ずっと真夜中でいいのに。はなぜこんなにも我々を魅了するのか? 『少年ジャンプ』編集部・高野健が独自の視点で徹底解説
ライブを見て触れることができた“ACAねの心”
ライブもぜひ一度観てほしい。直近の『CLEANING LABO「温れ落ち度」』は圧巻のステージだった。会場へ入ってまず、舞台セットの世界観の作り込みが目に入る。そこはマッドな研究室だった。巨大な洗濯機や電子レンジなどの電化製品が並び、不思議な液体が揃う空間の横で、ライブペインティングが行われていた。誰かを生き返らせようとでもしているのだろうか。壮大で優美で、儀式のような空間だった。
弦楽器隊の美しい旋律でライブが始まると、すぐに四つ打ちのドラムが体を揺らして、研究室は一気にディスコへと変化した。オープンリールや三味線など、普段のライブでは馴染みのない楽器がまた新しい表現を生み出していて幻想的だ。そしてバンドのクオリティがとにかく高い。歌も含めて衝撃的な上手さだった。
ただ、ライブに赴いたとて、やっぱりACAねさんは最後まで謎の人だった。絢爛で都会的な衣装を身に纏い、ひっきりなしに歌い続けて、少女のように小さく跳ねたと思ったら女王のように構えて君臨していた。そんな彼女がMC中に少しだけ心を見せてくれた。
「言い切った正義は嫌い。だから、それを研究していきたいし、考え続けていきたいです」
彼女の心に初めて触れた瞬間だった。そしてしばらく後に流れる名曲「MILABO」。スクリーンには曲タイトルが「MILABO」ではなく、「ME LABO」(私の研究室)とあった。ダンスチューンのこの曲は歌詞にも〈ミラーボール〉という言葉があるので、それゆえのタイトルだと思っていたが、本当はダブルミーニングだったのだ。彼女は自分の気持ちを知りたくて歌を歌っているのかもしれない。長く敷かれていた伏線が回収された気持ちで、漫画の最終回かと思った。なんという言葉遊び。ACAねさんは、ずっと真夜中でいいのに。という壮大なストーリーの作家だった。心の底から衝撃に震え、あっという間の2時間だった。
ここまで出し惜しみのないことをされると、そろそろネタが尽きてしまうのではないかと、今度はこっちが不安になることもある。漫画でも長期連載で人気を取り続けるのは至難の業だ。1話の票が良くても、人気を維持するのはそれ以上に難しい。アイデアを常に更新して出し続ける必要がある。だからこそ、いつかは来てしまうかもしれない終わりを想像してしまっていた。
だが、そんな考えは杞憂だったことをすぐ思い知らされる。6月には3作がリリースされ、彼らはその全てにおいて新しい一面を見せてくれた。映画『キャラクター』では、映画と同タイトルの主題歌「Character」にて、Rin音氏、Yaffle氏と見事なコラボレーション。今までにはなかったサウンドをACAねさんは歌いきった。新曲「あいつら全員同窓会」にはいつもの“ずとまよ”らしさがありつつも、ストリングスとキメの圧倒的な融合で新しい音像を見せてくれた。アニメーションスタジオ・MAPPAの10周年記念ムービーでも新曲「ばかじゃないのに」が採用され、先述の新しいアニメーター起用によって、曲だけにとどまらない「見たことない」演出をしてくれた。
ずっと真夜中でいいのに。は本当に尽きないバンドだ。無限に広がる空間の一部しか、我々は教えてもらえていないだけだった。これからもその世界の全てを理解することはないかもしれないが、だからこそ我々ファンは熱狂し続け、彼らの発する輝きを集めながら「ずっと真夜中」な場所を進んでいくんだと思う。
■高野健
1991年生まれ。大学院卒業後、2016年に株式会社集英社に入社。
第3編集部少年ジャンプに配属され『悪魔のメムメムちゃん』『鬼滅の刃』『ゆらぎ荘の幽奈さん』などのタイトルを担当し、現在は『ONE PIECE』を担当中。週刊少年ジャンプ内の音楽専門記事『ROCK THE JUMP』も担当している。
■リリース情報
ずっと真夜中でいいのに。「ばかじゃないのに」
7月4日(日)配信
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ずっと真夜中でいいのに。「あいつら全員同窓会」
6月18日(金)配信
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