LMYK、アニメ『ヴァニタスの手記』EDテーマ「0 (zero)」で追求した哲学的テーマ 英語詞と日本語詞の違いも語る
昨年11月に映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』の日本語吹替版主題歌「Unity」でデビューを果たしたシンガーソングライター・LMYKが、新曲「0 (zero)」をリリースする。この曲は、アニメ『ヴァニタスの手記』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマとして書き下ろされたもの。「Unity」に引き続き、プロデューサーにはジャネット・ジャクソンやマライア・キャリーなどを手掛けたJam & Lewis、アレンジャーには彼らのチームに所属するジョン・ジャクソンを起用。抑制の効いた心地の良いトラックが、日本語と英語をナチュラルにミックスしたLMYKによる独特のフロウを効果的に引き立てている。『ヴァニタスの手記』の作品世界を踏まえつつ、自身が常に追求している哲学的なテーマを歌詞に落とし込んだというLMYK。タイトルの「0」とは一体どういう意味なのか、本人に話を聞いた。(黒田隆憲)
“「私」と「あなた」に共通するものは何か”についての歌
ーー「Unity」でデビューしてから8カ月くらい経ちますが、その間LMYKさんはどのような活動をしていましたか?
LMYK:「Unity」をリリースしてからは、主にアルバムのための楽曲を制作していました。それで、割と早い段階で今回のタイアップ(アニメ『ヴァニタスの手記』エンディングテーマ)のお話をいただいたので、そのための曲作りも並行して行なっていましたね。基本的にはずっと制作モードでした。
ーーアルバムの制作をしていたのですね。どのくらい完成しているのですか?
LMYK:どうだろう……まだ何とも言えないです(笑)。自宅でデモ制作をしているのですが、曲によってはそれを使うかもしれないし、スタジオで生楽器に差し替えるかもしれない。そういう意味では、アレンジも結構バラエティ豊かになると思います。LMYKとしては、今はまだ2曲しかリリースしていないし、断片的にしか自分を表現できていないので、アルバムを出すことでもっといろんな側面を見せていきたいという願望が、今は一番大きいです。焦らず、いいものを作りたいと思っています。
ーー楽しみにしています。実際にデビューしてみて、周囲の反響などはいかがですか?
LMYK:今はInstagramしかSNSはやっていないので、聴いてくださった人とのコミュニケーションはそれほど取っていないのですが、それでもファンレターをいただいたり、家族や国内外の友人から嬉しい感想をもらったりしています。前回のインタビューでもお話ししたように、デビュー前はニューヨークで音楽活動をしていたので、帰国した私がどんな音楽を作るのかを、みんな楽しみにしてくれていたんですよね。ニューヨークにいた頃はアコギ1本の弾き語りでライブをすることが多かったので、私の新しい一面に驚いてくれたみたいです(笑)。
ーーでは、新曲「0 (zero)」についてお聞きしていきます。先ほどもおっしゃっていましたが、この曲はアニメ『ヴァニタスの手記』エンディングテーマとして書き下ろしたものだそうですね。
LMYK:はい。ただ、アニメのテーマと私自身がいつも追求していることが共通していたので、そこは意識的に重ねて書いています。
ーーLMYKさん自身が、いつも追求していることとは?
LMYK:なかなか一言では言い表しにくいのですが、曲タイトルの「0 (zero)」を他の言葉に置き換えるとすると、一番意味が近いのは「今」ということなのかなと思っています。聴いてくださった人それぞれの解釈があると思うので、あまり断言はしたくないのですけど、「私」と「あなた」に共通するものは何かについての歌というか。今、ここにいる人たちはみんな「今」という瞬間を生きている……ざっくりいうと、そんなことを歌いたかったんですよね。
ーー結構、哲学的なテーマというか。SFにも通じるところがありそうですね。
LMYK:そう思います。SFはすごく好きですね。最近だと、ハリウッドでリメイクされた『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)の、「私」を「私」としているものは、後から入れられた「記憶」によるものだという設定には感銘を受けました。「自分」を為しているのは「記憶」であり、その「記憶」をもとに「自分はこういう人間だ」と私たちは認識しているし、その「記憶」から常に何かを追い求めていると思うんです。
ーー確かに「記憶」を失ってしまうと、「自分」という存在が揺らいでしまいそうです。
LMYK:そうなんですよ。逆に「記憶」を失えば、今まで自分をつなぎとめていたもの全てを捨て去ることができて、自由になれますよね。それもいいなと思う気持ちもどこかにはあります。
ーー歌詞の中の〈When I lose myself I become you〉には、どんな気持ちを込めましたか?
LMYK:〈When I lose myself〉は、日本語で言うと「夢中になった状態」というか、我を忘れた無我の境地のことをここでは歌っていて。普段はしがみついている「自分」を忘れるほど夢中になった時に、「私」と「あなた」は同じものになるという意味なんです。そして「今」を一番真剣に生きているのは、無我夢中の状態の時だと私は思うんです。そして「私」も「あなた」も、すべてのものが無我夢中の状態となって一つになることを求めている気がするんですよね。そういう意味では、この曲のコンセプトを表す言葉は「無我夢中」が一番近いのかもしれない。
ーーとても興味深いです。サビの〈Was it you who I’ve been searching for Spent my life alone and waited for?〉というラインはどんな意味ですか?
LMYK:サビ以外の部分は割と抽象的な表現が多かったので、ここは本当にストレートに「私が探していたのはあなただったの?」と尋ねていますね。「足りない」という思いだったり、普段のしかかっている「負担」を少しでも取り除こうと快楽を求めたり、何かをずっと探し求めてきたけど、「こんなところにいたんだね」とやっと出会えたような。
ーーそれって、端的に言えば「運命の人」という意味なんでしょうか?
LMYK:そう解釈することもできる曲だと思います。人はこの世に存在する限り、無意識的にも意識的にも何かを追い求めるじゃないですか。生まれた瞬間から確実に「死」に向かっているわけですし、同時にその「死」を避けようともしている。その過程で自分以外の他者と出会い、一つになることで満たされることもあるでしょうし、その相手と自分、もっと言えば今ここにいる人たち全員に共通する「今」に溶け込んだような感覚をここでは「0 (zero)」と呼んでいるんです。私たちは「今」という瞬間しか生きたことがないし、今この瞬間をつかもうとしても、絶対につかめないじゃないですか。
ーー切り取った瞬間に「今」は「過去」になっているわけですしね。
LMYK:そうなんです。「ゼロ」は終わりも始まりもない円環という意味では「今」が続いているというか、すべてつながっていて常に回っている状態でもあります。そこに意味があると思って絶対に「0 (zero)」を曲名にしたかった。ブリッジの部分、〈なぞり続ける夕日 何度もゼロに戻り〉というフレーズをその後に思いついて辻褄が合いました(笑)。今、「運命の人についての曲」っておっしゃったじゃないですか。「私」と「あなた」についての歌詞と、「私」と「世界」についての歌詞というのは、どこか共通する部分があるからそう思われたのかなという気がします。
ーーそういうテーマは、今後の作品でも追求していきたいと思っていますか?
LMYK:そうですね。誰しもに共通する事実や共通して認識している現実をつなげていくことで、目に見えないものや認識できないもの、見えなくてもなんとなく感じていることを明確にしたいという欲求が、自分にはあるのだと思います。
ーーこの曲も前作「Unity」と同様、プロデュースやアレンジもJam & Lewisが手がけているんですよね?
LMYK:そうです。私が最初に作ったデモの段階では、もっとゆったりとしたアンビエントな雰囲気だったんですよ。リズムも全然違って、最初の段階ではサビもなかった。Aメロ、Bメロの繰り返しでもいいかなとすら思ったのですが、今回はアニメのエンディングテーマでもあるし、「舞台設定からしても、もっと疾走感があった方がいいよね」という話になり、アレンジャーのジョン・ジャクソンさんに提案してもらったリズムがすごくしっくり来て。「私がやりたかったのはこれだ!」という感触があったので、新たにサビをつけて完成させました。「Unity」にも通じるような、アップテンポで英語詞メインのサビを考えようと思って作ったサビです。
ーージョンやJam & Lewisとのやり取りは、今回も「Unity」の時と同じようにリモートで行なったのですか?
LMYK:はい。ただ、今回は生のストリングスセクションを日本でレコーディングしました。そういう現場を初めて経験したので感激しましたね。シンセパッドのようなフレーズを、ものすごく豪華な編成で演奏していただいたのが印象に残っています。