吉田大八×錦戸亮『Music4Cinema』インタビュー 映像と音楽が渾然一体の作品『No Return』が生まれるまで

吉田大八×錦戸亮が生んだ“音楽×短編映画”

 Amazon Musicによる新企画『Music4Cinema』が、現在配信中だ。同プロジェクトは、4人の監督がオリジナルの脚本を1本ずつ執筆し、4組のアーティストがその脚本における映像作品にそれぞれ楽曲を書き下ろしていくというもの。短編映画でもありながら、楽曲においてはミュージックビデオとしての側面も持つこのコンテンツは、映像と音楽が渾然一体となった形で、我々に新しい刺激をもたらしてくれるに違いない。

 今回、同プロジェクトにて『No Return』と題した作品が生まれた。監督・脚本は『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞優秀監督賞などを受賞した吉田大八監督、主演・楽曲は、映画『羊の木』にて吉田監督と仕事を共にした錦戸亮が担当。一体、2人はどんな思いで1つの作品を生み出したのだろうか?(編集部)

“吉田大八が見たい錦戸亮”を当て書きした脚本

ーー「音楽×短編映画」という今回の企画のオファーを受けて、吉田監督はまずどんなことを考えたのでしょう?

吉田大八(以下、吉田):短編映画と音楽がセットということを聞いて、いわゆるストーリー仕立てのミュージックビデオと何が違うのか、少し迷いました。僕らが普段長編映画を撮りながら、あるいは撮ったあと、その最後に流れる“主題歌”を映画の内容に即して作ってもらうことがありますが、要するにそういう流れというか順番で短編映画と楽曲が出来上がる、という企画なんだと自分の中では理解して。

ーーなるほど。

吉田:尺は15分程度という話だったので、それならできるだけ密度や純度を高めたほうがいいなと思いながら、内容について考え始めたんです。今回の企画の場合、ストーリーを語るための主演俳優と、楽曲をお願いするミュージシャンが必要になるわけじゃないですか。そこで「あ、両方できる人をひとり知っているぞ」と思いついて。

ーー吉田監督の過去作で主役を演じた人に、ひとり音楽活動をやっている人がいるぞと(笑)。

吉田:そう、錦戸亮っていう人を、俺は知っていると(笑)。そのことは、今回の企画の話を聞いてすぐ思いつきました。錦戸くんに頼めたら、短編映画としても、楽曲としても、すごく良いバランスで成立させられるんじゃないかと思って。それで、彼に声を掛けさせてもらった感じですね。

ーーというオファーを受けて、錦戸さんはどんな反応を?

錦戸亮(以下、錦戸):今のお話にもあったように、『羊の木』で大八さんの作品に一回参加させていただいたことはあったんですけど、そのあとは特に仕事で絡んだことはなくて。たまに一緒にご飯に行くぐらいはあったんですけど、それ以外は特に何もなかったので、今回のお話をいただいたときは、すごく嬉しかったです。僕自身、ここ数年で環境がガラッと変わって……そもそも台詞っていうものを、全然言ってなかったんですよね。なので、絶対やりたいと思ったし、頑張ろうと思いました。

ーーかくして生み出されたショートフィルム『No Return』は、夢と現実ーーさらには過去と現在が交錯する作品になりましたが、このプロットはどんな発想から生まれていったのでしょう?

吉田:さっき話したように、最初からもう錦戸くんに頼もうと決めて脚本を書き始めたので、自然と彼のどういうお芝居が見たいとか、こういう状況に彼を置いたら、どんな表情するのかなとか、そんなことを楽しく想像しながら、あっという間に書けたんですよね。そういう意味では、もう完全に“当て書き”で書いたし、さっき彼も言っていましたけど、こっちも物語の中で台詞をしゃべって動く錦戸亮とはしばらくご無沙汰だったので、見たいものを好き勝手に脚本の中に入れていって。そもそも“夢”の話なので、もう何してもいいわけじゃないですか(笑)。

ーー(笑)。この作品は、錦戸さん演じる主人公が、後輩に「昨日見た夢の話」をするという導入になっていて。

吉田:だから、すごく自由だったんですよね。たとえば、関西弁でケンカする錦戸くんが見たいなとか、やっぱり楽器を演奏する錦戸くんが見たいなとか(笑)。『羊の木』のときも演奏するシーンはあったんですけど、最近サックスをやり始めたっていう話を聞いていたので、さっそく取り入れたり。そうやって、いろんな思いつきを片っ端から、書いていった感じですね。

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ーーその脚本を読んで、錦戸さんはどんな感想を……というか、今回の企画では、その最後に歌い上げる「ジンクス」という楽曲を、錦戸さん自身が書き下ろしていて。

錦戸:そうなんですよ。僕自身、そうやって何か物語だったり作品に向けて楽曲制作をすることを、実はこれまでやったことがなくて。だから、それにどこまで応えられるのか、自分がどこまでできるのか、正直わからないところがあったんですよね。いつもは自分が言いたいことだったり、そのとき思いついたことを歌にする形で曲を書いていたんですけど、その作品に溶け込むような曲にするには、どうしたらいいんやろうっていう。そこはすごく考えて、いろんな回り道をしながら書いていって。だから、今回書き下ろした「ジンクス」という曲は、自分の思いがどうこうというよりも、とにかく監督の求めるものに応えたいっていう気持ちが、いちばん大きかったかもしれないです。

ーーなるほど。かなり苦労した感じですか?

錦戸:そうですね(笑)。最初の原型みたいなところから言ったら、結局3カ月ぐらいかかったのかな? 細かくは覚えてないですけど、めちゃくちゃ時間がかかったんですよね。誰かに意見を仰ぎながら曲を作ることが、これまでほとんどなかったので。曲作りの最中に書いてみた歌詞を監督に投げて、「ここ、ちょっと違う言い回しできないかな?」って言われて、何度か書き直したり……そういうやり取りは、結構やりましたよね?

吉田:そうですね。僕のほうから、細かい直しを何度もお願いしちゃって。申し訳なかったです。

錦戸:いえいえ。歌詞の話だけではなく、演奏面に関しても、ちょっとしたアドバイスをいただいたりして。それは、僕にとってもすごく良い経験になったと思っています。

ーー今回のショートフィルム『No Return』は、“夢”の話ということもあり、どこか不穏な空気をまとった人物が次々登場して、錦戸さん演じる主人公をだんだん追い詰めていくようなところがあって……そういう意味では、かつて錦戸さんが主演した『羊の木』と、ちょっと共通するところがあるような気もしました。

吉田:そうですね。ちょっと意地悪したくなる感じがあるのかな(笑)。そういうのって、あとから指摘されがちなんですよね。こんなひどい目にあったって(笑)。

錦戸:いやいや(笑)。

吉田:でも今回、キャスティングはホントうまくいったと思っています。最初に言ったように、脈絡は置いておいていろんなシチュエーションを用意したかったので、割と強めな個性をお持ちの俳優さんたちに集まっていただきました。その人たちとの掛け合いの中で、またいい感じの錦戸くんの表情が見られるんじゃないかと思って。錦戸くん演じる主人公を追い詰めていく「教師」役を演じてくれた松浦祐也さんとは、以前から一度お仕事してみたかったので嬉しかったです。

ーー一昨年の映画『岬の兄妹』で強烈な印象を残した役者さんですよね。

吉田:「この役は、絶対松浦さんがいい!」と思って、途中からは彼に寄せて役を書いてました。英語とか歌とか、あえてムチャぶりすればするほど輝くタイプの人だと勝手に想像して。彼が錦戸くんのほうに近寄ってきて、そのままガラスに頭をぶつけるシーンがあるんですけど、あれは僕、指示してませんから(笑)。むしろ、ガラスが割れたらどうしようって、ドキドキしちゃって。『羊の木』で、お酒を飲んで人が変わったように暴れまわる役を演じてくれた水澤紳吾さんもそうだけど、なにかひとつ仕掛けてくる俳優。錦戸くんも、ビックリしたでしょ?

錦戸:ビックリしました(笑)。窓ガラスがしなりましたからね。

吉田:ああいう瞬間と出会えるのが、この仕事の醍醐味のひとつだと思っていて。ガラス越しの錦戸くんの驚いた表情も最高でしたから(笑)。

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ーー(笑)。そんな松浦さんをはじめ、植田紗々さん、樋井明日香さん、モクタールさんなど、今回の共演者の方々はいかがでしたか?

錦戸:松浦さんをはじめ、今回共演が初めての方ばかりだったんですけど、みなさんやさしかったです(笑)。松浦さんも、普段はめっちゃやさしかったというか、すごくやさしいしゃべり方をされる方で……ただ、いざ本番となると、何をするかわからない怖さみたいなものもありました。大八さんが好きそうな役者さんだなって思いました(笑)。

ーーそういう環境の中で、改めて「演じること」の楽しさを感じたり?

錦戸:いや、演技をしていて楽しいなというのは、正直まったくないかもしれないです。というか、楽しいと思いながら台詞を言ったことは、今まで一度もなくて……。

吉田:あ、そうなんだ(笑)。

錦戸:何でしょう……楽しいっていうのとは、ちょっと違うんですよね。それが繋がったものや、最終的にできあがったものに対してはいろいろ感じたりするんですけど、「この台詞を言っているとき、楽しかったな」っていうのは、まったくなくて。もちろん、そうやって台詞を言えるような環境に置いていただけるのは、すごく幸せなことですし、嬉しいとはいつも思っているんですけど。

ーー面白いですね。

錦戸:つい先日、ようやく今回の完成版ができあがったんですけど、それを観終わったときに、「ああ、面白いな」と思ったり。それについて今、こうやってお話をさせていただける状況はすごくありがたいことだと思っているんです。やっぱり観てくれる方々がいてくれるからこそ、すべて成立するものだと思っているんですよね。なので今回の作品も、早くみなさんに観ていただけたらと思っています。

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