小柳ゆき、10代での大ヒットと転機を語る サブスク全音源解禁インタビュー

小柳ゆき、10代での大ヒットを語る

 一昨年9月にデビュー20周年を迎えた小柳ゆきの全音源がついにサブスク解禁となった。1999年9月にリリースされロングセールスを記録したデビューシングル『あなたのキスを数えましょう〜You were mine〜』から昨年7月にリリースされた最新アルバム『SPHERE〜球宇宙〜』までのオリジナル楽曲に加え、ドナ・サマーやThe Stylesticsなどのカバー曲の配信がスタートした。リアルサウンドでは各サブスクリプションサービスでの配信開始を記念し、現役高校生の本格派シンガーとしてセンセーショナルなデビューを果たした彼女の20年間の歩みを振り返るとともに、彼女にとって転機となった楽曲について聞いた。(永堀アツオ)

世間の評価とのギャップを感じていた

ーーワーナー時代、ユニバーサル時代を含め、全音源がサブスク解禁となりました。

小柳ゆき(以下、小柳):サブスクで聴きたいっていう声をたくさんいただいていたので、とても嬉しいですね。ずっと応援してくださってきた方は、ちょっと振り返ることを忘れていた思い出とともにこっそりと聴いてもらいたいですし、新しい世代の方にも聴いてもらえたら嬉しいです。

ーー音楽の聴かれ方もこの20年間でかなり変わりましたよね。

小柳:そうですね。私はやっぱり、CDで聴いてもらう想定で作っているので、CDというかアルバム単位で聴いていただいた方が思いは全部伝わると思うんですけど、私自身もサブスクはよく使ってますし、そこで出会う楽曲も多いので、新しい出会いの場となったらいいなと思いますね。

ーーそれこそ、今、小柳さんのデビュー当時の年齢である17歳の高校生のリスナーが聴いたらどう感じるのかを聞いてみたいですね。小柳さん自身は一昨年9月にデビュー20周年を迎えましたが、どんな心境でしたか。

小柳:生まれ変わった感じがしましたね。これまでお世話になっていた事務所から独立して、自分のレーベルを立ち上げたことが非常に大きくて。いろいろと振り返って、今の自分に対してちょっと恥じたりする気持ちもあったし、今までありがたい場所にいたんだなとか、いろんなことにも気づいて。今まで経験させていただいたこと、積み重ねてきたことは自分の中にしっかりと置きながら、また一から作っていければいいな、ここから新たに歩んでいければいいなと思っていますね。

ーーワクワク感が強いですか。

小柳:いろいろな気持ちがない混ぜになっていますね。独立して違う環境になったことで、これまでにできなかったことが広がるなっていう期待感はあるし、その分、全部、自分の責任においてやらないといけないっていう覚悟とか、大変なことがあるのもわかってる。いろいろな気持ちがあるけど、今は、楽しいが勝ってますね。

ーー先ほど、「いろいろと振り返った」とありましたが、これまでを振り返って、どんな20年間でしたか。

小柳:自分では考えもつかないようなことや、進まなかった場所を経験させていただいてきて。自分自身がどういうものなのかを考えるきっかけになる機会を非常に与えていただいたので、ありがたい経験をさせていただいてきたなと感じてますね。

ーーデビュー曲「あなたのキスを数えましょう〜You were mine〜」はご自身にとってどんな曲となってますか。

小柳:自分自身にとって、“歌”はとても大切なもので、「あなたのキスを数えましょう〜You were mine〜」もすごく大切なものなんですね。うまく言えないんですけど……歌と曲が近しいところにあるというか。もうずっと付き合ってきたし、これからもずっと付き合っていく——絶対に離れない伴侶みたいなイメージなんですよね。その付き合いかたというか、距離感が歌うたびに違っていて。順調な時もあれば、そんなところで暴れるの? っていう時もあるんですよ。だから、歌と曲の距離感を常に計りながら、その時々で感じているものが如実に出る曲だなと思っていますね。

ーーいつでも帰れるホームのようでもありますか?

小柳:いや、郷愁みたいなものはないです。離れることなく、ずっと付き合ってきてるから。

ーーもう歌いたくないと思ったことはない?

小柳:伴侶みたいなものだとしたら、何回でも別れたい、みたいなことはありましたね(笑)。

ーーそれでも歌うことをやめなかったのはどうしてだと思いますか。

小柳:やっぱり好きだからじゃないですかね。それ以外はないですよね。

【公式】小柳ゆき「あなたのキスを数えましょう~You were mine~」(MV) YUKI KOYANAGI /Anatano Kiss Wo Kazoemashou (1stシングル)

ーーシンプルだけど強い言葉ですね。では、当時、デビュー曲でロングヒットを記録したことはどう感じてましたか。

小柳:当時はほとんど夢を見ているような感じでしたね。例えば、私に対して、「17歳の女子高生がすごく歌がうまい」っておっしゃっていただいたりしていたんですけど、世間の評価とのギャップは感じていて。まだ17歳だし、自分に足りないことの多さに気付いていて。世間が抱いてくれているイメージに自分が追いついていないのが怖かったっていうのはあると思います。

ーー冷静に状況を見ていたんですね。でも、華奢な身体から放たれる歌声にはすごい迫力を感じてましたよ。歌声というか、肉体ひとつで世界観を作っていく、まるでアスリートのようだな、と。

小柳:ありがとうございます。私も若さ特有のイケイケな感じというか、本当に気持ちだけでいけるところもあったと思うんですけど、やっぱり、今よりもできないことが多くて。今もできること/できないことがあるので、いつ追いつけるのかなと思いながらやってますね。

ーーデビューの翌年には高校を卒業して、カヴァーアルバム『Koyanagi the Covers PRODUCT 1』とオリジナルアルバム『EXPANSION』でオリコン週間アルバムチャートの1位を獲得し、『NHK紅白歌合戦』にも出場しました。10代で特に印象に残っている出来事はなんですか。

小柳:全てが刺激的ではあったんですけど、やっぱり全国ツアーですかね。私は自分が小学校5年生から歌を練習し始めたんですけど、歌手になるって決めたのは、渡辺美里さんの西武球場ライブの映像を見たことがきっかけだったんですね。スタジアムではやれてないんですけど、こういうふうになりたいと思った夢のひとつが実現したというか。

ーーさいたまスーパーアリーナで歌ってますからね。

小柳:自分のツアーで、ワンマンライブで歌えるようになったっていうのが大きかったと思います。ただ、夢が叶ったという気持ちもありつつも、ずっと何かに追われているような感覚も持っていて。大感動で10代を駆け抜けたっていう、いわゆる夢が叶ったストーリーみたいなことになってないかもしれないです。

ーーどんなストーリーですか。

小柳:必死だったっていうのはあると思うんですけど、自分の経験がそこまで足りなかったところもあって。当時、たくさん見にきていただいたお客さんたちに本当に満足して帰っていただけたのかなって感じていて。美里さんのライブは、お客さんみんなを巻き込んでいるし、すごくカッコよかったんですよね。そこには到達できていないということを自分で感じながら歌っていたと思います。嬉しいなと思うのと同時に、そこでもギャップを感じて帰っていたかもしれない。

ーー常に現状に満足することはないんですね。そんな小柳さんにとって、転機になった楽曲を何曲かあげていただけますか。

小柳:7枚目のアルバム『SUNRISE』(2007年発表)のリード曲「Sunrise」かな。アルバム自体、取り繕うような自分の膜をひとつ、破ったイメージがあるんですね。なんというか、剥き出しの思いというか。聴いて、心地よいというよりは、しんどく感じてしまう方もいらっしゃるかもしれないんですけど、自分の転機にはなってますね。それまでは、とにかく武装をしてきていて。全くのナチュラルと言えるかどうかはわからないんですけど、かなり武装度が高かったところから、ひとつ武装をとった。その第一歩かなと思います。

ーーワーナーイヤーズ(1999〜2007年)の最後のアルバムですよね。武装時代からも1曲もらえますか。

小柳:あははははは。同時発売だった7thシングル『beautiful world』と8thシングル『DEEP DEEP』から11thシングル『HIT ON』(全て2001年リリース)までは最高潮に武装してますね。

【公式】小柳ゆき「beautiful world」(MV) YUKI KOYANAGI (7thシングル)
【公式】小柳ゆき「HIT ON」(MV) YUKI KOYANAGI (11thシングル)

ーー「DEEP DEEP」のトラックは今聴いてもカッコいいです。

小柳:そうですよね。夏に向けて、熱いものを込めたラテンハウス調の曲を作りたいねっていう話から作ったと記憶してて。今もライブで歌ったりしますし、これからの季節には合うんじゃないかなと思いますね。私もこの曲、好きです。

【公式】小柳ゆき「DEEP DEEP(MUV the HOUSE MIX)」(MV) YUKI KOYANAGI (8thシングル)

ーー武装というのはどういうニュアンスですか。

小柳:なんというか、小柳ゆきはこうあるべきだ/こうじゃないといけないっていうところに持っていこうとするんだけれども、それが本当に合ってる感覚なのかどうかもわからないまま走っていた感じですね。

ーーそのくらい「あなたのキスを数えましょう〜You were mine〜」と「愛情」の印象が強烈だったから。

小柳:そうですね。デビュー曲の印象は大きかったと思います。でも、一体何が自分らしいのかがわからなくなっちゃって。ただ、今でも9thシングル「my all…」や10thシングル「remain〜心の鍵」もすごく好きなんですよ。当時も変わらないと思うんですけど、曲の中での感情の波みたいなものを、そんなに考えずとも肌でガツッと感じてもらえるようなことは、気をつけて歌っていて。バラードを歌って、言葉を伝えることはとっても好きなので、今でも歌っていて楽しいですね。

【公式】小柳ゆき「愛情」(MV) YUKI KOYANAGI/Aijyo 【4thシングル(両A面)】

ーーそれはこの20年でも変わってないことですよね。

小柳:そうですね。そこの部分は変わらなくて。逆に変わったところで言うと、聴いてくれる方たちに寄り添えることに重きを置くようになりました。以前は、楽曲に感情を詰め込んでっていうところがあったんですけど、寄り添えればいいなという思いになってますね。

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