矢野顕子、バンドへの確信から生まれた“ポップスの醍醐味” 「45年経っても、音楽だけは突き詰めたい自分がいる」

矢野顕子が生み出す“新たなポップスの醍醐味”

「長年やってきたことのすべては音楽に表れてくれればいい」

ーーアルバムタイトルにもなった「音楽はおくりもの」ですが、この曲は東京国立博物館で撮影されたミュージックビデオも公開されていて、のんさんも出演されていますね。歌詞に〈大貫妙子〉〈キャロルキング〉といった固有名詞が出てくるのも、矢野さんの心の中の日常を感じました。

矢野:この曲はコロナ禍でロックダウンされたニューヨークで生まれました。ロックダウン中に家から川沿いをジョギングしていたんですけど、そのときに「ああ、大貫妙子の曲が聴きたいな」「キャロル・キングやリンダ・ロンシュタットもいいなあ」って、音楽のことが降ってきたんですね。「あ、この気持ちは曲にしたい」と思って、帰り道ではもうサビのフレーズも浮かんでいました。行動を制約されてしまっているという、いわば閉ざされた世界の中で、私だけではなくきっと多くの人が音楽によって救われていたと思います。そういう経験をしたことは辛いですけど、この曲が書けたことは素直によかったと思ってます。

ーーこの曲にはコーラスでMISIAさんが参加されているのが意外でした。

矢野:実はこの曲、作ってみたはいいけれど、いざ歌ってみたらこれがまあ難しいんですよ。前にもインストナンバーを作ったら、難しくて自分ではピアノを弾ききれないということがありましたから、矢野顕子にはときどきあることなんですが(笑)。MISIAさんは、これまでも私のライブを見にきてくれたりしましたし、彼女の歌のスタイルも知っていましたから、思わずTwitterに「いっそMISIAに歌ってもらえないだろうか」って書いたんですね。そうしたら、なんとご本人から「仮歌でもなんでもお手伝いしますよ」って返信をいただきまして、「どうする、わたし?」って(笑)。彼女のおかげで実現の運びとなり、より味わい深いものになったと思います。

矢野顕子 - 「音楽はおくりもの」 MUSIC VIDEO

ーーまさに「音楽はおくりもの」、矢野さんの音楽への正直さを感じるエピソードですね。今回、デビュー45周年を迎えたわけですが、45周年ということに関しては、どんな思いでいますか。

矢野:そうねえ。正直に言えば、年齢とか周年とかそういうことに関心がない(笑)。スタッフに言われて「ああ、まあ、そうかあ」みたいなね。最初にも言ったように、出し惜しみをしてこなかったと思っているからかもしれないですね。もちろん年齢のことや身体のことは避けて通れませんし、先輩から「○○歳になるとこうなるよ」って言われてきた変化が起きたりもしますが、そこはほら、付き合っていくしかないわけだから。たまに「うーん、整形してシワでも伸ばすか」なんて言ってみたりしますけど(笑)、そういうことはありつつも、長年やってきたことのすべては、音楽に表れてくれればいいと思っています。

ーーやはり矢野さんは音楽の星から来たようですね。

矢野:音楽以外のことって、割と普通なんですよ。食べ物の曲が多かったりするから、きっと食事にもこだわっているんでしょうとか、思われるかもしれませんが、おいしいラーメンと、たまにおいしい鰻が食べられればいいんです。それで1週間は幸せでいられます(笑)。食べ物に対してもそんな感じだし、部屋もそんなに片付いていないし、そういう私を突き詰めたいとあまり思っていないんですね。けど45年経っても、音楽だけは突き詰めたいと思っている自分がいます。何がなんでもおいしいものが食べたいとは思わないけど、何がなんでもいい音楽は作りたいですから。

ーー最後にもう一度、こうして完成したアルバムの聴きどころをお願いします。

矢野:これまでのアルバムももちろんしっかりと作ってきましたけど、今回ひとつだけ違うところがあるとすれば、私自身ができ上がってから何度も何度も繰り返し聴いていることなんです。それはこれまでにはあまりなかったことなんですね。きっとそこにはメンバーそれぞれのプレイの素晴らしさや、音質を整えるエンジニアリングの素晴らしさも詰まっているからだと思います。すっごく音もいい、プレイもいい。ここにある「ポップスの醍醐味」というものを、ぜひ味わってみてください。ちなみに45周年記念限定盤には、2020年の『矢野顕子さとがえるコンサート2020』が映像で収められているので、バンドのヒストリーが気になる方には、そちらもオススメしておきます。

矢野顕子『音楽はおくりもの』

■アルバム情報
矢野顕子『音楽はおくりもの』
8月25日(水)発売
・45周年記念限定盤(CD+Blu-ray)7,480円(税込)
・通常盤(CD/紙ジャケ仕様)3,300円(税込)
・レコード(1LP)4,950円(税込)

<収録楽曲>
1 遠い星、光の旅。
作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子 
2 わたしがうまれる
作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子
3 わたしのバス(Version 2)
作詞:矢野顕子 作曲:矢野顕子
4 魚肉ソーセージと人
作詞:矢野顕子 作曲:矢野顕子 
5 愛を告げる小鳥
作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子
6 津軽海峡・冬景色
作詞:阿久悠 作曲:三木たかし
7 大家さんと僕
作詞:矢野顕子 作曲:矢野顕子
8 なにそれ(NANISORE?)
作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子
9 音楽はおくりもの
作詞:矢野顕子 作曲:矢野顕子
10 Nothing In Tow
作詞:矢野顕子 作曲:矢野顕子

<限定盤Blu-ray収録内容>
『さとがえるコンサート2020』
Members:矢野顕子(Pf/Vo/Key)、小原礼(Ba)、佐橋佳幸(Gt)、林立夫(Dr)
2020.12.13 at NHK Hall
1 バナナが好き
2 クリームシチュー
3 ふりむけばカエル
4 愛を告げる小鳥
5春咲小紅
6 Paper Doll
7 Prayer
8 H.O.S. (Instrumental)
9 When We're in Space
10 大家さんと僕
11 遠い星、光の旅。
12 また会おね
13 津軽海峡・冬景色
14 ラーメンたべたい
15 ひとつだけ
−ENCORE−
16 ごはんができたよ
17 Greenfields

*『矢野顕子 さとがえるコンサート2021 ~音楽はおくりもの~』先行予約受付URL封入
(45周年記念限定盤及び通常盤・LP盤の初回生産分のみ)
*受付締切:9月12日23:59まで

『音楽はおくりもの』特設サイト

■先行配信情報
矢野顕子「音楽はおくりもの」
7月25日(日)配信
ストリーミング/ダウンロードはこちら

矢野顕子「遠い星、光の旅。」
6月23日(水)配信
ストリーミング/ダウンロードはこちら

矢野顕子 オフィシャルサイト:https://www.akikoyano.com/

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