SHE’S、結成10周年で再び立った日比谷野音のステージ 選りすぐりのオールタイムベストを披露

SHE’S、日比谷野音ワンマンレポ

 今年2月、地元の大阪府吹田市文化会館メイシアターで結成10周年のキックオフライブを行ったSHE’S。つい最近のことのように思えるが、この4カ月の間にシングル『追い風』、配信シングル「Spell On Me」をリリース。オフィシャルサイトではデビュー曲「Morning Glow」以降にリリースされた楽曲を「Love」「LOUD」などテーマごとにプレイリストを作成し、最近聴き始めたファンにも様々な切り口で楽曲の魅力を伝えるなど、そのスタンスには周年であるだけでなく、どの時代のどんなテイストの楽曲から入ってもらっても構わないという自信が窺えるものだ。本稿の主題である『SHE’S 10th Anniversary「Back In Blue」』、東京・日比谷野外大音楽堂での初ワンマンのセットリストも同様で、全てが自信を持って届けられる選りすぐりのオールタイムベストだった。

SHE’S(写真=Shingo Tamai)

 ちなみに筆者がSHE’Sのライブを初めて目撃したのはメジャーデビューを発表した2016年3月、3rdミニアルバム『She’ll be fine』ツアーファイナルの渋谷CLUB QUATTRO。四つ打ちアップチューン全盛のバンドシーンに、ここまでOasisやColdplay並みの大きなメロディと、シンガーソングライター的なピアノポップとも違う、バンドのピアノロックで挑んできたこのバンドのオリジナリティに胸のすく思いがしたことを鮮明に覚えている。初めから独自の歩き方をしてきたバンドだ。

 そんなことをライブの最中に色々思い出していたのだが、眼前で繰り広げられるライブは2021年6月時点の最新にして最先端。口火を切ったのはデビュー曲「Morning Glow」。広瀬臣吾(Ba)と木村雅人(Dr)のリズム隊のタフさも服部栞汰(Gt)のオブリガードもリアレンジかと思えるほど新しい強さを加味している。これまでライブ終盤にセットしていた「Dance With Me」も序盤で披露。レインボーカラーのライティングも相まり、祝祭感が増す。いい緊張感に満ちたアルバムツアーを経て、バンドはキャリアの第3章に突入している、そう思った。

SHE’S(写真=Shingo Tamai)

 ポジティブなイメージの曲も、怒りを滲ませる曲も、ポップソングとしてすでに昇華されている事実もこの日鮮明に実感できたことの一つ。木村のプリミティブなビート、ラスサビを受けての服部の滑空するようなギターソロが響く「Higher」。そこから冷たい空気に豹変するような「Ugly」の鋭い表現への急転直下。怒気を孕んだ井上竜馬(Vo/Key)の声がクールで熱い。が、対極にあるような2曲に続けて演奏された、誰しもの生き方を肯定する歌、「Your Song」のリアリティは破格だった。コロナ禍でツアースケジュールが何度も変更されたり、延期や中止を余儀なくされてきたアルバム『Tragicomedy』のツアーだったが、必ずしもライブに足を運べなかったファンも、本作を契機に出会った新しいリスナーも、等しく今のSHE’Sをこの場に立たせている。

 先述のキックオフ公演に続いて、この日も井上がグランドピアノに向かい、リアレンジを施した選曲は「ミッドナイトワゴン」と「White」。どこかで自分たちの音楽を待っている人たちがいるーー旅するバンドらしい曲である「ミッドナイトワゴン」だが、そこにも滲む不安と確信というアンビバレントな思いが井上というソングライターの個性だ。

 どの場面を切り取ってもSHE’Sを代表する曲揃いだが、一編のストーリーをアンサンブルの強固さと、展開の大きさで表現した「Ghost」は演奏面で白眉だった。井上のピアノのイントロに服部のフィードバックが教会の残響音のように重なり、淡々としかし強く歌われるメロディの良さ。エンディングの一音までじっくり聴かせ、立ち尽くすファンはそれぞれの世界に没入。てらいのないバラードという新しい強みを持った新曲「Spell On Me」につなぐことで温かさが際立つ。

SHE’S(写真=Shingo Tamai)

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