寺嶋由芙がライブで体現した、アイドルとゆるキャラを融合させたエンタメ 生誕祭『物見遊山』を振り返る
6月30日、リアルサウンド編集部で寺嶋由芙にインタビューを行なった。これまで彼女がどのような活動をしてきたのかを紹介していく中で、僕が原稿にしなかったやり取りがある。
――大学生だった2014年に、“ゆるキャラとアイドル”についての卒論を書かれましたよね。アイドル/ゆるキャラとは何か? であったり、お互いに2010年から人気に火がつき、投票制イベントを取り入れてさらに注目された話、シーンが盛り上がったことでどのような社会貢献をしたのかなど、アイドルとゆるキャラの魅力を論じている内容でした。2021年になって、それぞれの状況をどのように受けとめていますか?
寺嶋:コロナによって「人を集めてはいけないし、触れ合っちゃいけない」というのは、アイドルがやってきた握手会もそうだし、ゆるキャラだって(地元に)人を集めるために生まれたわけで。どちらも今までやってきたことが、通用しなくなっている。その中でグループアイドルは個人の配信を強化して、グループ全体についていたグレーゾーンを含めたお客さんに向けるより、もうちょっと狭いコミュニティに向けたアプローチをしているんです。ライブをやればグレーゾーンの人も来るかもしれないけど、配信を追いかけるのはどうしたってコアな人になるので。だから今、コアの人と一緒になんとかコロナを乗り切って「事態が収束したら、また頑張ろうね」と頑張っている状況です。それは、ゆるキャラも一緒ですね。
――ゆるキャラも一緒?
寺嶋:ゆるキャラも今、イチナナ(17LIVE)で配信をやっていたり、毎週何曜日はYouTube配信をすると決めていたり。あとはTwitterもみんな結構な頻度で更新しています。ただ、Twitterを毎日チェックするのは私みたいなヲタクであって、別に市民全員が見るわけじゃない。でも、そういうコアファンの心をちゃんと掴んでおいて、きたるべき時に備える姿勢は、今のアイドルとゆるキャラが大事にしている共通点だと思います。
――両者の文化を衰退させないように盛り上げていく。その架け橋を担っているのが寺嶋さんですよね。
寺嶋:アイドルシーンを盛り上げたいのはもちろんですし、役に立ちたいんですよ、ゆるキャラの。楽しいことや素晴らしさをたくさん教えてもらったので、アイドルのフィルターを上手に利用して、ゆるキャラの魅力を伝えるのが私の使命だと思っています。
それから2週間後の7月10日。東京・品川ステラボールで、寺嶋由芙は30歳の生誕ワンマンライブを開催した。この日は2部制になっていて、1部は『物見遊山』というサブタイトルで、寺嶋が各地のゆるキャラをゲストに迎え、仮想旅行をする内容となっている。ただ、好きなものを掛け合わせたわけではなく、コロナ禍でどうしたらアイドルとゆるキャラを盛り上げていけるかを考えた上で生まれた特別なライブである。
開演時間になると、ニッポン放送・吉田尚記アナウンサーの呼び込みで、うなも(静岡県浜松市)、えちゴン(新潟県柏崎市)、オカザえもん(愛知県岡崎市)、しんじょう君(高知県須崎市)、カパル(埼玉県志木市)がステージに登場。そして「古き良き時代から来ました。まじめなアイドル、まじめにアイドル。俺たちのゆっふぃーこと、寺嶋由芙!」という紹介で寺嶋も姿を現した。
1曲目はゆるキャラ全員を従えて「ぜんぜん」を披露。「夏が近づいたというのに、こんなご時世なので旅行にも行けないじゃないですか。ゆるキャラと会いに、色んな地域へ行っていたあの頃が懐かしい。須崎で食べたカンパチが美味しかったとか、岡崎で岡崎城を見て感動したとか。各地でいろんな思い出があるのに、今年の夏はどこにも行けないのかなと、ウジウジした私を旅行に連れて行ってくれませんかね?」というMCから「わたしを旅行につれてって」へ。
3曲目からは、ゆるキャラが1人ずつステージに現れてリレー形式で楽曲のバックを務める流れに。まずはオカザえもんが登場し、モニターに投射された岡崎市の岡崎公園などの写真とともに「ゆる恋」を盛り上げた。
続いて「仮縫いのドレス」では、しんじょう君がゆる~い踊りで魅了しつつ、モニターには寺嶋が高知名物の鍋焼きラーメンを食べていたり、漁港にいる写真が写っていた。えちゴンとの「冬みたい、夏なのに。」に続いて、袖から顔だけを出してすぐに引っ込んだので、寺嶋がステージに隠しておいたきゅうりを差し出すと好物に釣られてひょこひょこ現れたカパル。脇には緑色のベースを持っており、まさかの「オブラート・オブ・ラブ」を生演奏して会場を盛り上げた。そんなカパルをうなもと取り合いながら「恋の大三角関係」を披露。これで全員のパフォーマンスが終わったと思いきや、千葉県出身の寺嶋にとっては特別な存在である、うなりくん(千葉県成田市)がモニターからサプライズ出演を果たし、「#ゆーふらいと」を寺嶋と一緒に届けた。歌唱が終わると「「#ゆーふらいと」から、もう7年。その間、いろんなことがあって僕たちキャラとの思い出も沢山だけど、ゆふぃすと(寺嶋ファンの呼称)がいることを忘れないでね!」とうなりくんが送ったメッセージを寺嶋が読み上げた。
「その通りですね。キャラのみんなにいろんな所へ連れて行ってもらって、全国各地でいろんな良い思い出がありますけれど、やっぱりゆふぃすとのみんながいてくれるココ(ライブ会場)が私のホームだなと思います」。