『FUJI ROCK FESTIVAL '21』3日間のステージを振り返る 各アクトの名演から受け取ったこと
8月22日開催の3日目。電気グルーヴ、忌野清志郎トリビュートバンド(忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER)、平沢進+会人(EJIN)など、フジロックの顔役と言っていいアクトが揃い踏み。さらにMISIA、秦 基博、Awesome City Clubなど、J-POPを賑わすアーティストもGREEN STAGEを彩り、幅広いラインナップを堪能することができた。個人的に取材のためフルで見られるアクトが例年よりも少なかったものの、一つひとつの満足度は非常に高い。エセタイマーズ、青葉市子、THA BLUE HERB、GLIM SPANKY、上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットなど、いずれも渾身のパフォーマンスを見せ、今年のフジロックに賭ける思いが特別であることが伝わってきた。
特に、圧倒的な歌声と豊かな表現力に心が震えたのは、MISIA。なんと「君が代」でライブがスタートし、東京オリンピックの開会式で歌唱した記憶も新しいものの、この選曲には驚いた人が多かったと思う。かつて「Mr.フジロック=忌野清志郎」もこのステージで歌ったことがあるが、彼のバージョンとは異なり、とても厳かに歌われた、彼女なりの「平和を願うメッセージ」だったそう。「陽のあたる場所」「Everything」「アイノカタチ」などのヒット曲に加えて、「Smile」「Can't Take My Eyes Off of You」や、多様性を支持し続けてきた彼女らしい「Over the Rainbow」といった普遍的な名曲のカバーも歌われた。MCで、「言いたいことはこれだけ……コロナのバカヤロー!!」と絶叫した声の大きさには鼓膜が震えたが、来年こそは以前のようにフェスを楽しみたいと、みな同じ気持ちで願ったはずだ。
今年のWHITE STAGEの大トリは平沢進+会人(EJIN)。ステージ上に置かれたテスラコイルが放つ稲妻も相まって、不敵なラスボス感を漂わせる平沢。白髪にスタンドカラーのスーツ、リムレスのメガネという、ミュージシャンというよりは科学者のような風貌(それも“マッド”がつく)はいつも通りだが、ニューアルバム『BEACON』がリリースされたばかりということで、新作からの曲が多い構成となった。「COLD SONG」からスタートすると、相棒の会人たち(SSHO、TAZZ)、ユージ・レルレ・カワグチ(Dr)とのコンビネーションもパーフェクトで、決して平沢一人の独擅場というわけではない。秩序立ち、粛々と進んでいくかに見える演奏の中にもステルス性の興奮がみなぎっており、観客もそれに共鳴して激しく心を揺さぶられているのがわかる。P-MODELの楽曲である「Solid Air」や「HOLLAND ELEMENT」を演奏してくれたのも古参のファンにとっては嬉しいサプライズだったし、「パレード」は相変わらず鉄板だし、演劇的な要素のある「夢みる機械」は平沢という人間の茶目っ気も炙り出していて最高だし、ドラマティックな「救済の技法」は何度聴いてもアガる曲だ。何よりアンコールの「庭師KING」が内包する情緒と大陸的メロディは胸に染み入る。あらゆる意味で日本の最もモダンな音楽はここにあると断言できる、素晴らしいライブだった。
興奮を抱いたまま、GREEN STAGEの電気グルーヴへと移動。2019年には石野卓球のみの出演となり、翌年の2020年はヘッドライナーに決まっていながらフジロックそのものが中止になってしまったため、ファンにとっては3年越し、待望の出演となる。筆者がGREEN STAGEに着いたのは終盤の「FLASHBACK DISCO」の時で、盛り上がりはすでに頂点に達していたかに見えたが、続いて繰り出された「N.O.」でオーディエンスはさらに歓喜。ピエール瀧はいつになく神妙な表情で、時折なんともいえない幸福感を滲ませながらボーカルとパフォーマンスに従事して、観客の「おかえり!」という気持ちの波動を一身に受け止めていたように見えた。卓球と顔を見合わせながらハイタッチを交わす度に、オーディエンスが沸き立つ。二人の不変の絆にこちらも感極まって、泣きそうになってしまった。電気グルーヴに涙は似合わないのだが。最後はフジロックでは必ず演奏される曲であり、2016年出演時のラストナンバーでもあった「富士山」。コロナ禍によって私たちの日常は何もかも変わってしまったかに見えたが、変わらないものがある。その確かさに元気づけられた。
感染対策のため、歓声を上げたりモッシュしたりすることは禁止され、ライブ中も粛々とした雰囲気だった今年のフジロック。筆者が来場者に話を聞いた感触では、ほとんどの参加者が潰えてしまいそうなフェス文化を維持するため、「なんとか支えたい」という当事者意識を持っていた。出演者の多くも、ライブバンドとしての本領を久しぶりに発揮したことで、観客にはライブの素晴らしさや集う意義など、確かなものが伝わったと思う。それぞれが自分にとって「音楽とは何か」「フェスとは何か」という問いに向き合う3日間であった。