5thアルバム『ラヴ』インタビュー
ピノキオピー、初音ミクを通して表現したあらゆる「愛」の形 新作『ラヴ』で見出した、今ボカロで曲を作る意味
『ラヴ』と言いながら“息苦しい”曲も多い
ーー6曲目の「リアルにぶっとばす」は、スマホゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』のタイアップありきで制作された楽曲ですよね?
ピノキオピー:そうです。このゲームにはキャラクターごとにテーマ曲があって、そこに登場するゲームバズーカガールのテーマソングとして書き下ろしました。ゲーム内で彼女がバズーカをぶっ飛ばして相手との距離をかせぐ要素と、人間関係における「距離を置く」ということを結び付けて、付き合っているけど切り離せない関係を思い切ってぶっ飛ばす、そんな気持ちを描いた曲です。
ーー今回のアルバムの中でもとりわけアッパーな曲調で、軽快なギターカッティングやスクラッチ音などを含め、高揚感のあるサウンドですね。
ピノキオピー:そこは結構ゲームやキャラクターのイメージに引っ張られたところがありますね。無敵状態というか、『スーパーマリオ』でいうスター状態みたいな曲を作りたくて、こういったものになりました(笑)。最近はそうでもないんですけど、昔は速い曲をよく作っていたので、それをリバイバルするきっかけになったし、アルバムの幅も出て良かったです。
ーーたしかに最近は昔に比べて、音数を絞って制作している印象が強いです。以前はいわゆるブレイクコア的なサウンド、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーのように細かい打ち込みの曲が多かったように思うのですが。
ピノキオピー:そうですね。もともと打ち込みの音楽は好きで、ドリルンベースみたいに派手な音のルーツはありつつ、今はよりミニマルで先鋭化されたもの、音数が少なくてダークなものがいいなあと思っていて。
ーーそれは例えば?
ピノキオピー:すごくわかりやすいんですけど、ビリー・アイリッシュみたいな音楽が売れているムーブメントに対して非常に共鳴するところがあって。音数は少なくてミニマルだけど、メロディが良いっていう。かつ、基本オケはスモーキーでローファイだけど、声はハイファイなところがいいなあと思っていて。これもギャップの話ですよね。全部がハイファイだと目立たなくなるけど、ローファイのなかにひとつハイファイなものが入ると、それが際立って聴こえる。そういう要素と自分のルーツを組み合わせられないかなと思っています。
ーーなるほど。今回のアルバムでそういったサウンドメイクを特に感じたのが、9曲目「ノンブレス・オブリージュ」です。楽曲的にはミニマルな構成ですが、一音一音に対するこだわり、フェティッシュな質感が素晴らしくて。
ピノキオピー:この曲はギターを入れずに、最小限の音で作れたらと思って、最初はフィルターのかかった暗いピアノの音だけでどこまでいけるかを試しながら作りました。ずっと音がたくさん鳴り過ぎていると耳が疲れますし、単純に印象がぼやける気がするんですよね。なのでこの曲は音もなるべく繰り返すようにしたり、変に展開をさせないようにしていて。もうひとつ気に入っているのが、コードも4つの繰り返しなんですよ。
ーーそう、ずっと循環してますよね。
ピノキオピー:なおかつ流行りのコードなんですけど、それを流行っぽく感じさせないものというテーマで作っていて。それとボーカロイドの「呼吸をせずに歌える」特性にあえてまた注目してみました。この曲が出来たときは、「絶対にかっこいいけど、もしこれがウケなかったらおしまいだな」ぐらいの気持ちで(笑)。正直、どんな曲がみんなに気に入ってもらえるのかはいまだにわからないですけど、手ごたえはありましたね。
ーー「息継ぎなし=ノンブレス」というテーマはボカロならではですし、これはアルバム収録曲の「404」や「変な愛にだまされないで – LOVE ver –」にも通じますが、いわゆる今の窮屈で息苦しい社会に対しての思いも感じられます。
ピノキオピー:今はコロナ禍で物理的に窮屈というのもありますし、SNSも相互監視が過ぎる状態になっているので、「苦しいな」っていう曲を出したら、みんな「苦しいな」と思ってもらえるかなって……なんか単純な話をしてますけど(笑)。誰かの気持ちを逆なでするようなことはしたくないけど、「苦しいな」っていう気持ちは出したいと思うので。『ラヴ』と言いながら、息苦しい曲も結構多いんですよね。
ーーそういう息苦しい世の中においても多様な「愛」があることを、この作品では描いているように感じます。ただ、今は世間的に「多様性」を尊重しつつ、結局はそれが原因で息苦しい世の中になっている側面もあって。
ピノキオピー:そうなんですよね。僕としては「ノンブレス・オブリージュ」で言っていることが全てなんですけど、あちらが立てばこちらが立たずということはよくあるので……まあ、自分のことを正しいと思い過ぎたり、相手を間違っていると思い過ぎてはいけない、そういう度合いの話だと思います。
ーーでも、そういう普段はなかなか吐き出せないような感情や意見、この楽曲で言うと社会に対する息苦しさだとかを、音楽で一貫して表現してきたのが、ピノキオさんのこれまでの活動でもあるのかなと。
ピノキオピー:そうですね。もし、僕の書いた歌詞がTwitterでつぶやかれたら、「なんだこいつ?」って思うような言葉が多いと思うんですよ(笑)。自分でも歌詞だとしっくりくるけど、つぶやきはしないなと思っていて。ちょっとフィクションな感じだからいいのかなと思いますね。
ーーそれをボーカロイドというキャラクターが歌うことで、ある種の緩衝材になっているのかもしれないですね。
ピノキオピー:食べやすくなるというか。かといって、すべての人に誤解なく伝えるのは正直無理だと思うので、単純に音楽として楽しんでくれればいいなと思っています。半分諦めもありますけど(笑)、それでも聴いてくれる人がいるのはありがたいですし、伝わったらいいなと思いますね。
ーーそしてアルバム本編のラストに置かれたのが「LOVE」です。
ピノキオピー:今まであまり書くことのなかった「君と僕」の「愛」を真剣に書こうと思って、それをなるべく鼻につかないように、自分の中でいい書き方を突き詰めた曲です。ミクロな視点も入っていますが、かなりマクロな視点で「愛」というものを描いていて、僕の中では「ザ・ラブソング」っていう感じですね。『ラヴ』というアルバムを気持ち良く終わらせるエンディングをイメージして作りました。
ーーまさに大団円を感じさせる壮大さがありますし、「君と僕」のミクロな「愛」がたくさん重なりあってマクロの「愛」、本質的な「愛」を表現する構造に巧みさを感じました。
ピノキオピー:「愛」というものはありとあらゆるものを結びつけるもので、それは「君と僕」もそうですし、過去も未来も、宇宙全体も含めて……って結構スピリチュアルな話になりますけど(笑)、そういう全体的なことを描けたらと思いました。全部が綺麗な「愛」ではないし、ミクロもマクロも明暗も全体を詰め込んだ、まさに「LOVE」という曲ですね。
ーーこの曲を聴いて「そういえば自分がいまここにいるのも、愛があったからなんだな」と感じられたことが、個人的にすごく良い経験でした。「愛」という言葉はもはや手垢にまみれている印象もありますが、改めていい言葉だと思ったんですよね。
ピノキオピー:良かったです。ある種の胡散臭さは感じるかもしれないけど、でも、(「愛」は)なくてはならないものなので。胡散臭いからといって避けるのではなく、いい要素は取り入れていかないと良くないと思うし、結局は用法・用量の話かもしれないです。極端なものは良くないというか。「愛は素晴らしい!」って言える力強さに対する憧れもありますけど、素晴らしいだけじゃないことも両方知ったうえで受け入れられたらいいなと思いますね。
ーーアルバムにはその後、既発曲「セカイはまだ始まってすらいない」と「愛されなくても君がいる」のLOVE remixが収められていますが、ピノキオさんが初音ミク視点で歌詞を書いた「愛されなくても君がいる」のリミックスを最後にすることで、ある種、ピノキオさんから初音ミクへの「愛」を提示している部分もあるのかなと。
ピノキオピー:それは意図していなかったですけど、前に「君が生きてなくてよかった」(2017年)で、初音ミクにとって「愛」は音と記号でしかなくて、ただそれを言わされているだけということを書いたんですね。でも、その初音ミクというある種空虚な存在から「愛」がちゃんと伝わってきたり、本当の「愛」が生まれたりする。そこにおもしろさを感じるし、初音ミクという「愛」を理解していない存在を通して、「愛」をテーマにしたアルバムを作れたこと自体に意味はあるのかもと思いましたね。より人が歌っていないことに意味があるアルバムという感じはします。
ーーたしかにこのアルバムを人間が歌っていたとすると、少し暑苦しさや押しつけがましさが感じられたかもしれません。
ピノキオピー:自分もそこのバランスの良さは感じました。それと工藤大発見をきっかけに、ボーカロイドで楽曲を作ることの意味を考える機会が増えたことも大きいですね。だからこそいまは、(初音ミクが)女の子のキャラクターであることや、人間には歌えそうにない曲を歌えるというところに立ち返ってみるのが、むしろおもしろいし、そこに意味を見出しているっていう。
ーーそこはボカロと生歌の関係性に向き合いながら活動を続けてきた、ピノキオさんだからこその気付きかもしれないですね。
ピノキオピー:最初からそういう志をもって始めたわけではないし、「僕のやってきたことって何なんだろう?」と考えていたらそうなっていただけなので、自分でも不思議ですけどね。
ーーそれはまさに「無為」の結果じゃないですか。
ピノキオピー:ああ、たしかにそうかもしれない。いいですね、素敵です(笑)。
※1:https://realsound.jp/2021/03/post-715929.html
■リリース情報
ピノキオピー
ニューアルバム『ラヴ』
2021年8月11日(水)リリース
レーベル:mui
品番:MUI-0001
価格:2,750 円(税込)
<収録楽曲>
01. ラヴィット
02. アルティメットセンパイ
03. ねぇねぇねぇ。
04. シークレットひみつ
05. 恋の恋による恋のための恋
06. リアルにぶっとばす ※スマホゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』書き下ろし楽曲
07. 404 ※ころん提供楽曲セルフカバー
08. 変な愛にだまされないで – LOVE ver –
09. ノンブレス・オブリージュ
10. LOVE
11. セカイはまだ始まってすらいない – LOVE remix - ※スマホゲーム『プロジェクトセカイ』書き下ろし楽曲
12. 愛されなくても君がいる – LOVE remix - ※『マジカルミライ2020』テーマソング
<店舗特典詳細一覧>
・Amazon.co.jp:Amazon限定『ラヴ』メガジャケ
・とらのあな:とらのあな限定特典CD『ラヴィット – RK remix – 』
・アニメイト:アニメイト限定『ラヴィット』複製サイン入りポストカード
・楽天ブックス:楽天ブックス限定『アルティメットバーガー』複製サイン入りポストカード
・ピノキオピーオフィシャルショップ(BOOTH):BOOTH限定アナザージャケット+ダウンロード音源『ミッドナイト7 – LOVE ver – 』
・タワーレコード全店:複製サイン&コメント入りレシート発行
実施店舗:タワーレコード全店(もりのみやキューズモール店、オンラインは除く)
実施期間:8月10日(火)~8月23日(月)
・共通店舗特典
『ラヴ』オリジナル・ジャケット・ステッカー
※一部店舗/ECでは特典のご用意がない場合がございます。特典の有無の詳細は各店舗までお問い合わせ下さい。
※特典は、商品入荷日から配布を開始し、無くなり次第終了となります。
■関連リンク
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