-真天地開闢集団-ジグザグ
2021年のヴィジュアルシーンで、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いなのが-真天地開闢集団-ジグザグ。2016年の活動開始以来、“愚かな者に救いの手を差し伸べる”をコンセプトにライブを“禊”、ファンを“参拝者”と呼ぶ独特な世界観を掲げ、近年、急激にファン層を拡大してきた。和装をベースにしたミステリアスな装いといい、ガチガチに決め込んだ世界観の一方、2020年には『有吉反省会』(日本テレビ系)に出演して、“転生を繰り返している”という命-mikoto-(Vo/Gt)が、実はマイメロガチ勢であることを告白。“キャラがブレブレだが、そこがいい”と、大きな評判を呼んだ。その特異性は、結成5周年を迎える2021年の決意表明動画を観てもらえればわかるだろう。
そんな彼らの音楽もまた、良い意味での“ブレブレ”が魅力。「復讐は正義」などアグレッシブに闇を切り裂くラウドなヴィジュアル系王道ナンバーがある一方、「きちゅねのよめいり」といった字面からしてコミカルなナンバーや、「狙い投げ」のようにバンギャ(ヴィジュアル系女性ファンの呼称)の生態をモチーフにした曲も。加えて「Promise」のように光を感じさせるストレートなロック曲と、多種多様すぎるラインナップを一つのバンドの楽曲として成立させられるのは、ひとえにズバ抜けた演奏力のおかげだ。命、龍矢-ryuya-(Ba)、影丸-kagemaru-(Dr)というヴィジュアル系には稀な3ピース構成ながら全員の技術が一流で、中でも命はデスボイスからシャウトにハイトーンと何でもござれの実力派。時には速弾きギターソロを放ち、作詞作曲から映像制作まで担当するというマルチな才能も驚きだ。
今や登録者数10万人を突破している公式YouTubeチャンネルでは、MVやライブ映像のほかカバー動画も公開しており、このクオリティがまた凄まじい。昨年はLiSAの「紅蓮華」をバンドカバーしてファンから絶賛。なんと原曲キーで歌う命の絶妙にディストーションのかかった歌声は特に衝撃的で、現在238万回再生を突破している。さらにセンセーショナルなのが、8月に公開されたエアロスミスの本気カバー「I Don't Want to Miss a Thing」だ。命の力強く、徹頭徹尾ハードロックマナーに則ったボーカルは、スティーヴン・タイラー本人が歌っているのか? と錯覚するほどのクオリティ。動画に投稿された「エアロスミス世代の旦那が、命様が歌っていると信じてくれない」というコメントも然りで、随所に挟み込まれる“おふざけフェイク”が、ようやく命の歌唱であることを証明している。
加えて特筆すべきが、人類を救うべく3人が宇宙に旅立ち、最後には命が地球の盾となる『アルマゲドン』もかくやの感動ムービーだ。こちらの映像制作は命自身が手掛けており、何かにつけてコミカルな仕上がりになっているのもジグザグ流。そんなユーモアの破壊力も、揺るぎない実力があればこそである。ちなみにムービー内の爆死をもって、八代目の命様は没したとのこと。つまり、現在の彼は九代目ということになるらしい。