そらるの音楽はより幅広いフィールドへ J-POPのヒットメイカーも参加した『ワンダー』の充実
活動10周年のタイミングでリリースされた、そらるのニューアルバム『ワンダー』は、歌い手としてキャリアをスタートさせ、音楽を中心としたインターネットカルチャーを牽引し続けてきた彼の軌跡を総括させるとともに、この先の音楽的なビジョンを予見させる作品でもある。そのことを端的に示しているのが、シングル曲「銀の祈誓」(TVアニメ『ゴブリンスレイヤー』エンディングテーマ)、アルバムのリード曲「海中の月を掬う」(日本テレビ系『バスリズム02』7月オープニングテーマ)、「それは永遠のような」の3曲。作詞・作曲は、そらる。さらにアレンジャーに大西省吾(「銀の祈誓」)、田中隼人(「海中の月を掬う」)、SUNNY(「それは永遠のような」)というメジャーシーンで活躍するトップクリエイターを迎えることによって、J-POPとしての強度を高め、より幅広い層のリスナーにアピールする楽曲に結びつけているのだ。
「銀の祈誓」は、『ゴブリンスレイヤー』の世界観に沿った、ダークファンタジー的な雰囲気を持ったロックナンバー。ギターのアルペジオから連なる疾走感のあるAメロ、ややBPMを落とし、クラシカルで陰鬱なイメージを感じさせるBメロ、そして、壮大なスケール感を体現するサビのメロディまで、セクションごとにがらりとイメージが変わる組曲のような楽曲だ。多彩な表現力が求められるこの曲でそらるは、場面ごとに声の表情を変えながら、ドラマティックな起伏に富んだボーカルを披露、シンガーとしての豊かな才能をしっかりと提示している。編曲を手がけた大西省吾は、関ジャニ∞の「crystal」「なぐりがきBEAT」をはじめ、flumpool、Aimer、水樹奈々など幅広い楽曲に関わってきたクリエイター。美しさと激しさを併せ持った「銀の祈誓」のアレンジによって、そらるの豊かなボーカリゼーションを際立たせていることにも注目してほしい。
ミディアムバラードの「海中の月を掬う」は、アルバム『ワンダー』を象徴する楽曲のひとつ。以前から「ロックバラードを歌うのが好き」と公言してきたそらるだが、切なさと憂いに溢れたメロディライン、生々しいバンドサウンドと情景が浮かんでくるよう歌詞がひとつになったこの曲は、彼自身のルーツに即していると同時に、シンガーとしての魅力をもっとも強く体感できる楽曲だ。特に〈ね 僕はここで月を見上げて歌を歌おう〉から始まるサビは強力。ロングトーンを活かした旋律、繊細な感情の揺れと強烈なダイナミズムを同時に感じさせてくれるボーカルは、このアルバムの大きな聴きどころと言っていい。アレンジを担当した田中隼人は、ヒットメイカー。音数を抑え、歌の力を増幅させるようなサウンドメイクも絶品だ。
そらるはこれまでに、HYの「366日」、back numberの「クリスマスソング」といったバラード楽曲のカバーを発表している。ピアノ1本のアレンジで歌い上げる動画からも、シンガー・そらるの奥深い魅力を実感してもらえるはずだ。
そして「それは永遠のような」は、ノスタルジックな響きのメロディが印象的なミディアムナンバー。青春時代の淡く、切ない恋愛シーン、そして、思いを伝えたあとの一瞬の表情を叙情的に捉えた歌詞、まるでストーリーテラーのように物語や心情を綴るボーカルからは、シンガーソングライターとしての彼の資質が感じられる。歌と鍵盤を中心としたアレンジを手がけたのは、Mr.Childrenのライブサポートメンバーとしても知られるSUNNY。これまでにも「嘘つき魔女と灰色の虹 -acoustic ver.-」「長い坂道」といった楽曲をアレンジしており、いまやそらるの楽曲制作に欠かせないクリエイターの一人となっている。