そらる『ゆめをきかせて』インタビュー
そらるが『ゆめをきかせて』に込めた“夢を肯定する優しさ” 悩める人々に届ける音楽を通した救い
そらるのニューアルバム『ゆめをきかせて』が9月29日にリリースされた。本作は、YASUHIRO(康寛)、Neru、syudou、ツミキ、柊キライといった全12名のボカロPが楽曲を提供したオリジナルアルバムで、“子どもの頃の自分に聴かせたい一曲”がテーマになっている。現在第一線で活躍するコンポーザーたちが、一つのテーマをもとに、それぞれの思いと解釈を織り交ぜることで、より多元的で普遍的なメッセージが詰まった作品に昇華されている。人々が抱える悩みに真摯に寄り添った本作はいかにして誕生したのか。コロナ禍における音楽との向き合い方、そしてそらる自身の現在地を俯瞰してもらいながら、赤裸々に語ってもらった。(編集部)
10周年以降の心境の変化
ーー2019年に10周年を迎えて集大成的なライブも行われましたが、それ以降は何か心境の変化はあったりしましたか?
そらる:10周年で特に心境の変化があったかと言えばそんなこともなく、自分らしい活動を崩さないよう、なるべく好きなことをやっています。2020年からコロナ禍が続いていて、どうしても外に出られなかったりとか、ライブができなかったりとか、活動に制限が出てきちてしまってはいるんですけど。
ーーコロナ禍で音楽への向き合い方は変わりましたか?
そらる:そうですね。リアルなイベントがなかなかできないので、それによってアルバムのリリースが遅れたりとか、元々やる予定だったものがどんどん遅れていってしまって「どうしたらいいんだろう?」みたいな気持ちにはなりました。ライブができないとメリハリを付けづらいんですよ。やっぱりライブとアルバムはセットであることが多いので「ライブはできないのにリリースだけするのか?」と悩んだりもしましたし、あとは単純に人と会って話をする機会がぐっと減ってしまったことで、インプットが減ったりとか、新しい情報がなかなか入ってこなかったりして、モチベーションを保ちづらかったところはあったと思います。
ーーそこはどのようにクリアしていったんですか?
そらる:最初からその状況に慣れることはできなかったので、徐々に「じゃあ、どうするか」ということを考えたり、まわりの人たちがライブをやり出している状況を見て「だったらやってもいいのかな」と思ったりしながら、いろいろ判断していった感じですね。
ーー音楽を含めたエンターテインメントが不要不急扱いされて、そこに憤りを感じたり、悲しい想いをしたアーティストもいたかと思うんですけど、そらるさんの場合はどんな気持ちになりました?
そらる:どんなことを感じたかなぁ。僕の場合は憤りを感じるってことはなかったですね。というのも「自分は恵まれているな」と思って活動しているので、ライブとかでもよく「自分は運の良い人生を送っていると思う」と言っているんですけど、その想いはこういう状況になってもあんまり変わらなくて。
ーーなるほど。
そらる:「音楽を軽んじるな」と言うようなアーティストさんの気持ちも全く分からないわけではないんですけど、もっともっと大変な人はいると思うんですよね。例えば、入学してから一度も登校できていない学生さんは、限られた青春を浪費させられてしまっているわけじゃないですか。仕事自体を失ってしまって「この先どうしたらいいのか分からない」となっている人もたくさんいるでしょうし、そういう状況下において自分は恵まれているほうだなと思うんですよね。制限されているとはいえ、こうして活動はできているので。
そらるが考える音楽の役割
ーーそうした状況下で、音楽の役割について考えることはありましたか?
そらる:考えなくはないですね。今のご時世、あたりまえのように食べることができなくなっている人もいると思うんですよね。なので、そっちが優先だなとは思うんです。ただ、お腹が膨れるものではないにせよ、全くなくなってしまったら生きていけないぐらいの重みを音楽に感じている人もいると思うので。実際に音楽で「命が救われた」という人も少なからずいると思いますし、音楽に限らずですけど、そういう創作物、芸術が救いになるところはあるでしょうし。
ーーリスナーとしても音楽は聴かれると思うんですが、そんなそらるさんから見て現在の音楽シーンはどんな風に映っていますか?
そらる:インターネットを多用して活動している人に関しては、自分の作品に気付いてもらいやすい状況になっているところもあるんじゃないかなと思います。やっぱりライブ主体で音楽をやっている人よりも活動に制限がなかったり、多くの人が家に居る時間が増えたことによってYouTubeなどの動画投稿サイトを観たり、サブスクで音楽を聴いたりする人が増えていると思うので、インターネットを主体にしていた人たちが今は目立っている印象があります。家で楽しめる娯楽の重要性が上がった気はしますよね。
「できない無理はしない」活動スタンスで得られたもの
ーーそうした変化もある中で、そらるさん自身は今現在どんな立ち位置になっていると思いますか?
そらる:昔からインターネット中心で活動しているアーティストというか、動画投稿者というか、そこは大きく変わっていないんですよ。むしろ、ライブなど外での活動ができなくなった分、動画投稿や配信を今まで以上にやるようにしているので、昔のスタンスに近付いている感覚はありますね。メディア露出よりも、そっち中心で活動している人。そういう存在になることによっていろんな界隈の人との接点が増えている気もしますね。例えばゲームの大会に出たことによって興味を持ってもらえたり、いろんな形で自分を知ってくれる人がいるなって。
ーーそらるさんの音楽に感動してファンになった人が、それきっかけでTwitterを覗いてみると『ドラクエ』のゲーム配信をしていたりして、最初はそのギャップに驚く人も少なくないと思うんですけど、そういう意味では特異な立ち位置ではありますよね。
そらる:「どこまで行っても遊びや趣味である」みたいなところは失くしたくないと思っているので、そういう意味では特異かもしれないですね。変に格好付けずにやっていきたいんですよ。格好付けてもどうせすぐボロが出るし(笑)、ずっと背伸びをしながら活動していくことはできないので、なるべく無理のない形で活動したいとは思っていて。それは昔からずっと一貫しているところなので、急にスタンスを変えても違和感しかないと思いますし。
ーープライベートを見せない方もいるなかで、そらるさんはファンの方とゲームを楽しんでいる姿も普通に見せている。そこがとても面白いなと思います。
そらる:どういう見せ方をすることが自分にとってプラスになるのか、ならないのか。あえて素の自分を見せないほうが良いとか、どこを出して、どこを出さないほうが良いのか意識することによって活動的なプラスに繋げることができる。それはもちろん理解しているんですけど、でも、そこを考えることで活動が重くなってしまって自由に動けなくなってしまったら、自分はここまで長く活動できていなかったと思うんです。なので、無理をしなかったんですよね。自分を知ってもらったり、規模を大きくしたりすることがいちばん重要なことではないと思っているので。
ーー活動を続けてきた結果として多くの人に自分を知ってもらったり、大きな会場でライブができたりするのはアリだけど、そのためにゲーム配信を辞めたり、自分を縛りつけるような選択はしてこなかったということですよね。
そらる:それはなるべくしたくないですね。昔から思っていることなんですけど、ある程度のお金を稼いだら、すべての活動を辞めてワンルームマンションで一生オンラインゲームとかをやってひとりで過ごす。無理をしないで、好きなことだけをやって生きていけたら、それはそれで幸せな人生じゃないですか。あんまり浪費はせず、今はインターネットさえあったら娯楽の大半は事足りると思うので、そういう人生を選ぶのも全然間違ってないと思っているんですよ。自分を高めることに時間や労力を使うのもすごく大事なことなんですけど、それがどれだけ幸せに繋がるかは人によって違うと思うんです。そこの答えは各々にあって、自分は無理できないタイプというか、「できない無理はしなくてもいいや」と思っているタイプで。なので、このスタンスはこれからも崩さなくていいのかなって思っています。
ーーそのスタンスで活動してきたからこそ、そらるさんの音楽や配信を求めてくれる人たちが増え続けてきたわけですからね。
そらる:致命的に間違ったことをしたりとか、何かを放り出して好きなことだけに没頭したりとか、それができるほど無責任でもなかったので(笑)、このスタンスで成立できたんだと思います。あとは、まわりに自分のことを見てアドバイスしてくれる人がいたりするので、そのおかげで助かっている部分もあるのかなって。気にしないつもりでも、やっぱりどうしてもまわりからの目は気になっちゃうものですし、その中で自分が「良いな、やりたいな」と思うものを選んできたので。最低限やれることや頑張れることを考えながら、でも好きなことをやっていくスタンスはこれからも崩さずに活動していきたいなと思っています。
ーーそういうスタンスで活動されてきた中で、音楽は何のために制作・発信し続けているんだと思いますか?
そらる:動画投稿から音楽活動がスタートしていて、今もそれが中心なんですけど、好きな曲を好きなように歌って聴いてもらえることが楽しい。それが「自分にとっていちばん大事なところ」というのは、最初から今に至るまで変わらないんですよ。どこかで飽きたり、他にもっとやりたいことができていたら辞めていたと思うんですけど、楽しいから続けている。基本的に歌うことや音源をつくる作業、それに反応をもらってまた違う何かを返していくことが好きなんですよ。すべて家から出ないでもできることですし、すごく性に合っていて楽しいんです。それがずっと変わらないので続けているんだと思います。