乃木坂46 山崎怜奈が座長を務めた意義 “選抜/アンダー”の仕組みを再定義した『アンダーライブ2021』
以降もライブパフォーマンスの合間に、山崎をメインパーソナリティとしてラジオ番組風のVTRが入るが、彼女の平素のMC能力の安定感や配信ライブとのマッチングのよさも相まって、VTRとライブとが有機的に往還していく。
他方、セットリストにあらわれるのは、グループのもつ楽曲をいくつもの仕方でフレッシュに再提示していくような豊かさだった。
ここしばらく、ライブでの存在感を急速に増す中村麗乃がセンターに立った「Route246」では、このイレギュラーな位置づけのシングル楽曲をストレートに捉え直し、中村と同曲との好相性もあって、ほとんど「Route246」のもう一つのスタンダードといえるバランスに仕上がっていた。あるいは、3期メンバーの活動初年度に生まれた「僕の衝動」では、発表時同様に伊藤理々杏を中心にしながら、現在の3期の力強さをみせる。続く「Out of the blue」では、今度は2期メンバーが遊んでみせるように4期生楽曲の持つ陽性の魅力をあらためて示す。それぞれに、作品オリジナルとの距離感を自在に変えながら、グループとしての多様さを次々にうかがわせてゆく。
メンバー個々の表現力を際立たせるように、少人数による楽曲も効果的に配置される。鈴木絢音と寺田蘭世による「心のモノローグ」は、もちろんデュエット曲としての継承でもありつつ、先達の影を追うのではなく二人のもつカラーこそが強調され、作品として一新されていた。また「Route246」でのセンターに続いて中村がソロ歌唱を担う「硬い殻のように抱きしめたい」、そして伊藤純奈がボーカル、渡辺みり愛がダンスを担当してオリジナルとは大きく趣の違う世界を描いた「ショパンの嘘つき」などによって、随所に今日の乃木坂46が様々に保持している強靭さをみせる。これら柔軟な選曲とパフォーマンスもまた、「アンダーライブ」であるよりも、グループ総体としての豊潤さである。
ただし、特にライブ終盤では、間違いなくアンダーライブあるいはアンダーメンバーの歴史によってこそ実現した表現が色濃く現れる。「滑走路」から「日常」に至るアンダー曲の流れは現在の乃木坂46全体でも指折りのパワーを誇り、そこから「自惚れビーチ」に繋ぐ対照の妙も、アンダーとしての歩みをオーソドックスに追うことで生まれたものである。この本編終盤からアンコールで再度、伊藤純奈と渡辺みり愛をフィーチャーする「三角の空き地」「君が扇いでくれた」まで、アンダーライブゆえの強靭さと物語をみせるクライマックスになった。
それでもまた、山崎を中心にしてグループの象徴的楽曲のひとつ「乃木坂の詩」をもってアンコールを締めくくるとき、選抜/アンダーの二項を絶対視するのではない景色が立ち上がってくる。これまでの歩みを誇りながらも、その歴史が抱え込んだグループとしての形式を相対化するような問いかけがここにはある。山崎の実践を足掛かりに、ライブ自体の演出のみならずグループのあり方を省みる契機になった『アンダーライブ2021』。この成果が乃木坂46総体にいかにフィードバックされるのかは、長期的な組織のあり方としても重要であるはずだ。
■香月孝史(Twitter:https://twitter.com/t_katsuki)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。