大塚紗英、青春時代を救った音楽創作との歩み 表現の根底にある葛藤と家族への思いを語る

大塚紗英、青春時代を救った音楽創作との歩み

 大塚紗英が、2ndミニアルバム『スター街道』をリリースした。同作には、リードトラック「田中さん」をはじめ、「疲れました、こんな会社」や「キミをペットにして飼いたい」など、自身で作詞・作曲した全6曲を収録。大塚紗英のシンガーソングライターとしてのセンス溢れる、キラーチューン目白押しの作品となった。

大塚紗英 / 2ndミニアルバム「スター街道」ティザー映像

 もともとクラシックを嗜み、意外にも作詞作曲を主にピアノで行うという大塚紗英。今作制作にあたって作ったデモ曲は100曲を越えたというから驚きだ。人気コンテンツの声優でありながらも、根っからのシンガーソングライター。アーティストとして特殊なキャリアを歩む大塚は、ファンや周りから求められる姿と、自身の中にある音楽と常に向き合い、いちシンガーソングライターとしての覚悟を持って作品をアウトプットしてきた。インタビューでは、そんな二足の草鞋を履く彼女に、音楽との出会い〜ルーツミュージック、表現の根幹にある兄弟への思い、音楽活動を行う中で生まれる葛藤について赤裸々語ってもらった。(編集部)

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絶望の中学生活、その捌け口が音楽だった

ーー新アルバム『スター街道』、めちゃめちゃ面白かったです。1枚目の『アバンタイトル』と比べても、格段にレベルアップしていますよね。前作よりも焦点が絞れている感が、よりダイレクトに伝わるアルバムだと思いました。

大塚紗英(以下、大塚):ああ、めっちゃうれしい……どうしよう、泣いちゃう……(苦笑)。

ーーそんな作品を作り上げた方がどんな音楽を聴いて、なぜ音楽を作ろうと思ったのかがすごく気になったんです。なので、まず最初に大塚さんの音楽的ルーツについて伺いたいと思います。

大塚:私は根幹にあるのがクラシックで。家にあったおもちゃのピアノ……30鍵くらいの子供用のピアノなんですけど、それでジブリの音楽とかを耳コピするのが幼稚園から小学校ぐらいまでの趣味だったんですよ。たぶん耳がそこで鍛えられていたので、小学校の合唱の伴奏も立候補して、独学で弾いたりしていたんですよね。そこから小5のときにピアノを習い始めたんですけど、そんな幼少期を過ごした子ってそうはいないじゃないですか。だから「耳がいいね」と褒めてもらえて、「それだけ音感があれば、今からピアノの道で頑張れば食べていけることもできるから」とプロの道を目指そうとしていたときもありました。そういう育ち方をしてきたから、いわゆるJ-POPのヒット曲というのをまったく知らなくて。

ーーとなると、もっとも影響を受けたアーティストとなると……。

大塚:ずっとクラシックを聴いてきたので、その関連で久石譲さんがすごく好きなんです。久石さんが手がけたジブリの音楽は今もすごく好きですし。一番好きな久石さんの曲では「Summer」という曲です。

ーー作詞作曲はいつ頃から始めたんですか?

大塚:中学に上がってからはピアノもやりつつ吹奏楽部にも入っていたんですけど、そこでもピアノを担当していて。部活が6時間あるとほかのみんなはパート練したり合奏したりやれるんですけど、ピアノはひとりしかいないから6時間ずっとひとりで練習しないといけないんです。でも私、ひとつの曲をやり続けるというのが無理で(笑)、その膨大な時間をずっと好きな作曲に充てていたんですよ。タイトルとか歌詞はないんだけど、「この曲は悲しかったときの気持ち」「この曲は梅雨でずっと雨が降っていたときの中1の頃の曲」とか、そういう記憶の仕方なんですよね。そこから形として残したくなって、中2の頃から授業中ノートに楽譜を書いていました。

 歌詞を書き出したきっかけは、水樹奈々さんが好きで見始めた『魔法少女リリカルなのは』というアニメ。上松(範康)先生の楽曲が普通の中学生女子として好きだったんです。なので、結構影響は受けましたね。

ーー歌詞のテーマや元ネタは、普通に日常生活のあるものを題材にしていたんですか?

大塚:その頃、すごく馴染めない女の子がいたんですよ。中学に入って仲良くなったんですけど、ある日ぱったり話してくれなくなって、気づいたらひとりになっていたんです。中学生の頃って学校がすべてだったから、絶望感がすごかったんですよね。悲しい出来事が自分的にはいっぱいあったから、その捌け口が音楽になっていました。でも、書いている歌詞が直接そういうことを歌っているかというと、そうではなくて。自分がいる場所が苦しいから、抜け出したいという気持ちがめちゃくちゃ強くて、夢を見て中学を卒業したら音楽の道に進みたいと夢を見ていたから、「絶対にうまくいく!」とかそういう希望に満ちた未来を曲に書いていました(笑)。

ーーここまでお話を聞いて、非常に腑に落ちるものがありました。

大塚:えーっ! どういうところがですか?

ーーギタリストの書く曲とピアニストが書く曲って、やっぱり違いがありますよね。大塚さんというとギターのイメージが強いけど、デビュー作『アバンタイトル』の1曲目「フォトンベルト」を聴いたときに、これはギターで書いた曲じゃないなと気づいて。かつ、ギターロックとかJ-POPとかそういうジャンルにとらわれない、もっと普遍性の強い音楽を目指しているのかなと感じたんですよ。

大塚:おーっ、うれしい! 本当にそのとおりです。もともとはそういうことがやりたくて。わりとどんな音楽も好きだしどんなジャンルもやりたいというのがあって、1作目はいろんなジャンルの曲を書いてみて。だから、あのアルバムは書き方も使った楽器もまちまちで、「7月のPLAY」は完全にギターで作ったんですけど、「マーキング」は歌謡曲から引っ張ってきていますし、「フォトンベルト」も実はファンク的なシャッフルのリズムからのオマージュで、それをどうJ-POPに落とし込もうかという考え方をしたんですよ。ただ、そういうこだわりが音楽をやっている人や、音楽を理論的に理解している人にしか伝わらなかった。それが私の1作目における悔しかったことなんです。「なんで伝わらないんだろう?」とは思ったんですけど、今振り返ると伝わらなかったのも理解できる。それを踏まえて、2作目ではどんな人が聴いてもわかることがやりたかったんですよ。

 これは全部につながることですけど、人より優しいことがいいことではないし、人より頭が良いことが優れていることではない。すべてに対してそう思っていて、音楽に関してもイコールだなと。「田中さん」なんて〈田中さん〉と連呼してオモロいということは3歳の子にもわかるけど、自分の祖父にもオモロいと言ってもらえたことがかなり自信につながったんです。そういう誰にでもわかることが今回のテーマですね。

ーーそれが最初に話した「焦点が絞れている感」につながっているのかもしれないですね。

大塚:本当に削ぎ落としてこれになったんです。いろんなジャンルの曲を書ける強みとか、文学的な詩の書き方ができるとかライティング能力の強みをあえて捨てて、タイトルを見たらオモロい、みたいな。メロディとして優れていることと、聴き馴染みが良くて人が「いいよね」というメロディって、実は違うと思いません?

ーーはい、わかります。

大塚:音楽をやっている人が言う「良いメロディ」と、音楽という商品を売っている人が言う「良いメロディ」って全然違うんですよ。それが、例えば前者が100点だとして、後者が50点でも、大衆の正義という点では50点が正義になる。50点のほうが優れていないということが言いたいのではなく、その削ぎ落としたわかりやすさこそが人に伝わるものだったりするから、そういう能力を頑張って伸ばして、そこだけを使ってみたのが今作なんです。

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